中途採用で「社長とはフィーリングが合うが、現場社員とうまくいかない」人を採らないようにするためには、どうしたらいいのか。キャリアカウンセラーの中谷充宏さんは「社長が独断で決めるのではなく、採用プロセスに関わった社員の合議で採否を決めるといい。そうすれば、現場でのミスマッチを防ぐことができるほか、社内に採用ノウハウを蓄積させることもできる」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、中谷充宏『小さな会社の採用お金をかけなくてもここまでできる!』(秀和システム)の一部を再編集したものです。 

頭を抱えるビジネスマンたち
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社長独断ではなく合議制でミスマッチを防ぐ

特に社員数5名以下の零細企業では、「社長の好みやフィーリングで内定を出す、しかも面接後ではなく面接の最中に」というケースがよくあります。

社長が採否の最終決定権を握っているところが大半でしょうが、「社長とはフィーリングが合うが、現場で一緒に働く社員とうまくいかない」というケースもよくあります。こうしたケースでは「社長、また変なの採ったよ」と陰口を叩かれたり、現場から社長にフィードバック(FB)しないことも多いです。したがって、

①社長が独断採用

②現場社員との不一致

③短期退職

④社長が現場を叱責

⑤萎縮した現場が社長にFBしない

という悪循環を繰り返すことになります。

体験会で一緒に働いた社員の声をきちんと聴く

この改善策としては、応募者が入社後に一緒に働く社員達、アテンド社員達を交えて一緒に採否を検討するやり方を取り入れましょう。

そうすれば、社長だけでなく社内に採用ノウハウが蓄積できますし、現場の社員達と合わなかったから短期退職、という最悪の事態も避けることができます。

特に(筆者の推奨する)体験会を設ければ、実際に一緒に仕事をすることを通じて、社長では見ることができなかった細かい部分(たとえば「当社は5Sを大事にしているが、応募者は使った道具を元の場所に戻さない傾向あり」等)も現場社員は把握することができます。

こうした現場社員の声、アテンド社員の声もきちんと聴く場を設けて、参加者の合議制で採否を決めるようにしましょう。なお、参加者で意見が割れたりしたら、この最終決定は社長がやってください。

内定辞退を防止するには

内定辞退は、皆さんもご経験がおありでしょう。

本人の意思で他社に流れるのは防ぎようがありませんが、他社に流れるのは自社のやり方がマズかったからかもしれません。

内定出しして入社するのを心待ちにしていたが辞退された、ということになると、少人数の中小零細企業ゆえにダメージが大きいです。

次に挙げる①②の施策により、内定辞退を見通せるようにしておくべきです。

①内定出しの際に、応募者の本音を聴き出す
②期限を設けて入社承諾書を提出させる

①について、「内定を出そうと思っていますが、当社で働く気持ちはありますか? もしまだ固まっていないなら、どのような要因があるのか、たとえば何が不安、不満なのかなど、率直にお話しいただけませんか?」と、尋ねるのは有効です。内定出しを前提にすると本音を話してくれる可能性が高まります。自社で善処できる内容なら、約束すれば辞退は避けられるでしょう。

入社承諾書は2週間以内に提出させることが多い

②について。

中小零細企業ゆえに、こうした書類整備がどうしてもルーズになりがちですが、内定通知書とともに入社承諾書を渡しておき、「内定を正式に受けるなら、2週間以内にこれを提出してください」と伝えます。2週間経過して提出がなければ次点を繰り上げる、新候補者を探すといった次の対策が打てます。

もちろんこの間も、①のようなコミュニケーションを図るのは有効です。

入社当日まで、気を抜かずフォローする

(筆者が推奨する)体験会を実施した上での採用、入社となれば、適合度合いを双方間で確認済みですので、入社日前に辞退という事態を激減させることができます。

たとえば、双方に想いがマッチしていて、週末の金曜日に体験会が終了、間髪入れずに、応募者から「来週の月曜日から働きたいです!」となれば、辞退は皆無でしょう。

一方で、終了後に2週間後や1カ月後など、ブランクを空けた日を希望してきた場合は注意が必要です。

というのも、応募者は複数の会社に応募していますから、諸条件を比べてより良いところで働きたいのは当然で、そのための時間稼ぎということも十分にあり得ます。

カレンダーと鉛筆
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不安払拭は必要不可欠

そこで有効なのが内定通知書からの入社承諾書、誓約書等の書類提出です。これらの書類はきちんと期限を設けて提出させることが大事です。

期限内に出せない主な理由が、「他社と天秤にかけているから」「貴社で働くのはまだ不安があるから」であれば、それらを払拭する説明や取り組みが必要でしょう。

応募者にとっては、自分の人生を左右する就職・転職ですから、思い悩むことはたくさんあります。そこで、「当社で働くことについて不安に思うことがあれば、いつでも相談してください」と、胸襟を開いた対応をしましょう。これは内定出しのタイミングで話した上で、書類提出の期限が迫ってきているのに未着な場合に、アラート的な意味合いで伝えておきます。

なお、ここまで親切丁寧に対応したにも関わらず、何らかの理由をつけるなどで期限内に出さない場合は、保留せずにお見送りすべきと筆者は考えます。

定着に有効な「メンター制」

就業経験がある人であっても、新しい職場環境には簡単にはなじめないものです。

そこでぜひ取り入れてほしいのが、メンター制です。

これは簡単に言うと、直属の上司や先輩とは別の社員が、新入社員の面倒を見ていくという制度です。年齢の近い、社歴が近い先輩社員で、面倒見の良い、話がしやすいタイプの人が適任と言えます。

新入社員にとっては、不安や悩みを気軽に相談でき、新しい職場にフィットするスピードが速くなるメリットが、メンター役を任される先輩社員にはコミュニケーションスキルが向上し、仕事、職場に対する責任感が強くなるメリットがあります。

一方デメリットとしては、お互いの相性が悪いと逆効果となり、最悪の場合、早期離職となってしまいます。そこで2人に任せっきりではなく、会社側にも体制づくりが必要になります。

「新しい社員の面倒を見て」という感覚で

「メンター役を任せるなら、まずその教育が必要不可欠」などと難しく構えないで、「新しい社員の面倒を見てあげてくれ!」といった感じで大丈夫です。

入社直後は週1回ペースで定期的な振り返りをしつつ、何か困ったことがあったら随時相談も受け付ける、というスタンスで、まずは始めてみてください。

会社側としては、2人を温かく見守ってあげて、何かあったらどちらからでも報連相してもらう体制をつくっておきましょう。

この制度は新入社員の定着が主目的ですので、半年から1年くらいが適当だと思います。

メンター役の社員は負担が増えるため、それを補う「メンター手当」を支給する会社もあります。メンターが不平不満を抱いて退職したら、それこそ意味がないので、検討してみてください。

入社からの1週間を徹底的にサポートする

筆者推奨の体験会を経て、双方間に良好な関係ができていたとしても、気軽な体験会と実際の雇用は、やはり重みが違います。

「体験会ではあれだけ面倒を見てもらっていたのに、入社したら何だか素っ気ない、大丈夫かな?」と思わせないよう、体験会と同じレベルの気遣いをしてあげてください。

特に入社初日から休日に入るまでの1週間は非常に大事です。休日にあれこれ考え込んでしまい、やっていけそうにないと決断して翌週に出勤しないというケースがありますから。

「新人をそんなに甘やかしてどうする」、「私の時はこんなに手厚くなかった」と社内で反発する社員が出てきますが、時代が違います。せっかく入社してくれたのだから、そういった声は黙らせて、大切に扱ってください。

知らされていないから、好ましくない事態に陥る

具体的には、「初出勤はいつ、どこへいけば良いのか?」「持参物は何か?」「ドレスコードは?」といった細かいところまで気を使いましょう。

たとえば9時始業として、新人が8時50分に着いたら、既に朝礼が始まっていて気まずい思いをした上に、先輩社員から「新人なのに最後に出勤ってなめてるよね」と怒られたりすると、もう最悪です。

事前にきちんと案内しておかないから、こうなるのです。簡単で良いので、出勤時間や持参物、ドレスコード等、入社初日の注意点をまとめておきましょう。

初日のランチは、体験会と同じやり方で進めてください。

2日目以降のランチについては、ふだん社員はどうしているかといった子細なことも含めて、きちんと案内してあげましょう。「今日も誘われるかもしれない」と思っている新人を待たせた挙句、誘わずに結局一人で行かせる等は、ろくな結果を招かないので絶対に避けて下さい。今の時代、配慮が足りないと言わざるをえません。

スキル不足や不慣れをフォローする

面接や体験会で高評価だったとしても、いざ入社してみたら期待外れということもあるでしょう。

中谷充宏『小さな会社の採用お金をかけなくてもここまでできる!』(秀和システム)
中谷充宏『小さな会社の採用お金をかけなくてもここまでできる!』(秀和システム)

期待値が高すぎるのが原因であれば、一般的、平均的な社員と同じパフォーマンスを発揮してくれれば良い、とハードルを下げておきましょう。

そもそも即戦力で高いパフォーマンスを発揮する人材は、中小零細企業にはまず来ません。そのため、期待外れな人はさっさと辞めてもらって次を探せば良いという考えは捨て去ってください。

また一般的、平均的な社員よりもスキルが不足していたら、それを埋めてもらうしかありません。これに近道はありません。

たとえば、

・業務に必要なスキル修得のためのロードマップを新人と一緒につくってみる
・目標管理制度(MBO)を取り入れてみる
・日々、学んだことをまとめさせる
・定期的に習熟度合いをチェックする

といったように、地道で手間暇のかかる人材育成を続けるしか術はありません。

全社を挙げて新人をサポートする

不慣れな環境ですから、仮に実力があってもなかなか発揮するのは難しいでしょう。既述のメンター制を含め、全社を挙げて新人が職場、仕事になじむ雰囲気づくりに取り組むべきです。

慣れるまでは、残業や休日出勤は免除してあげる方が良いでしょう。既存社員と同じペースでできるようになるには、やはり相応の猶予期間が必要で、おおよそ1カ月から3カ月くらいはかかると見ておいてください。

いずれにせよ、せっかく入社してくれた社員をぞんざいに扱うのは絶対にNGです。これは甘やかすこととは違います、大切に育てていきましょう。