日本は1980~90年代にかけ、ゲノム(遺伝子)研究で世界のトップを走っていた。しかし今は研究力が低下し、医療検査の開発などで海外の技術に頼らざるを得なくなっている。なぜこんなことになったのか。理学博士でゲノムベンチャー「バリノス(Varinos)」CEOの桜庭喜行さん(51歳)に聞いた――。(聞き手・構成=ジャーナリスト・知野恵子)
理学博士でゲノムベンチャー「バリノス(Varinos)」CEOの桜庭喜行さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
理学博士でゲノムベンチャー「バリノス(Varinos)」CEOの桜庭喜行さん

「ヒトゲノム計画」で遺伝子分野に興味をもった

――桜庭さんは研究者を経て、ビジネスの世界へ入り、6年前にゲノム(遺伝子)ベンチャーの「バリノス(Varinos)」を立ち上げました。ゲノムに関心を抱いたきっかけは何ですか。

医学部を目指していましたが、ちょうどその頃、人間の全DNAの配列を解析するヒトゲノム計画()が始まりました。

※ヒトゲノム計画:生命の設計図であるDNAの配列を解析する国際プロジェクト。米国の提唱によって1990年に国際協力で開始。2003年に解読終了が発表された。

「解析に20年はかかるが、未来の人類の健康に必ず貢献する」という記事を読み、自分のやりたいのは研究であり、医学部より理学部が向いていると考え、理学部へ進みました。

――ゲノム計画が始まった当時、日本は世界の先頭を走っていました。ところが研究予算配分などで揉め、2003年の解読終了時には、日本の存在感がすっかり薄くなっていました。

確かにその通りですが、日本もヒトゲノム計画に参加し、わずかな部分とはいえ、国際貢献したことは評価されるべきだと思います。

ヒトゲノム解析は道路のような基盤技術です。解析するだけではお金を生みませんが、道路があれば、流通が発達したり、人が住むようになったりします。僕の会社の技術も、ヒトゲノム計画の成果があったからできました。

なぜ日本はゲノムでも勝てなくなったのか

――ヒトゲノム研究は、医療、食品などさまざまな分野で技術革新へつながる可能性を持っています。今の日本のゲノムベンチャーの状況をどう見ますか。

僕たちがやっているのは、ゲノムの中でも、子宮内の細菌「子宮内フローラ」検査です。ゲノム解析で子宮内の細菌を検出し、不妊治療などの診断につなげるものです。自社で検査技術を開発しました。その視点で見ると、この分野の日本のベンチャーはまったく発展していません。

ゲノム検査を手掛ける会社自体は増えましたが、出来合いの検査キットを利用したり、海外の技術を移転したりしており、自社で技術開発をしているところはほぼありません。このため、お金も検査データも全部、海外へ流れて行ってしまってます。

――日本の医療の抱える大きな問題ですね。心臓ペースメーカーなどでも同じような構造があります。なぜ、こういう事態になるのでしょうか。

海外ではゲノム検査の会社がどんどん生まれるのに日本はそうなっていません。日本の研究レベルは米国と変わらないのに、研究とビジネスをつなぐ人が少ないからです。留学先の米国で目の当たりにし、自分でビジネスをやるしかないと思うようになりました。