子供の成長を助けるにはどうすればいいのか。文教大学教育学部の成田奈緒子教授と公認心理師の上岡勇二さんの共著『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(SB新書)から、子供に「おだちん」を与えてはいけない理由を紹介する――。
お金
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです

子供に報酬を与えるのは絶対にNG

買ってくれるって言ったじゃん! ナオト(中2)
勉強嫌いのナオト。そこで、親がモチベーションが上がるようにと考えたのが「テストで80点以上取ったら、ほしい物を買ってあげる」ということ。ナオトは80点以上を取るために勉強をするようになりました。
しかし、80点以上を取る度に買わなければならないので、「ほしい物」はどんどん高額に。今度は、ハイスペックのスマホがほしいと言い始めました。
「値段が高過ぎて無理」と言う母親に、「買ってくれるって言ったじゃん!」と暴れ始めたナオト。母親は突き飛ばされてしまいました。

子ども 「新しく出たゲームほしいんだよね~」
親 「じゃあ、次のテストでいい点を取ったら買ってあげるよ」
子ども 「やった! よーし、勉強頑張るぞ!」
親 「頑張ってね。期待してるわよ!」

一見、ほのぼのとした家庭での1コマのように見えます。実際、このような言葉のやりとりをしているご家庭は結構多いのではないでしょうか。

確かに、子どもは勉強を頑張るようにはなるかもしれませんが、このように「テストでいい点数を取る」などの交換条件を示して、報酬を与えることは絶対にNGです。子どもの脳の発達を大きく妨げてしまいます。

勉強はあくまで個人の活動であり、「家庭生活」ではありません。ましてや「ほしい物を親に買ってもらう」ためにするものではなく、自分のために「したいのなら」勝手にするものです。

テストの点数が悪くて、「勉強をしなくては」と思うか、「別にいいや」と思うかは、すべて子ども自身が判断すべき。何度も言うように、親は学校や塾などの社会の評価を家庭生活の「軸」として持ち込んではなりません。

「モノで釣る」より、「ありがとう」がいい

親が注力して整えるべきなのは、規則正しい家庭生活の環境です。

子どもに早寝早起きの習慣づけをさせて、まずは「からだの脳」(間脳・脳幹)をしっかり育てていく。次に、言葉を中心にしたさまざまなコミュニケーションを通じて、「おりこうさんの脳」(大脳新皮質)と「こころの脳」(前頭葉と間脳・脳幹をつなげる神経回路)を育てていく。それが子どもの脳を育てるということです。

テストでいい点数を取って「もらう」ために、親が子どもを「モノで釣る」ことは、勉強というものに対する考え方のミスリードにつながりかねません。その結果、子どもの脳育ての阻害要因にもなりうる「ブレブレ」の行為です。このような交換条件を成立させてはいけません。

「テストで80点以上を取る=ほしい物を買ってもらえる」というルールを決めてしまうと、子どもは「ほしい物を買ってもらう」だけのために、勉強をするようになってしまいます。前頭葉の最も大切な機能である「見えないもの」を報酬と考えて「頑張る」(たとえば、自分の将来のキャリアアップのために努力して資格試験を受ける)という機能の発達を阻害するだけです。