風疹ワクチン同様に男女ともに接種を

以前、日本以外の国では男児もHPVワクチンを接種していることが話題になった際、Twitter(現X)で「子宮のない人に子宮頸がんワクチンを打つなんてナンセンスだ」という発言を見かけました。ヒトパピローマウイルスが子宮頚がんしか起こさないと誤解しているようでした。

実際には、前述のように子宮頚がん以外の病気の原因にもなります。また、人が集団で生活している現代社会では、互いに感染症を移し合うものです。ウイルスも細菌も、男女も幼若も問わずに生き物の間を渡っていきます。粘膜に接触するような機会があれば、誰でもHPVウイルスを媒介しかねません。HPVワクチンの接種対象を女性だけにしたのは、風疹ワクチンの接種開始時と同じ轍を踏んでしまっていると私は考えます。

以前、日本は当初のイギリスにならい、風疹ワクチンを女性にしか接種しませんでした。風疹は、まれに脳炎や血小板減少性紫斑病を起こすものの、重篤になることが少ない感染症です。ただし、妊娠中に風疹にかかると胎児が目や心臓、脳などに障害を負う「先天性風疹症候群」になるリスクがあるため、女性だけがワクチンをすればいいと考えられていました。しかし、どんなワクチンも感染を完全に防ぐことはできず、ウイルスが蔓延して接する機会が多いと、ワクチンを受けていても感染します。そのため日本では、男女とも1歳になったら風疹ワクチンを接種するアメリカ方式に変えたのです。

【図表】ワクチンを受けている人が多い集団(左)と受けていない人が多い集団(右)
左の図のようにワクチンを受けている人が多い集団では、受けていない一部の人も感染から守られます。右のようにワクチンを受けている人が少ない集団では、ワクチンを受けていても感染しやすくなることがあります。

男性にとってもHPVワクチンは有益

さらにヨーロッパ、北アメリカ、サハラ以南のアフリカ、ラテンアメリカとカリブ海、オーストラリアとニュージーランド、東アジアと東南アジアから35カ国65件の論文のメタ解析によると、HPV感染リスクの高くない15歳以上の一般男性において、男性の3人に1人はたくさんあるHPVワクチン型のいずれかに感染していて、しかも5人に1人は高リスク型のHPVに感染していることがわかりました(※1)。肛門がんの約80〜90%にHPV感染が関与しているというデータがあったり、HPV感染による尖圭コンジローマを繰り返しているうちに陰茎がんに進行して切除術を受けざるを得ないというケースもあります(※2)

ですから、男性にとっても、HPVワクチンを接種することはパートナーや子どもだけでなく、自身を守ることにも繋がります。日本以外では、すでに国が助成して男女ともに公費でHPVワクチンを接種している国も50カ国あります。なお、男性のHPVワクチン接種率が高い国は、オーストラリア78.8%、イギリス77.5%、カナダ73.0%などです(※3)

HPVワクチンを男女ともに定期接種にするという世界的な流れには、こういった背景もあります。市区町村の助成が出る、あるいは定期接種になるということは、お子さんの病気を予防する選択肢が増える、ワクチンを受ける権利が得られるということです。ワクチン接種は義務ではありません。でも、お子さんの生涯にわたっての健康のために、ぜひ知っておいてくださいね。

※1 Global and regional estimates of genital human papillomavirus prevalence among men: a systematic review and meta-analysis
※2 Prevalence of human papillomavirus in oropharyngeal cancer: a multicenter study in Japan
※3 Medical Tribune 男性へのHPVワクチン、啓発のポイントは?|腎・泌尿器|がん