ブルームバーグ、ロックフェラーも投資

レポートには、年間6億ドルを投資すれば、2030年までに全世界で110億トンのCO2を削減でき、地球の温度の上昇を2度以下に抑えられるということが明記された。さらに、温暖化対策をいかにして政治案件とし、国民の間に社会問題として定着させることができるか、あるいは、米国、EU、中国、インドなど、地域に特化した対策の形はどうあるべきかなどが提示された。いずれにせよ、ここで遠大な脱炭素計画にスイッチが入り、このレポートが世界のマスタープランとなったのだ。

翌2008年、ヨーロッパでこれらのプランを実行に移すため、オランダのデン・ハーグに欧州気候基金が設立された。出資者は、米国のヒューレットとパッカード両財団、ブルームバーグ、ロックフェラー、イケア財団、ドイツのメルカトル財団など。

支部は間もなくベルリン、ブリュッセル、ロンドン、パリ、ワルシャワへと拡大し、頂点にはそれぞれ、ヨーロッパの選り抜きのトップマネージャーや元政治家が、莫大ばくだいな報酬で引き抜かれて就任した。現在、ヨーロッパで脱炭素やエネルギー転換を謳うNGOのほとんどは、この欧州気候基金か、もう一つの巨大財団であるメルカトル財団のどちらかから、あるいは、その両方から援助を受けている。

脱炭素の旗を掲げて皆が群がってくる

ただ、ヨーロッパでの気候政策に本当の弾みがついたのは、福島第一原発の事故の後だという。ようやく機は熟した。脱炭素の青写真を世界中に広めるのは今だ。政界、産業界、財界への浸透、新しいテクノロジーとアイデアの実践。成功は、強力な資金を持つ自分たちの手の内にあると、彼ら「Change Agents」(変革の推進者)は確信したのだろう。

以来、時は流れ、変革はその設計図どおりに進んでいる。2019年一年で、欧州気候基金とメルカトル財団が、脱炭素につながる活動をしているNGOやシンクタンクに拠出した補助金は4220万ユーロ(約54.9億円)。ちなみに、メルカトル財団の資本金は、2019年の決算報告によれば1億1650万ユーロ(約151億5000万円)。こうなると皆が、脱炭素の旗を掲げて群がってくる。

ユーロ紙幣
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一方、この輪の中に入らず、中立な立場を維持したい研究所は、当然のことながら苦戦を強いられている。例えば、RWIのライプニッツ経済研究所は、エネルギー転換政策は、貧困層から富裕層への資本移転になると警告した。