イスラム圏諸国は早く手を打つ必要がある

暴力を拡散させないためには、イスラム世界の国が一刻も早く何らかの手を打って、イスラエルの攻撃を抑止しなければならない。昔なら、アラブの連帯と言われて、こういう危機の際に乗り出すのは同じ民族のアラブ諸国だった。だが、アラブ諸国がパレスチナのために戦争したのも、イスラエルの同盟国を懲らしめるために石油戦略を発動したのも、50年前が最後である。民族主義による連帯の時代は終わった。

今、イスラエルとその同盟国に対して何らかの措置を講じるべきは、イスラム圏の諸国である。もちろん、アラブ諸国もイスラム圏に含まれるのだが、パレスチナのために動く気があるなら、半世紀も事態を放置しなかっただろう。

他のイスラム諸国も似たようなものだったのだが、状況は変わってきた。2000年代以降、トルコで民主的なプロセスの中で再イスラム化が進んできたのと同じように、アジアでも、マレーシアやインドネシアのように、民主主義の枠の中でイスラムの価値を重視する国が少しずつ増えていった。

トルコがイスラエル批判に動いた理由

ガザの衝突が始まって以来、トルコのエルドアン大統領は舌鋒鋭くイスラエルのネタニヤフ首相を攻撃している。ムスリム世界でもっとも明確にガザの惨状を人道危機と主張し、打開のために、負傷者や重傷者をエジプト経由でトルコに連れてきて治療を受けさせている。

2024年の1月、オランダのハーグにある国際司法裁判所では、イスラエルによるジェノサイドが審理された。提訴したのは南アフリカである。この提訴については本書の対談と三牧氏による終章で詳しく取り上げている。トルコ、マレーシア、インドネシアなどはいずれも、南アフリカの提訴を支持した。イスラエルの側に立った国で目立ったのはドイツだった。

イスラム圏諸国は動かないわけにはいかない。国内のムスリムが、「口先だけで何もしないじゃないか」という批判を自国の政府に向けるからである。