やりがいのある仕事を任せてもらうにはどうすればよいのか。人材育成コンサルタントの松崎久純さんは「『やりがいのある仕事を与えてくれる会社の見分け方』は存在せず、それを知りたいというのは、かなり見当違いなことだ。誰かが何かを与えてくれるのを期待するよりも、自分が何をほしいと思っているのかを知ることが必要だ」という――。

やりがいのある仕事を与えてくれる会社とは

20代会社員の方からのご相談です――大学を卒業してからメーカーに正社員として勤めています。仕事が嫌ではありませんが、十分に充実感があるかというと、そうでもありません。特別におもしろい業務を任されるわけでもなく、いずれタイミングのよいところで、転職すると思います。やりがいのある仕事を与えてくれる会社の見分け方などがあれば、教えてもらいたいです。

この質問からは、相談者の方が、それほど仕事を(働くことが)好きではないという印象を受けてしまいます。そう感じるのは、おそらく私だけではないでしょう。

現在も正社員として会社に勤務されていますから、働いているのは確かですが、「仕事が好き」というタイプではないように思えます。

現在は仕事があまり充実しておらず、おもしろい業務を任されることもなく、転職を視野に入れているとのこと。

あなたは気づいているでしょうか。

周囲の人たちも、おそらく皆、あなたがそう考えていることを知っています。

あなたがそれを人に話したことがなくても、何となく気づいているものなのです。

人材を見つけるイメージ
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周囲はあなたの考えを認識している

逆に、あなたが仕事から大いに充実感を得て、任される仕事に積極的で、転職などまったく考えていないとしましょう。その場合には、周囲の人たちは、やはりその通りの認識をしているものです。

もちろん、そうしたことを敏感に感じ取る人とそうでない人がいますが、少なくとも仕事の上で親しくしているあなたの上司は、あなたが近い将来に転職する人材であることは承知しているはずです。

あなたが、おもしろい仕事を任せてもらえないのは、正にそのせいです。そのことをあなたは認識できているでしょうか。

転職していくことがわかっている人材に、会社にとって有望な市場や、これから伸びていく事業を任せる上司などいるものではありません。

人材を引き留めるために、そうした配慮をする上司もいるように思えるでしょうか。残念ながら、それは現実的とは言えないでしょう。

「どうせ辞めていく人材」

私もあるときまでは、一緒に働く人たちが「この先どうなる人か」を注意深く観察しているほうではありませんでした。

それがメーカー勤務時代に、上司の述べた一言をきっかけに変わったのです。

私はその上司から、私のグループのメンバーたちに対して、それぞれ「こんな教育や指導をするように」と、頻繁に事細かな指示を受けていた時期がありました。

その日も、残業の多い社員について、仕事の進め方を改善して、要領よく業務をこなさせるよう指示がありました。仕事はずっと続くものなので、本人が参ってしまわないようにすべしと言うわけです。

そして、その話が終わったとき、上司は突然、「あっ、それからT(同じく私のグループにいた若手社員)は、いくらいじめても大丈夫だから」と言ったのです。

私が耳を疑って聞き返すと、上司は「あいつはどうせ、そのうち辞めていくから。いくら残業させても構わん」と話したのです。

いじめるというのは、いわゆる「いじめ」の行為を指すのではなく、大事に扱わなくても大丈夫という程度の意味でしたが、私は上司が「Tはどうせ辞めていく人材」と述べたことにハッとしました。

私はそんなことを意識して考えたことがなかったのですが、言われてみると、確かにそう思えたからです。

解雇されたビジネスマンのイメージ
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仕事が好きという感じが見えない

Tは、この上司から頼りにされておらず、売上高の高い大事な顧客は任されていませんでした。片手間で受け持つような顧客や地域ばかりを割り当てられていたのです。

これをきっかけに私は、大事な顧客や地域を担当する社員は、やはり頼りになる人材であること、上司たちはそれを考えて人材の配置をしていることを、はっきりと認識するようになったのです。

驚いたのは、それから1、2年経った頃でしょうか。Tが本当に退職したのです。上司が言った通りになりました。

Tは誰にいじめられたのでも、不当に扱われたのでもありません。また、本人に協調性がないといった類の問題があったわけでもありません。

Tは、ただ仕事が好きという感じではなく、積極的に業務にたずさわってリーダーとなっていくようには見えず、それ故に期待されず、重宝されていなかったのです。

転職を考えている人の特徴

転職を考えている多くの人が、Tとよく似た面を持っています。

それは、本人は「まだ自分は実力を出していないだけ」と考え、環境が変わればどんな出世の可能性もあると思っている一方で、周囲の人たちは、本人の持つ力の程度や限界を早々と悟っているところです。

本人は何ら行動を起こしていない場合でも、根拠なく無限の可能性を信じているものです。また、もちろん周囲の思い込みも当たることばかりではありません。

私の勤めていたメーカーでも、従業員数は数百人といった規模でしたが、あまり目立たなかった社員が、転職後に新天地で大活躍をしたり、全国に名をとどろかせる成功者になった話は、一度ならず耳にしたものです。

それでも社会人としてどのくらい成長するかについて、本人よりも周囲のほうがわかっているのは、めずらしいことではなく、転職を考えるよりも、今勤めている会社で、本気になって仕事に取り組むほうが、本人にとって得策と思えることは多いのです。

環境を変えるよりも、むしろ本人の意識を変えることが必要なのですが、周囲の人たちは、それを伝えても通じなさそうな相手に、わざわざそんな話をするものではありません。

眠いビジネスマン
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おもしろい業務とは

相談者の方のおっしゃる「おもしろい業務を任される」とは、どういうことでしょうか。

たとえば、ガンガン伸びている市場での営業は、売れない市場での営業活動に比べておもしろいものでしょう。

釣竿を投げ入れたら、魚がどんどん食いついてくる。上司にそんな場所へ連れて行ってもらって、釣り糸を垂らす。

そんな仕事をあてがってもらうことが、「おもしろい業務を任される」ことでしょうか。

たくさん買ってくれそうな顧客を担当させてもらう、ヒットしそうな商品の開発のメンバーに加えてもらう――もし、そんな期待をしていて、そうでなければやりがいを感じないと言うなら、かなり厚かましい要求をしているのではないでしょうか。

私はコンサルタントになりたての頃、日本にはなかったコンサルティング商品の調査でイギリスへ出向き、それを使わせてもらうのに、結構たいへんな思いをして、何度も通いながら交渉を重ねていたことがありました。

ようやく日本で使わせてもらえるようになり、それを採用してくれるクライアントも見つかったら、同業者が自分にもかかわらせろと群がってきたり、邪魔をしに入ってくる人もいたり、なかなかスムーズに進まない段階を経て、ようやく収益が上がるようになっていきました。

おもしろいとか、やりがいがあると思えるのは、その商品が知られるようになり、顧客のほうから問い合わせをくれるようになってからのことです。

必要なのは自分が欲しいものを知ること

この話からも察しがつくと思いますが、「やりがいのある仕事を与えてくれる会社の見分け方」などというのは存在せず、それを知りたいというのは、かなり見当違いなことと言わざるを得ないでしょう。

たまたま与えられた仕事にやりがいを感じることはあるかもしれませんが、それは偶然に運がよかったと捉えるべきことです。

誰も見ず知らずのあなたに、「やりがいのある仕事」を与えてくれるはずがありません。

それはあなたに嫌がらせをしているのではなく、あなたが何をしたいのか、何を目指しているのかわからないのに、あなたが満足する仕事など与えようがないからです。

誰かが何かを与えてくれるのを期待するよりも、自分が何をほしいと思っているのかを知ることが必要でしょう。

何がやりがいかわからなければ、現在のように「十分に充実感があるかというと、そうでもなく、特別におもしろいわけではない業務」が自分の仕事になっていても不思議はありません。

そのことに気づけば、現在の仕事について、なぜ今のように感じるのか理解でき、自分と向き合って考えることができるようになると思います。

仕事に熱心な人でないと評価されるのは、不本意なはずです。ぜひ仕事から充実感を得られるときがくるよう、ご健闘をお祈りします。