甘いものを食べると疲れがとれるというのは本当なのか。長年休養について研究し、日本リカバリー協会の代表理事を務める片野秀樹さんは「甘いものを食べたからといって疲れがとれるわけではない。かえって興奮状態になり、リラックスどころか逆効果になる」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、片野秀樹『あなたを疲れから救う休養学』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。

イチゴケーキやブルーベリーケーキなどのビュッフェ
写真=iStock.com/HANSODE
※写真はイメージです

「食べすぎ」の害のほうが大きい

疲労回復や疲れにくい体をつくるのに、食事も大きな影響を与えます。こういうと「栄養のバランスのとれた食事をすればいいんでしょう?」と思うかもしれません。それももちろん大事なことです。

しかし休養学では「食べないこと」や「食事の量を減らすこと」も重視します。食べすぎないことが体を休めることになると考えるからです。

ですから、休養のために何か特定の食べ物をすすめるというようなこともしていません。

現代社会では食べ物がない栄養不足の害よりも、むしろいつでも豊富な食べ物が手に入るため、「食べすぎ」の害のほうが大きくなっています。

図表1は横浜市で、就労者に「健康上の課題は何か」と質問した結果です。

運動不足を課題に感じている人が大勢いるのに対し、栄養に課題を感じている人は少ないことがわかるでしょうか。栄養は健康の3要素の1つですが、課題だと感じている人がそれほど多くないのは、おそらく一日に必要な消費カロリーは十分とれているという自覚があるのでしょう。

【図表1】健康上の課題は何か
片野秀樹『あなたを疲れから救う休養学』(東洋経済新報社)より

私は「食べない栄養」というものがあると思っています。

たとえば正月三が日はご馳走をたらふく食べるでしょう。しかしその後は七草がゆを食べて胃を休めます。こんなふうに、体の消化器系を休ませたり、老廃物を排出するデトックスに焦点を当てたりするほうが重要です。

無理に食べない、軽い食事で済ませることのほかに、白湯さゆなどで体を温めるのもいいですね。

「栄養をとる」という足し算の考え方ではなく、いかに栄養摂取を控える機会をつくるかという引き算の考え方をもってほしいと思います。

【図表2】休養になる食事のとり方
片野秀樹『あなたを疲れから救う休養学』(東洋経済新報社)より

朝食をとる時刻を固定して自律神経を整える

ちなみに最近では「時間栄養学」も注目されています。

これは、食事をとる時刻によって、生体時計を調整することができるというものです。これまで主流だった「どんな栄養をとるか」という考え方ではなく、「いつ食べるのか」に着目したアプローチといえます。

朝に太陽の光を浴びることによって、生体時計が24時間サイクルにリセットされますが、朝食を毎日決まった時間に食べることによって、さらにしっかりとリセットされることがわかってきたのです。

食べ物を口に入れると、自動的に消化器系の活動がスタートします。消化器系が動き出すことによって、生体時計を調整するスイッチが入るしくみです。

逆にいえば、朝食をとる時刻を毎日固定するだけで、自律神経を整えることができるというわけです。

「腹八分目」で寿命は延びる

昔から「腹八分目が健康にいい」といわれてきました。

江戸時代の儒学者である貝原益軒の書いた医学書『養生訓』に、こんな一節があります。

「珍美の食に対すとも、八九分にてやむべし。十分に飽きみつるは後のわざわいあり。少しの間、欲をこらゆれば後の禍なし」

つまり腹八分目を心がけようということです。

満腹になるまで食べるのではなく、「まだ食べられるけれど、けっこうおなかいっぱいになったから、このへんでやめておこう」というのが腹八分目です。

腹八分目が体にいいという説が科学的に正しいかどうかを、1990年に実験でたしかめた人がいます。私の師匠である東海大学の田爪たづめ正氣せいき先生が、満腹のマウスと腹八分目のマウスの寿命を比較しました。

田爪先生の実験によると、いつも満腹になるまで食事をしていたマウスが、マウスの平均寿命である約2年生きたのに対し、いつも腹八分目だったマウスは約3年生きました。つまり寿命が1.5倍になったのです。

1.5倍というのはかなり大きな差ではないでしょうか。人間の寿命が100歳だとしたら、その1.5倍ですから、150歳まで生きることになるわけです。

このとき田爪先生は、腹八分目のマウスは活動量が多く、満腹のマウスは活動量が減ることも発見しました。人間もお腹がいっぱいになると動きたくなくなります。活動量が減るのはそのせいかもしれません。あるいは腹八分目のときはもっと餌を探そうとして、活動量が多くなるのかもしれません。いずれにせよ、食べる量を減らすことと、適度に運動をすることで寿命が延びるのは間違いないようです。

私たちも活力を得るためには、必要以上に食べないことを心がけることです。それが体に休養をとらせることになります。

むしゃくしゃするとスイーツが欲しくなる理由

「腹八分目が健康にいい」とわかっていても、ストレスがかかるとやけ食いをしたり、甘いものを食べたくなったりしませんか?

これはストレスを何とか抑えようとする体の防御反応、自己防衛行動です。

食事をとると、副腎皮質からコルチゾールが分泌されます。ストレスがかかると分泌されるホルモンです。コルチゾールには、抗炎症作用と免疫抑制作用がありますが、そのほかに、血糖値を上げる作用もあります。

まず、食事をとると当然、血糖値が上がります。血糖値が上がるとインシュリンが膵臓から出てきて血糖値を下げようとし、そのあとに血糖値が一気に下がります。今度はこの下がった血糖値を上げないともとの状態に戻りません。このときにコルチゾールが出ます。

コルチゾールはストレスに対抗しようと交感神経を上げるので戦闘態勢に入ることができます。ですから、むしゃくしゃすると何か食べたくなったり、甘いお菓子を欲したりするのです。

スイーツで疲れはとれない

「疲れているけれど、どうしてもあと一仕事しなければいけない」というようなとき、自分を奮い立たせるために、無意識にやけ食いをしたり甘いものを口にしたりしているのかもしれません。逆にいうと、副交感神経を高めてリラックスすべきタイミングで食べすぎてしまったり、甘いものを口に入れたりしてしまうと、緊張・興奮状態になり、リラックスどころか逆効果になります。

片野秀樹『あなたを疲れから救う休養学』(東洋経済新報社)
片野秀樹『あなたを疲れから救う休養学』(東洋経済新報社)

家に帰ってきて「ああ疲れた、今日はイヤなことがあったな。忘れるためにスイーツでも食べちゃおう」というのはわかりますが、かえって興奮して、寝つきが悪くなってしまいます。

よく「甘いものを食べると疲れがとれる」といいますが、正確には、疲れを一時的に覆い隠しているだけです。楽しみとしてケーキやチョコレートなどを食べるのはかまいませんが、お菓子を食べたからといって疲れがとれるわけではありません。

「糖質は脳の餌だから、頭を使うときは甘いものを食べるといい」というのもよく聞く話ですが、食べたものが消化・吸収されるには時間がかかります。テストの直前に甘いものを食べたからといって、脳がよくはたらくとは限りません。

お酒は「疲労のもと」になりかねない

お酒が好きな方は、お酒と疲労回復の関係に興味があるのではないでしょうか。昔から「酒は百薬の長」といわれますし、飲むと血のめぐりもよくなります。

イラスト
片野秀樹『あなたを疲れから救う休養学』(東洋経済新報社)より

しかしお酒は精神的なリラックス効果が期待できるものの、肉体的には負担のほうが大きいようです。私もお酒が嫌いではないので、非常に残念なのですが……。

なぜお酒は体によくないのでしょうか。

これは、飲酒すると、アルコールを分解するために肝臓が大忙しで働かなければいけないためです。ですから「疲れをとるために」といって飲んでも、さらに疲れてしまうだけです。肝臓がアルコールを分解する過程で、アセトアルデヒドという活性酸素のような毒性物質が出ることによって、肝臓を傷つけるという説もあります。

さらにいうと、アルコールを飲むと寝つきはよくなりますが、夜中に目が覚めやすくなるので、睡眠によるリカバリーが十分にできなくなります。

「お酒を飲むと深く眠れる」という人もいますが、アルコールを飲んで寝ている状態は、麻酔で気を失った状態と似ています。

通常の睡眠であれば、ノンレム睡眠のN1→N2→N3というようにステップを踏んで浅い睡眠から深い睡眠へと移行します。しかしお酒を飲んで寝ると、そのステップが踏めないので、本来寝ている間にしなければいけない回復過程が省略されてしまいます。こうしたことからも、お酒を飲んで寝るのはおすすめできません。