興味のある仕事と条件のよい仕事、どちらを選ぶべきなのか。人材育成コンサルタントの松崎久純さんは「どうしてもどちらかと言うのなら、給与のよいほうを勧める。『どうしてもこれ』『ぜひともこちらを』と思っているわけでないのなら、わざわざ条件のよくないほうを勧める気にはならない」という――。

興味のある仕事か条件面がよい仕事か

転職活動中の20代会社員の方からのご相談です――興味のある仕事に取り組めるけれど、給料が安く、サービス残業もあるらしい仕事と、どんな仕事を担当するのか、具体的にわからないけれど、給料などの条件面はよさそうな仕事。両方の内定をもらっていますが、どちらを選ぶべきでしょうか。

結論から言えば、どちらを選んだらよいかは、ご自分が何を優先したいかにより異なるでしょう。いろんな人に相談するのはいいのですが、何を望んでいるのか、最終的には自分自身と向き合って答えを導き出すことになるでしょう。

私からは、ご質問を伺って、心配な点が2つほどありますから、それについてお話ししましょう。

悲しい顔のブロックを選ぶ人
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意欲が本当にあるのか

1つ目は、質問者の方が「これだ」と思える仕事に出会っていないように思える点です。2つの内定があるとのことですが、ぜひこの仕事にたずさわりたいとか、この会社で働きたいといった意欲を感じているようには聞こえません。

20代と若いのですから、熱意を持って取り組める仕事に出会えていなければ、そのことについて悩んでもよいかと思えます。

仕事を選ぶのに何らかの制約があり、その状況下で2つの内定を得られているとしたら、この指摘は見当違いかもしれませんから、その場合は、お許しいただきたいと思います。

たとえば地元を離れられず、そのために本来望んでいる職業に就くのは難しいといった事情があるのは、(私自身も地方在住ですから)よくわかります。そうした場合には、職業の選択に妥協が必要なこともあるでしょう。

しかしながら、ここではある程度、仕事を自由に選択できることを想定して、お話ししたいと思います。

可能であれば、現在の2つの内定にこだわらず、興味のある仕事で条件もベターなものを探し続けてみてはどうでしょうか。

好きなことやこだわりは大事

言うまでもありませんが、好きなことを仕事にするのは実に大事なことです。

私の周囲の20代の人たちには、学校の先生になりたい人や、税理士などの士業をめざしている人たちがいます。

「その仕事に就かなければ自分ではない」という程の思い入れを持った人もいて、彼らと比べれば、20代の頃の私などは、「グローバルな仕事」にこだわりがあった程度で、かなりアバウトに考えていたほうかと思います。

それでも「好きなこと」というのは、必ずしも職業、業種、会社などを特定して説明できなくても、外を飛び回って、人とコミュニケーションをとる仕事が自分に合っているとか、商品を開発するような仕事がしたいといった括り方でもいいのです。

白い背景にハートシンボルを形作る手
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自分が熱心に取り組めるか

自分が就いた仕事に満足できる人ばかりではありませんから、今の仕事にそれなりに熱心に取り組みながらも、「この仕事をしていていいのだろうか」と悩む人がいるのは、何ら不思議ではありません。

私自身も米国で大学の学部を出てからは、そのまま現地でセールスマンとして働いていましたが、20代の後半に差しかかる頃には、必ずしもセールスマンという仕事を続けたいとは思っておらず、どんな仕事なら自分が成功できるかということも、見当さえついていませんでした。

同じような経験をする人は多いと思いますが、そうして悩んでいるときも、自分が熱中できることは何なのか、考え続けるのは必要だと思います。

これなら熱心に取り組めそうと思ってはじめた仕事も、実際にたずさわってみると、思いのほか好きになれないとか、向いていないと感じることもあるかもしれません。

それでも「どうせ、やってみないとわからないから」と、運を天に任せるような仕事の選び方をしては、成り行き任せで、行き当たりばったりとなってしまい、熟考して選択する体験をすることとは違ってきます。

自分が熱意を持って取り組める仕事は何か、どんな仕事だと自分の力を発揮できるのか。これは難しくても、向かい合って考えなくてはならないテーマです。

「はじめは興味を持てるかわからなかったけれど、やっているうちに好きになった」。こんなふうになればラッキーですが、そうした展開を期待して、考えることを投げ出すのを勧める人は少ないでしょう。

あいまいで頼りない情報で決めていないか

もう1つ心配なのは、現在ある2つの内定から、どちらかを選ぶにあたって、情報が不足している点です。

いずれの会社からも、仕事の内容や条件面について、もっとよく聞いてみることが必要です。

「サービス残業もあるらしい」とか、「担当する業務が具体的にわからない」。「条件面はよさそう」というのは、あいまいで頼りない情報量と言わざるを得ません。

給料はいくらになるのか、賞与は何カ月分程度の見込みで、残業はどの程度あるのが普通か。福利厚生についても、はっきりと尋ね、きちんと答えてもらえないようなら、疑ってかからなくてはなりません。

転職活動で内定をもらっているときは、気持ちが前向きになり、何かと好意的な解釈をしがちになります。

しかし、そんなときでも目をつむっていいことと、そうでないことがあります。

よくない面、たとえば通勤にかかる時間などもよく考慮しましょう。通勤が仕事そのものよりもたいへんという社会人はたくさんいます。

社員食堂があるのかないのか。利用できるのは、昼だけなのか、夜も大丈夫なのか。これだけで、自分のライフスタイルも、家族の負担も相当変わってくるものです。

「何がなんでもこの仕事」という選び方をしているのでなければ、少なくともこうした点もよく知った上で検討することをお勧めします。

ノートとラップトップを開いて作業
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「どうしてもこれ」と思わないのなら

どうしても現在ある2つの内定から、どちらかをと言うなら、給与のよいほうを勧めます。

今は、「興味のある仕事に取り組めるが、給料が安く、サービス残業もあるらしい仕事」と「どんな仕事を担当するのかわからないが、条件面はよさそうな仕事」で、選択に迷っています。

つまり、「どうしてもこれ」「ぜひともこちらを」と思っているのではありませんから、そこでわざわざ条件のよくないほうを勧める気にはなりません。

私自身も20代の終わり頃から、安月給と知りながら、たずさわる仕事の内容を優先してメーカーに勤めていたことがあります。

しかしながら、30代半ばによりよい雇用条件を求めて、転職を決意しました。

家庭を持って、自分の生活環境が変わったのに加えて、転職にも適齢期があると聞くことが多かったからです。

私は、「給料は安いけれど、仕事にやりがいがある」と言う若い人たちは知っていますが、同じことを言う中高年の会社員には、会ったことがありません。

質問者の方も、このたびの転職をされ、もう少し年齢を重ねられたときに、同じようなことを考える機会が訪れるかもしれません。

今は20代で、一般的に言えば、比較的不安も少ないときだと思います。自由に思い切った決断ができる時期ではありますが、安定した収入の大切さを忘れることなく、慎重に選択されることをお勧めします。