日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収に、バイデン大統領、トランプ前大統領が反対している。カリフォルニア大学バークレー校のスティーブン・ヴォーゲル教授は「今年11月に大統領選を控え、政治問題になりつつある。とりわけ、日米関係を損ねたくないバイデン大統領にとって厄介な問題だ」という――。(前編/全2回)(取材・文=NY在住ジャーナリスト・肥田美佐子)
2017年5月28日、テキサス州ヒューストンにあるUSスチールが入居する施設の外にあるロゴ看板。
写真=Sipa USA/時事通信フォト
2017年5月28日、テキサス州ヒューストンにあるUSスチールが入居する施設の外にあるロゴ看板。

牛肉・オレンジ自由化を想起させるUSスチール買収

――日本では、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収問題が大きな話題になっています。米国でも報じられていますが、注目度は日本のほうがはるかに高いです。トランプ前大統領が買収に強く反対しているだけでなく、バイデン大統領も難色を示しているからです。両氏の反応について、どう思いますか。

USスチール買収が米国より日本で注目されている――まさに、そのとおりだ。そうした状況を考えるにつけ思い出されるのが、アメリカ産牛肉・オレンジ輸入自由化をめぐる日米貿易摩擦だ。

オンラインでインタビューに応じるヴォーゲル教授
オンラインでインタビューに応じるヴォーゲル教授

40年余り前の話だが、1980年代前半にまだ私が大学生だった頃、サマーインターンとして、アメリカ産牛肉・オレンジ輸入自由化に関する米議会の公聴会に出たときのことだ。ある米連邦(下院)議員が、「日本人はアメリカ産の牛肉やオレンジを買おうとしない。ひどい話だ」といった発言をした。

すると翌日、日本の新聞がこぞって一面で、「アメリカ人がジャパンバッシング(日本たたき)をしている!」といった論調で報じた。だが、どの報道も事実が歪曲されていた。私自身がその場にいただけに、記事を読んで、そう感じた。

というのも、公聴会は、ある常任委員会の委員長など、ごく少数の出席者のみで、傍聴人も1人だけだったからだ。一方、多くの日本人記者が取材に来ており、出席者や傍聴人の数をはるかに上回っていた。

このエピソードは実に重要な問題をはらんでいる。それは、メディアには、アメリカの政治を日本の聴衆に正しく伝える責任があるということだ。「正しく」という意味には、特定の問題について、その重要性を誇張したり大げさに報じたりしないことが含まれる。米議員はアメリカの有権者や農家、畜産業者に「私はあなたたちの味方ですよ」というメッセージを発していただけだ。