死ぬまで元気でいるためには何をしたらいいのか。世界65カ国以上の台所で学んだ料理研究家の荻野恭子さんは、「ちょっとしんどいな、というときにも無理せず続けられるやり方で、食べたいものをつくり続けることが大事」という――。

※本稿は、荻野恭子『生涯現役! 引き算レシピ』(女子栄養大学出版部)の一部を再編集したものです。

料理は日常生活で最高の脳トレ

「料理は脳を刺激します」と、92歳の現在も現役で教鞭をとられる、女子栄養大学副学長の香川靖雄先生も言っておられます。

何を食べたいか、家に材料はあるか、何を買わなくてはいけないか、から始まり、段取りをして手足を使う。料理をつくることが脳トレにならないわけはありません。

夕方、スーパーに行くと、お惣菜やお弁当を買い込んでいるシニアの方をちょくちょく見かけます。料理をするのが面倒なのでしょうか……。材料を最小限に絞り、つくる工程もシンプルにすればハードルがグッと下がるのではないかしら。死ぬまで元気でいるためにも、なんとか料理をつくって欲しい。そんな思いから「主材料は3つ、3ステップでできるレシピを考える」と自分に課しました。

ところが、試作を始めるや否や壁にぶち当たってしまったのです。

荻野恭子『生涯現役! 引き算レシピ』(女子栄養大学出版部)
荻野恭子『生涯現役! 引き算レシピ』(女子栄養大学出版部)

使う食材の種類を減らすと、今まで塩だけで味が決まっていた料理が、旨味の少ない、インパクトに欠ける味になってしまうではありませんか。かといってだし汁やスープの素は使いたくないし、調味料も増やしたくない……。悩みは膨れるばかり。そんなときに思い出したのは、いろいろな国を訪ね歩いて習った家庭料理のこと。

どの国でも毎日のおかずに特別な材料や調味料を使ったりはしません。「あるものでつくる」が基本です。材料の組み合わせ方や塩の使い方、ねぎ、生姜の活用や、カレー粉を加えるタイミングに至るまで、各国で見聞きしてきたコツを自分の料理に重ねてみました。

結果は大成功。それらの家庭料理は実に合理的でもあり、「手間」の引き算にも大いに役立ちました。

調味料
写真=原ヒデトシ
調味料も最小限に。使うのは、しょうゆ、塩、こしょう、油類などの基本調味料のみで、みりんや酒、だしも使いません。

材料を3つに絞れば、財布も守れる

実は、それに加えて「お財布にやさしい」という隠しテーマも自分に課していました。物価高に悩まされる昨今、生活を守るために有効なレシピをつくらなくてはならないと思ったのです。私は自宅近くの大型スーパーで買い物をしていますが、皆さんが普通に買っている食材を改めて観察し、値段をチェックしてそれぞれの料理に使う3つの材料を選び出しました。

レジに向かう心は軽やか。少ない材料で簡単に出来上がる。おいしい幸せがすぐにやってくる。こうなればシニアだけでなく、子育てに奮闘するお母さんたちや、忙しく働く方々のお役にも立てるのではないかと思っています。

余談ですが、悩んだり、考え込んだりしながらのレシピづくりは、私にとって「最高の脳トレ」になったことは言うまでもありません!(レシピに続く)

春休みの昼ごはん問題も解決!

働く親が頭を悩ませる「春休みのお昼ごはん」がやってきます。

1皿で完成する昼ごはんに、大人も子供も大好きなツナのペンネ(ショートパスタ)がおすすめです。スパゲッティのように別鍋で茹でずにそのまま投入するレシピだから、鍋一つで手軽につくれます。順番に鍋に加えていくだけで、おいしいお昼ごはんが出来上がり。子供用ならば、赤とうがらし抜きでもおいしくできますよ。

材料だけ準備して、あとは子供たちに任せてみては。子供たちも気合いが入るはず!

ツナとトマトのペンネ
材料(2人分)
●ペンネ……120g
●ツナ水煮缶……1缶(80g)
●カットトマト缶……1/2缶(200g)
にんにくの粗いみじん切り……1かけ分
赤とうがらしの小口切り……1本分
塩……小さじ1/2
オリーブ油……大さじ2
水……11/2カップ

1
深めのフライパンにオリーブ油、にんにく、赤とうがらしを入れて弱火にかけ、香りを出す。

深めのフライパンにオリーブ油、にんにく、赤とうがらしを入れて弱火にかけ、香りを出す

2
ツナを缶汁ごと加え、カットトマト、水、ペンネを入れ、ふたをして弱めの中火で10分煮る。

ツナを缶汁ごと加え、カットトマト、水、ペンネを入れ、ふたをして弱めの中火で10分煮る

3
塩を加えて調味する。

塩を加えて調味する
ツナとトマトのペンネ
ペンネはゆでずにそのまま加えて手間と時間を大幅カット。仕上げを豪華にするなら、パルミジャーノ・レッジャーノチーズやちぎったバジル、パセリのみじん切りをふっても。[出所=『生涯現役! 引き算レシピ』(女子栄養大学出版部)]

しんどいときは座って料理してもいいんです

「料理は立ってする」って決まっているわけではありません。私は海外の家庭を訪ね歩きましたが、座って料理をしている国もありましたよ。

母が85歳を過ぎた頃、料理をするのがしんどくなってきたと打ち明けられたことがありました。

「お母さん、料理をやめちゃったらボケちゃうよ」と私は母に返しました。そして、座って料理をしたらどうかと提案しました。なんとか料理を続けてほしかったからです。母はそれから座って卓上で料理をするようになり、自分の食べたいものを自分で作り続けました。

ちょっとしんどいな、とか、毎日いろいろありますよね。そんなときは座って作ってみてください。無理せずに、長く料理をし続けることが大切だと思っています。

調理器具
写真=原ヒデトシ
包丁はペティナイフ、まな板はチーズトレイなど小さなものが断然使いやすくておすすめ。キッチンバサミ、ピーラーならばまな板も使わずに切ったりスライスしたりできるので便利です。
ホットドッグ
材料(2人分)
●ホットドッグ用パン……4本(1人分2本)
●ウインナソーセージ……4本(80g)
●レタス……2枚
バター……大さじ1
トマトケチャップ……大さじ2
カレー粉……小さじ1/2

1
パンの上面に切り目を入れてバターを塗る。レタスはせん切りにする。

パンの上面に切り目を入れてバターを塗る

2
ソーセージに斜めの切り目を数本ずつ入れる。

ソーセージに斜めの切り目を数本ずつ入れる

3
パンにレタス、ソーセージをはさみ、トマトケチャップをかけ、カレー粉をふってオーブントースターやグリルで香ばしく焼く。

パンにレタス、ソーセージをはさみ、トマトケチャップをかけ、カレー粉をふってオーブントースターやグリルで香ばしく焼く
ホットドッグ
仕上げのトマトケチャップに少量のカレー粉をふっただけで、ドイツのファストフード「カレーブルスト」の味わいになるのが新鮮です。[出所=『生涯現役! 引き算レシピ』(女子栄養大学出版部)]

ポリ袋で「もみもみ」は格好の脳トレ

「もみもみ」とは、材料と調味料をポリ袋に入れてもみもみするだけの調理テク。

最初は大きく振るようにしてもみもみ。次は空気を抜いてしっかりもみもみ。素材によってやさしく、強く。手で感じながらの作業はシニアにとっては格好の脳トレです。

子供たちなら、粘土遊びさながらのワクワクが体験できそう。食材の感触を手で確かめながら作業したらおかずができた、となれば喜びはひとしおです。ぜひ、親子でもみもみに挑戦してみてください。

もみもみでつくる野菜の副菜
写真=原ヒデトシ
もみもみでつくる野菜の副菜は、野菜不足解消だけでなく、献立づくりに重宝します。いくつかまとめてつくってストックしておくと便利です。また、もみもみはハンバーグや肉団子のたねづくりにもおすすめ。ボウルを使わずにできるから、ベタベタの脂汚れを洗う手間が省けます。

もみもみに必要なものは、破れにくいポリ袋や、ジッパーつきの保存袋。私は「アイラップ」(岩谷マテリアル株式会社)を愛用しています。

にら玉チャーハン
材料(2人分)
●ごはん……300g
●卵……2個
●にら……1/3束(35g)
ナンプラー……大さじ1
塩・砂糖・こしょう……各少量
油……大さじ1

1
にらは細かく切る。ポリ袋に卵、調味料を入れ、もみもみしほぐして混ぜてからごはんを加え、さらにもみもみする。

ポリ袋に卵、調味料を入れ、もみもみしほぐして混ぜてからごはんを加え、さらにもみもみする

2
油を中火で熱してポリ袋の底を切って中身を入れ、パラパラになるまで混ぜながらいためる。

油を中火で熱してポリ袋の底を切って中身を入れ、パラパラになるまで混ぜながらいためる

3
にらを加えて混ぜながらさっといためる。

にらを加えて混ぜながらさっといためる
にら玉チャーハン
「もみもみテク」はチャーハンづくりにも活躍します。ご飯に卵をなじませてから炒めると、苦労なくパラパラに。味の決め手はナムプラー。魚由来の旨みでコクたっぷり、味わい深くなります。[出所=『生涯現役! 引き算レシピ』(女子栄養大学出版部)]