※本稿は、三上ナナエ著『あらゆるタイプのお客様に選ばれる 一生使える「接客サービス」の教科書』(大和出版)の一部を再編集したものです。
怒鳴ってくるお客様には聴く姿勢を
性格によって変わる対応法
接客業をしていると、いろんなタイプのお客様がいらっしゃることに気づきます。
タイプによって、大事にされているポイントはそれぞれ違います。クレームの場面でも、タイプに合わせて大事にしている部分を踏まえた応対が求められます。
以下に、お客様のタイプに応じた対応のヒントをあげてみたいと思います。
1 激怒するタイプ
エネルギー量が大きく、大声で怒鳴って怒りをダイレクトに表現するタイプの方です。
正義感が強く、人情家である場合も多いです。
こういった方が怒っている時に、口を挟むことはご法度です。
まずは、真摯にしっかりと話を聴く姿勢を表現しましょう。売り言葉に買い言葉で喧嘩腰になったり、怯えた姿を見せたりすると、逆に相手は自分が責められているように感じます。真摯に真っ直ぐに向き合いながら、「おっしゃっていただいてありがとうございます」とご指摘への感謝の気持ちを伝えていきましょう。
「~ということですね」と話を整理する
2 思い込みの激しいタイプ
自分が「こうだ」と強く思い込んで、感情的に表現するタイプの方です。
時に話が矛盾して、二転三転することもよくあります。そのため、途中で少し交通整理をしながら聴いていくことが大切です。説明の途中で「〜ということですね」と話を整理して、一歩ずつ話をかためていきましょう。
こちらが説明しても、「でもね」と話をひっくり返され堂々巡りになる場合、つい「先ほども申しましたが……」と言ってしまいそうになります。
しかしそのフレーズを言うと、「私が話を聴いていないと言いたいのですか?」と受け取られてしまうので、そこはグッとこらえ、余計な発言はしないこと。
表現を少しずつ変えるといった工夫をしながら、根気よく繰り返し説明していきましょう。
曖昧な答えは避ける
3 論理的なタイプ
客観的に、「それが正しいか正しくないか」という視点を大事にしていらっしゃいます。
あらかじめ話すことを準備していることも多いので、「おそらくそう思います」という曖昧な答えを避け、「はっきりした情報をお伝えしたいので、その件につきましてはすぐに調べてご連絡さしあげてよろしいでしょうか」と許可を得ましょう。
きちんと説明ができれば、納得していただけます。
このタイプの方は落ち着いたトーンでお話しされる傾向があるので、そのペースに合わせつつも、淡々とならないように気持ちを込めて応対しましょう。
「気持ちをわかってほしい」お客様
4 粘着質なタイプ
3の方とは逆で、正しいか正しくないかではなく、自分の感情を受け止めてほしいタイプの方です。理屈ではご自身の言っていることが合わなくても、「なんか納得いかない」といった感覚を持っているので、まずはしっかりとその気持ちを受け止めます。
「言っていることはわかるけど」や「あなたが私の立場だったらどう思う?」といった質問をされるなど、お客様が何を求めているかはっきりしないという特徴があります。
お客様自身も、望んでいることが明確になっておらず、「この気持ちをわかってほしい」という感覚を持たれていることが多いです。
ですので、お客様の気持ちに焦点をあてて、「〜と思われたのですね」と相づちを打ちながら話を聴きましょう。
相手に同調してしまうと逆手に取られることもありますので、過剰な理解を示すことはせず、ただ気持ちを吐き出してもらうように心がけましょう。
気持ちを汲んでもらえたと感じると、お客様も次第にクールダウンしていきます。
理不尽なクレーム
いわれのない文句をつけられたら
時に理不尽なクレームを受けることがあるでしょう。そんな時に知っておいていただきたいことがあります。
一つのエピソードとともに、ご紹介します。
私の知人に、お宅に訪問して庭のお手入れをするサービスをしている人がいます。
ある日、一人暮らしの男性のお客様のお宅で庭を手入れしていた時のことです。
突然、「おまえ、この植木鉢壊しただろ!」と家主である男性が、烈火のごとく怒り出しました。
しかし、その知人は壊した覚えはありません。
ですので「いえ、壊してないです。最初から壊れていました」と伝えました。
それでも、「嘘をつくな、お前がやったんだろ!」と詰め寄られます。男性のあまりの剣幕に、思わず「だから、やっていませんよ‼」と強い口調で言い返してしまったそうです。
その後も、「やった・やらない」の押し問答が続き、結局そのまま納得してもらえず、うやむやな状態で帰ることになりました。
やりもしない罪を着せられ、怒鳴り散らされ、「なんて嫌な日だったんだ!」とその日は家に帰っても気持ちがおさまらず、家族にも愚痴をこぼしたそうです。
お客様の“言葉の裏”にあるものを読み取る
しかし時間の経過とともに、冷静になると、ふとこんなふうに思ったそうです。
「あんなに急に怒り出すなんて、ひょっとしてあの植木鉢には、私にはわからない思い入れがあったのかな……。
確かに私は壊してないけれど、強い口調で言い返すのはよくなかった。まず気持ちをわかってあげるような言葉をかけていれば、違っていたかもしれない」
そのお客様は、毎年庭の手入れを頼んでくれていた方でした。
なので、もしまた来年も依頼があれば希望して行かせてもらおう、そしてその時に「感情的に言い返してすみませんでした」と、今回のことをお詫びしようと思っていました。
しかし、お客様は亡くなられ、結局お詫びはできずじまいになってしまったそうです。
サービスとは奉仕である
お客様の応対で大切なことの一つに、「お客様の気持ちを察すること」があります。
お客様がなぜ今そういう言動や態度をとるのか、気持ちをわかってさしあげる。
サービスという言葉の意味には、形あるものや経済的に価値あるもののやりとりという意味の他に「奉仕する」という意味があります。奉仕とは相手を大事にする気持ちが元になって、言葉にあらわしたり、行動するということです。
お客様の気持ちを理解しようとするプロセス、そしてそれがお客様にも伝わることが、その場の満足度を大きく左右するのかもしれません。
その際に、大切なことは何でしょうか?
先述の知人の例でみると、「植木鉢を壊した」と言われたことに対して、壊していない知人が「私は壊していない」と言い返す。
内容に関して言えば正しいわけです。壊していないものは壊していない。
しかし、ここでは主張の正しさを証明することが大切なのでしょうか?
まさにこういう場面でこそ、内容の正しさよりも相手の心情を慮ること、お気持ちを察して、わかってさしあげること。そして、そこからコミュニケーションをしていくことが大切なのです。
例えば、「大事な植木鉢だったんですね」とお伝えしてもよかったかもしれません。
正しいか正しくないかではない
人は、ずっと一つの感情にはとどまりません。
怒りの感情も次第に変容していきます。
「自分のことをわかってくれている」または「わかろうとしてくれている」という態度や言動に触れることで、怒りは静まり、逆に今まで以上に信頼されたり、より心を開いてくれるものなんですね。
正しいか正しくないかではなく、お客様の気持ちをわかってさしあげること。
この視点、感覚を大切にもってほしいなと思います。