※本稿は、前田祐樹『ひとりでできる心ほぐし』(マイナビ出版)の一部を再編集したものです。
脳が疲れるとイライラを止められなくなる
不安や恐怖は、自律神経のバランスを乱す存在です。しかし、不安や恐怖があることで危険を察知して、身の安全を守れる重要な感情でもあります。ところが、脳のある部位が暴走すると、不安や恐怖を過剰に大きく感じることになります。
その部分が脳の中央部に存在する1.5cmほどのアーモンド状の神経細胞の集まりである「扁桃体」で、不安や恐怖を感じると活性化します。同時に、扁桃体を制御するのが、脳の前方で理性を司る最高中枢といわれる「前頭前野」です。
たくさんの情報を脳で処理しなければいけなかったり、強いストレスがかかったりすると、前頭前野の働きは低下します。扁桃体をコントロールできなくなって、不安や恐怖、イライラが増すのです。それが新たなストレスになって、脳はさらに疲れ、ネガティブ感情が大きくなる負の連鎖が続くのです。
強すぎる正義感が自分を苦しめてしまう…
ちょっと想像してみてください。担当する仕事の締め切り日が近づいているのに、前段階の資料作りを担当しているAさんからの提出が遅れていて、自分の作業が進まないとき、あなたはどう感じますか?
不安になったり、イライラしたりするかもしれません。作業が遅いAさんを責める気持ちが生まれ、自分は残業を余儀なくされると悲観し、ひいては今回の締め切りを守れなかったことによる将来への不安まで募らせるかもしれません。
これは、人に迷惑をかける行為は“悪”だという前提に基づくものです。
子どもの頃から幾度となく教え込まれ、社会規範として当たり前といえる「人に迷惑をかけてはいけない」というルール。でも、それを守らないといけない、守らない人はダメと正義感を強くすることが、かえって自分の心を苦しめることがあります。
私たちは、無意識のうちにあらゆる物事を「白か黒か/善か悪か/全か無か」に分けていることがあります。でも、強い正義感から二者択一の思考に陥ってストレスを抱え、自律神経を乱すこともあります。
人生はグレーだからこそおもしろい
冒頭で挙げた例を構造化してみましょう。
資料の提出が遅い社員Aさんに対して、「Aさんは仕事が遅い。だから、間に合わない。よって、私は残業をしなくちゃいけない。私が間に合わなかったら、私の昇進はないのに……」と思い、不安とイライラを募らせました。
ここでは「Aさん=仕事が遅いから“悪い”」「私が締め切りに間に合わない=私の未来は“ない”」という、2つの二者択一思考が働いていることがわかります。
でも、Aさんからの提出資料が現状まだなだけで、締切に遅れたわけではありません。イライラする前に、直接Aさんに提出のタイミングを確認して、少し時間がかかりそうなら、先に別の仕事を片付けておくこともできるでしょう。自分の仕事に余裕があるのなら、手伝ってあげることもできるかもしれません。
しかも、仮に間に合わなかったとしても、一度の失敗で人生がゼロになるなんて、なかなか考えられることではありませんね。
私たちの生きる世界に二者択一で判断できることなんて、そう多くはないのです。むしろ“白か黒か”で世の中を見ていると、自らの視野を狭めてしまい、結局は自分の心を苦しめることになりかねません。
グレーで不確定だからこそ優しくなれるし、思いがけない出会いが生まれるものです。それが“人生のおもしろさ”だと、ふわっと考えてみませんか。きっと、カラフルな色とグラデーションの世界が広がっていますよ。
6秒数えても怒りは消えない
今まではそんなことがなかったのに、最近、怒りっぽい。
怒りが込み上げてくるとなかなか抑えられず、人やモノに当たってしまうことがあるという人は、すでに心が疲れているサインです。
いつもなら気にならないようなことに過剰な反応を示してしまうのは、その出来事を乗り切るだけの心の余裕がなくなっているからです。
「アンガーマネジメント」という怒りを抑える心理テクニックがあり、具体的には、怒りが湧いてきたときに「6秒数える方法」を聞いたことがある人もいるかもしれません。
この手法によって、怒りのピークをやり過ごせる場合もあります。ただ現実的には、6秒数えたところで怒りがきれいさっぱり消え去るなんてことはありません。
だからといって、怒りに任せて当たり散らしていいわけもありません。
後々、何であんな言い方をしてしまったのだろうとか、モノに当たってしまったのだろうと、自己嫌悪に陥るのが関の山。心の疲労を積み重ねるだけだと思います。そんなときは、別の行動をしてみることをおすすめします。
怒りの感情は悪ではない
じっとしていると、余計に自分の感情を手放せなくなるものです。
意識的にでも別の行動をとることで、自然と怒りモードのスイッチがオフになります。外に出て散歩をしてもいいですし、洗濯や掃除をするなど、少し体を動かせることなら何でもかまいません。
実際、体を動かすと内臓や血管の働きがよくなり、達成感が湧くとともに「エンドルフィン」という脳内物質が放出されて快感を生じ、体のストレス反応が抑えられることも示されています。
ふとした瞬間に怒りが再燃することもあるでしょうが、最初の怒りのレベルからは数段下がっているものです。ぜひ、試してみてください。
一般的に怒りはネガティブな感情と敬遠しがちですが、怒りの感情を持つことは、悪いことではありません。人間である以上、喜怒哀楽はあって当然です。
ただ、暴走する感情に任せて怒っている状態から一歩抜け出せたら、何に対して怒っているのか、感情の底にあるものを見つめてみましょう。
怒りの背景で、自分が相手に対して“勝手に何かを期待していた”ことに気づくかもしれません。「相手が悪い」という思考停止の状態から、自分自身の問題として捉え直すことで心がほぐれることもありますよ。
怒りっぽいときは心が疲れているサイン。
怒りが収まらないときは別の行動をとってモードをチェンジ!
イライラするときはベルガモットの香りを
お香やアロマなど好きな香りを楽しむ自律神経のバランスを調整するのに、香りの効能を活用することもできます。
イライラするときには、ベルガモットなど柑橘系の香りを嗅ぐと落ち着きやすいです。安眠へと導きやすいのはラベンダー。眠りの質が悪いときには、スイートマジョラムもよいでしょう。
アロマポッドを利用してもよいですし、ティッシュにアロマオイルを数滴垂らして寝室に置いてもOK。ただし、香りに敏感な人は無理しないでください。