反対のことばかり言ってくる新入社員はどう指導すればよいのか。人材育成コンサルタントの松崎久純さんは「非難するようなことでなくとも、彼らにかかると、すべてが批判の対象になる。そうさせないように、何でも否定する癖は社会人として不適切で、好ましい振る舞いでないと自覚させることが必要」という――。

新入社員を一喝してもよいか

20代会社員の方からのご相談です――5月になり、新入社員も少し環境に慣れてきたら、入社直後の素直な態度から変わり、生意気な言動をする者が出てきました。何かにつけて人と反対のことを言ったり、口答えをしたり。それは適切な振る舞いでないと丁寧に説明するのもバカらしく、むしろ一喝してやりたいのですが、パワハラになるかと心配です。こんな場合、どうしたらいいのでしょうか。

新年度がはじまり1カ月ほど経つと、一部の人の言動には変化が現れるものです。誰もが知っているのは五月病でしょう。

五月病は、4月から新しい環境で張り切っていたのが、しばらく時間が経過し、ゴールデンウィークで休みが続いたら、何となくやる気が出なくなった。そんな状態が1日、2日のことでなく、しばらく続くというのが一般的な解釈かと思います。

人間関係を中心に組織を観察している私から見ると、五月病には、これとは別にもう一つの症状があります。

私が「もう一つの五月病」と呼んでいるものですが、それは入社や着任直後の緊張が解けて、その人の本性が現れ、「ネガティブなことを口にしはじめる」ことです。

4月から1カ月ほど経って、新人、あるいは新任者の(よい面でなく)わるい面が出てくるのです。地が出るというと、わかりやすいでしょうか。

笑顔と悲しい顔が書かれた紙を持っている人
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「はい」の返事が「いやっ」に変わる

それまで猫を被っていた人材は、雑な面が目立つようになります。

少しずつ言動が変わり、あれっと思うことが増えてきますが、次第に好感度が下がることを口にしはじめ、やがてネガティブなこと、否定的なことを口にしはじめる。それが「もう一つの五月病」です。

「もう一つの五月病」にかかった人たちは、まず返事の仕方から変わってきます。

「はい」と返事していたのが、「いやっ」、「あっ、ていうか」という類の言い方に変わってきます。

特に何も否定していないときですら、そんな返事です。

「○○君は、どこの大学出身だったかな」と問われ、「いやっ、○○大学ですけど」という具合です。

「英語は勉強していたのかな」と聞かれると、「はい。TOEICも受験していました」ではなく、「……っていうか、TOEICとかは受けたりしてましたけど」といった話し方になります。

返事の仕方に否定的な感じが現れたら、危険信号です。その次は、話すことがネガティブになっていくか、すでにそうなっているでしょう。

好感度を下げる返答パターン

口にすることがネガティブな人たちと聞いて、周囲に思い当たる人はいますでしょうか。

たとえば、あなたが会社のコピー室で、「メンテナンスの人、遅いなあ。何時に来るのかな」とつぶやいたとします。

この一言に対してどんな返答が返ってくるか。返答は人によって異なるはずですが、それらは6つのパターンに分けられます。それらのパターンを見てみましょう。

・「電話してみたら」(解決案)
これはあなたが述べた一言に対して、「こうしたらいいではないか」という解決案を述べてくるパターンです。

・「そのうち来ますよ」(無関心)
これは、あなたの気持ちや問題について関心のない人が述べることです。

・「私なんか、この間半日待たされたわよ」(私の話)
あなたが困ったと話しているのに、なぜか自分のことを話し出す人の返答パターンです。

・「メンテの人は、前の仕事が長引くと遅くなるんだよ」(解説)
これは長い解説をはじめる人の返答パターンです。コピーのメンテナンスについて、知っていることを延々と述べてくるでしょう。

・「こんなの遅いのに入りませんよ」(反論)
これが、ネガティブなことを言う癖のある人が口にすることです。あなたが「遅い」と言えば「遅くない」、「思ったよりも早く来た」と言えば「遅いって言ってたじゃないですか」と述べてきます。この人と会話をしていると、あなたの口にすることは、ずっと否定され続けます。

上記の5つの返答パターンには、(本当に必要な「解決案」を述べた場合以外は、)好感度を上げるものはありません。

親指を下に向ける人
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最も悪質な返答パターン

これら5つの返答パターンの中でも最も悪質なのが「反論」のパターン、すなわち相手が口にしたことを否定するパターンです。

これはプライベートでも避けるべきですが、ビジネスパーソンとしても、あまりに不適切な返答の仕方です。

解決案、無関心、私の話、解説、そして反論は、会話の相手をよい気持ちにしないだけでなく、多くの場合、相手を苦しめます。

しかしながら、こうしたパターンの会話をする人たちは、相手を苦しめているという自覚も、嫌がられているという自覚さえもなく、むしろ解決案を提案したり、自分の体験談を話したり、解説、反論をするのは、相手の役に立つと思い込んでいることも、めずらしくありません。

相手との関係性をよくする返答パターン

これらと違い、「相手の感情について話す」のが、好感を持たれ、相手との関係性をよくする返答のパターンです。

「メンテナンスの人、遅いなあ。何時に来るのかな」と述べた人に対しては、たとえば「約束の時間に来ないと、困りますよね」(感情)と返すのが、「相手の感情について話す」返答パターンです。メンテナンスの人が来なくて困っている相手の心情に触れる、好感度の高い一言になります。

(上記の返答パターンは「ライカビリティ 6つの返答パターン『好きになられる能力 ライカビリティ 成功するための真の要因』」[松崎久純(著)光文社より]をご参照ください)

入社あるいは配属から1カ月と少し経った5月中に、返事の仕方がおかしくなるのに続いて、会話で「反論」をする兆候が出てくれば、それは「もう一つの五月病」の症状です。4月中には隠していた本性が現れた状態と言えるでしょう。

白いマスクを手に持ったビジネスマン
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すべてを批判の対象にする人たち

この手のネガティブな人たちは、会社生活のあらゆること――仕事の内容、仕事の進め方、人間関係、取引先、通勤事情など――何についてでも、常に否定的なことを言いはじめる可能性があります。

本当は非難するようなことでなくとも、彼らにかかると、すべてが批判の対象になってしまうのです。

そんなことをさせないように、早めに「もう一つの五月病」の症状を指摘して、何でも否定する癖は社会人として不適切で、好ましい振る舞いでないと自覚させることが必要です。

ネガティブな人は、とことんネガティブで否定的でも、本人は気づいていないこともあります。そんな人に、はっきりとそれを気づかせた例をお話ししましょう。

私にはネガティブといえば、すぐに思いつく人が何人もいますが、ここで紹介するのは私が授業を受け持っている大学院のクラスで、あまりに典型的だったヨーロッパのある国から来た留学生の例です。

彼は、私が学生にプレゼンテーションの仕方の説明をしている最中、注意点を話していると、手を挙げて「それはあまりに神経質すぎませんか」と言います。

私は学生たちに、「名前を呼ばれた瞬間から、オーディエンスは注目するので、教室の前へ歩いて行って演壇に立つまでの間も皆から見られている。そのため移動のときも、テキパキとムダのない動きをすること」と話しているだけです。

プレゼンテーションについては、ムダな動きはしないよう、意味なく手や体を動かすことのないよう指導しますが、そうすると彼は、「体を使ってアクションを取ることの何がわるいかわからない」と言います。

「わるいとは言っておらず、このクラスでは意味なく体を動かさず話す練習をしている」と話すと、「なぜそれが必要なのかわからない」といった調子で、ずっと絡んでくるのです。

常に反対のことを言ってくる学生

私は学生にこんな態度を取られて黙っているほうではありません。

こんなネガティブな相手は、こちらが述べたことに対して、どんな返しをしてくるか、簡単に読めるものです。そのため、このときは次のように話しました。その留学生を仮にS君としましょう。

私「みなさん(クラスへの問いかけ)、よろしいでしょうか。ずっと、ネガティブなことを言い続けている学生がいますが……」
クラス「(爆笑)」
S「私は何もネガティブなことは言っていません」
私「何に関しても反対のことを言っていますよね」
S「反対のことなど言っていません」

ここまでの会話で、おわかりになるはずです。彼は、常に反対のことを言ってくるのです。

私「私の言うことの、反対のことしか言ってませんよね」
S「そんなことはありません」
私「またですね」
S「いいえ。言っていません」
私「またですね」
S「……」
私「ずっと否定しているだけですよね」
S「話すのがダメなら、口を閉じて黙っています」

実際の会話は英語でしています。「またですね」と言うとき、私は“Again.”と言っています。

S君は、いちいち人と反対のことを言い続けているのですが、続けて何度も否定しているのを認識しておらず、もし認識しているとしても、それが恥ずかしいことだとは気づいていないのです。

ネガティブな人には、このような繰り返しのフレーズ“Again.”(=「またですね」)が効きます。そして、本人が否定を繰り返していること(=否定的なことを口にしている事実)をはっきりと指摘するのが、注意を与える際のポイントです。

日本には、このように誰かが行った行為について、皆の前(他の人がいるところ)で注意するのを不適切と考える風潮もあるようですが、私から見れば、その場で咎めることすらせず、止めさせることもできない方が、余程問題が大きいように思えます。

暗い個室で質問する怒っている役人
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自分が口にしていることを自覚させる

「もう一つの五月病」で人と反対のことを言いはじめた新人にも、S君に話すのと同じ調子で話すのが効果的です。

先輩「君は『いやっ』ていう、否定的な返事をするよね」
新人「え、いやっ、そんなことは……」
先輩「そういう感じで、否定的だよね」
新人「否定っていうつもりはないんですけど」
先輩「また反対のことを言うんだね」
新人「いやっ、否定はしていないんで」
先輩「まただね」

こういう会話をするだけで、回復の見込みのある人であれば、自分が口にしているのがどんなことかに気づき、周囲の人がどう感じているかを理解するでしょう。

一緒に働いている人にも責任はある

「仕事、少しは慣れてきたかな」と尋ねたら、ネガティブな人は何と答えるでしょうか。

「いやっ、何というか、はぁ、まあ少しは……」

これは褒められた返答の仕方ではありません。

「はい。ありがとうございます。少しずつですが慣れてきました」

もう一つの五月病患者が、このように答えられるようになるかは、本人次第でもありますが、それは同時に、一緒に働いている先輩たちの責任でもあります。

ネガティブで否定的な後輩がいることで、対外的に恥ずかしい思いをする前に、またそれが「もう一つの五月病」と言っていられるうちに、対策を講じられるとよいでしょう。