※本稿は、さわぐちけいすけ・小川仁志『哲学を知ったら生きやすくなった』(日経BP)の一部を再編集したものです。
お金の不安、どう向き合う?
「なりたい自分」への投資
お金とはいったい何か…
【編集部】誰もが気になる「お金」との向き合い方。先行きが不透明な現代、多くの人がお金への不安を何かしら抱えています。
【小川】まずは、「お金とは何か」を考える必要がありそうですね。こんなときに参考になるのが、ドイツの哲学者ジンメルの貨幣に関する考え方です。ジンメルいわく、「貨幣とは、最終的な価値への橋渡しにすぎない」。つまり、お金は橋のようなもので、自分が行きたいところに行くための道具だと唱えた。お金は最終目的ではなく目的のための手段で、どう使うのかが重要だというわけです。
【編集部】お金は、目的ではなくて手段。確かにそうですね。
【小川】近代になって、貨幣でさまざまなモノが手に入るようになり、私たちは新たな自由を得ました。その一方で、「お金を増やすほど自由になる」という錯覚に陥り、人生の価値や喜びといった“お金に代えられない価値”を見失ってしまった。量ばかりに目が行って、本当に大切な人生の“質”を輝かせられない状態――そこに現代人の不満や不安の原因があると、ジンメルは考えたのです。
全ての投資は自己投資
【編集部】なるほど。けれど将来への不安から、目的もなく貯めている人も多いように感じます。
【小川】目的を見極めるには、お金という自由を手にしたときに、まず立ち止まって「さあどう使おう、どうワクワクしよう」と考えることです。また欲しいものがあったら、まずはその気持ちを大事にして、「なぜ欲しいのか、それを使って自分はどうなりたいのか」を考えてみる。
【編集部】今回の話でいうと、リンはパソコンを使って人生を切り開きたかった。けれど、「貯金が減ると自分の価値も減る」と感じ、買うのを諦めていました。
【小川】実は、その逆なのです。貯金が減るということは、実際にモノを買って自分に投資し、自分の価値を高めているということ。これからリンがパソコンを使ってスキルやキャリアを身に付ければ、使った48万円は何千万円にもなり得るでしょう。
逆に、何も行動せずにお金を貯めるだけの“永久機関”となってしまっていては、自分の価値は減っていきます。
【編集部】目的を問い続けて、自己投資することが大事なのですね。
【小川】そのとおり。大事なのは、お金を貯めてどうするかです。全ての投資は自己投資なのかもしれません。みんな何か自分のかなえたいことのために投資しているはずですから。
私は無目的な貯金も無目的な投資もしません。特に若いうちはその傾向が強かったですね。自分自身に投資しておけば、なんとでもなると思ったからです。働きながら大学院に通っていた頃もまさにそう自分に言い聞かせていました。
人生は目的が9割
【編集部】けれど金欠の状況では、お金が減ってしまっても大丈夫か不安になり、なかなか使えません。
【小川】もちろん生活が厳しいときは、“今の状況を改善する”ために、お金を貯める必要があります。そこで焦ってしまうのは、「この年齢ならこれくらい貯金がなきゃ」「あの人には勝たなきゃ」と他人と比べているから。人生は橋造り競争ではなくて、最終目的地への橋を架けること。自分の夢をかなえる自分のプロジェクトですから、自分のペースで1円でも貯めて前にさえ進めばいい。
【編集部】お金を貯めることに執着して、お金を使うことに罪悪感を覚える人もいます。一方で、衝動買いや浪費がやめられない人も。
【小川】そもそも「これだけ貯めれば幸せになれる」というゴールはありません。増えることだけに快感を覚えて、いくら貯めても満たされない状態は、ギャンブルと一緒です。
衝動買いも、目的を持たずに刹那的に目の前の欲求を満たしているだけですから、実は、むやみに貯めている人と同じでしょう。
【編集部】やはり、目的を持つことが一番重要ですね。
【小川】株式投資などで桁外れに儲けていても、目的がない人は、どこか退屈そうであまり魅力的には見えないでしょう。哲学を通してお金のことを知れば、逆に「人生もったいないな」と感じるかもしれません。人生は目的が9割。自分にとっての最終目的地はどこなのか、改めて考えてみてください。