30代後半から40代の人が転職活動をするとき、「零細企業での経験しかない」という場合はどうすればいいのか。キャリアカウンセラーの中谷充宏さんは「採用人事は、『経験不足では?』『当社でやっていけないのでは?』という懸念を持つ。過剰にならずに事実に基づいて説明する、不足があれば全力で埋めるという覚悟を伝える、という2点に気を付けてほしい」という――。(第4回/全5回)

※本稿は、中谷充宏『30代後半~40代のための転職「書類」 受かる書き方』(秀和システム)の一部を再編集したものです。

履歴書、職務経歴書とボールペン
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零細企業での経験しかない場合

一流大学を出て、世界に誇るエクセレントカンパニーに入社して働いているというエリートは別として、企業数では99.7%を占めている中小・零細企業に勤務しているという人が大半でしょう。

ただ、一般的に企業規模が大きくなるにつれて、入社難易度が高くなる傾向にあり、特に同じ業界内だとその傾向が顕著なので、零細企業勤務ということ自体が転職に不利に働く場合があります。

同規模レベルの転職なら問題にならないでしょうが、事業規模の大きい中堅・大企業に応募する場合は、「規模の大きい仕事や難易度の高い仕事をやった経験がないのでは?」「当社でやっていけるのか?」と危惧されてしまう危険性があります。

「盛る」のは絶対にご法度

「いや、零細とはいえ、貴社が求めるレベルの規模や難易度の仕事をした経験がある」ということはもちろんあり得ます。例えば、少数精鋭の専門性の高いコンサルタントなどがこれに当たります。

そういった場合は、変に萎縮せずに粛々とその事実を伝えれば良いのです。

一方で「足りていないな」と感じたからといって、いわゆる「盛ったり」するのは絶対にご法度です。

2つの不安点を払拭する

「経験不足?」と「当社でやっていけないのでは?」の2つの不安点を払拭するため、過剰にならずに事実に基づいて説明する、不足があれば全力で埋めるという覚悟を伝える、がポイントです。

・零細といえども、実は応募先に見合う規模や難易度の仕事をしてきた
・1件だけだが、大型プロジェクトを完遂させた実績がある
・規模や難易度は違えど、同じ職種なので基礎は同じで、足りない部分は追いつくように頑張る

嘘やハッタリはNG

この年代が最もやってはいけないことは、大きく見せようとして「嘘やハッタリを言ってしまう」ことです。

過去の事実は変えられませんから、そこを捻じ曲げるのではなく、応募先の規模や難易度に対応できることの証明をする、でなければ対応していく強い意志を伝えるしかありません。

現状をきちんと伝え、不足部分は努力で補うと宣言

OK! 通る文例
①就職氷河期ということもあって、事業規模はそう大きくありませんが、現職に新卒入社して今に至っています。
②中小企業ゆえに、自分の仕事にだけ集中すれば良いという環境ではなく、領域外の仕事に駆り出されることもよくあります。
③もちろん規模や難易度の違いはあるでしょうが、同職種ですのでベースの部分は同じなはずで、貴社で活用できる私の経験やスキルはあると考えています。
入社後は、より一層高いレベルに対応できるよう、自己啓発にも励みたいと思っています。
POINT
①今までの事実を振り返る
②絶対に盛らないで、現状をきちんと伝える
③このように共通点を見出して、不足があってもある程度はやっていける、そして不足部分は努力で補うことを宣言する

実務経験が乏しい場合

転職先として考えている企業や業界の経験がない、乏しいというケースです。

中高年ですと、企業が求めるのは今まで培ってきた「豊富な実務経験」です。

ただ、今までの経験にとらわれず、未経験でもやりたい仕事に就きたいといったキャリアチェンジを目指す中高年も相当数いらっしゃいます。こういった人はこのケースに該当します。

中高年に求められる実務経験が不足しているので、もちろん不利になります(常に人材が不足している介護業界等や、新しい視点で新しい発想を求めるような仕事のため「未経験でも歓迎」といったごく一部の例外はあります)。

「類似した経験はあるから大丈夫では?」「応募要項に経験5年以上とあるけど、3年はあるからOK?」と、つい甘く見積もってしまいます。

法人営業の経験を求めているのに個人営業の経験しかなかったり、営業ではなく販売の経験しかないのに自分は通用すると誤解してしまうことがあります。

まずは求人情報を精読する

打ち返し以前に、まずは求人情報を精読することです。例えば、5年程度の経験が必須で、4年8カ月なら許容範囲でしょう。そもそも必須条件を満たしていなければ、応募するだけ無駄ですから。

応募できそうなら、そこで働きたい熱い思いや、足りない部分を補っていく決意を軸に打ち返していきます。

・経験はないが、やる気があれば受け入れてくださるとのこと。今後はこの仕事でやっていきたいという固い決意がある
・現時点では経験が足りていないが、初心に帰って、それこそ雑巾がけからスタートする覚悟がある
・いち早く一人前になるため、休みも使って勉強したい
NG! やってはいけないこと

経験が足りていない点をフォローしようとして、類似の経験を強くアピールしてしまうことです。

ITコンサルタントの募集があったとして、ITスキルがあってもコンサル経験がない、またはその逆といったケース。

もちろん募集要項を満たしていればOKですが、「プログラマー一筋でコンサル経験がないのに、ヘルプデスク対応の経験があるのでコンサルでも役立つ」みたいなPRをしてしまうのは、外すのでやめておきましょう。

採用に応募する人
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OK! 通る文例
①40代を目前にして、以前からやりたかったこの仕事に変わりたいという思いが強くなりました。
②そして今回、実務経験がなくても他の条件を満たしていれば応募できることを知り、応募させていただきました。
③現職では総合職だったため、人事異動も多く、未経験業務を任されることも幾度かありました。その度に自分の時間も使って、最短で周りに追いつくように励んできましたし、今回はまさしく自分のやりたいことですので、より一層頑張れると自負しています。
POINT
①やりたい仕事であることを明確にしておく
②応募に至った経緯を説明しておく
③採用人事が不安視する点を、今までの実績を用いて打ち返しておく

メンタル休職の経験がある場合

仕事かプライベートかの原因を問わず、精神面で支障をきたしてしまい、仕事ができずに休職した経験があるケースです。

中谷充宏『30代後半~40代のための転職「書類」 受かる書き方』(秀和システム)
中谷充宏『30代後半~40代のための転職「書類」 受かる書き方』(秀和システム)

専門医に診てもらうほどでもなかったという軽いケースも、入院して治療したという重いケースも、ここは同じものとして扱います。

例えば風邪をひいたら、2〜3日栄養を取って休養したら治るでしょう。

他方、重度、軽度も含めメンタルの疾病には様々なものがあり、また各人によって症状も違って、再発することもあり完治も難しいでしょう。

そのため、安定的な業務遂行が難しく、また何かしらの不慮の事件・事故が起きた場合には職場の安全配慮義務上の問題も出てきますので、採用人事としては採用したくないというのが本音です。

当人はもう大丈夫、バリバリ働けると思っていても、新しい環境で新しい仕事となったら相当の負荷がかかって、また戦線離脱ということも少なくありません。勤務に耐えうるのかは、自己判断ではなく主治医によく相談した上で決定すべきです。また完治、寛解状態だとしても、採用人事の懸念はそう簡単には拭えません。医師の診断書等でそれらを証明できたとしても、手放しで歓迎というわけにはなかなかいかないのです。

疾病に軽く触れ、今は支障がないことを伝える

既述の通り、無理してぶり返したら更に悪化することもあり得るので、まず今は勤務できる状態に復調しているということが大前提です。

その上であまり疾病の詳細には踏み込まないで、軽く触れる程度にしておき、今は支障ない旨は絶対に伝えないといけません。

・体調を崩した時期があったが、今はもう大丈夫である
・頑張りすぎた反動で休んだ時期があったが、今はもう大丈夫である
・つらくて大変な経験をしたので、普段から体調管理は徹底している

虚偽や誇大はご法度だがあえて積極的に開示しなくても

「狐と狸の化かし合い」とまでは言いませんが、採用選考において駆け引きするシーンは実際にあります。虚偽や誇大はご法度と常々から申していますが、いくら事実とはいえ、このメンタル関係は詳らかに説明すればするほど採用人事の懸念が増大するので不利に働く場合が多いです。

また、これはセンシティブ情報でもありますので、あえて積極的に開示していく姿勢も、筆者は逆効果だと考えます。

なお、繰り返しになりますが、これらの対策は、「今は働くのに何の問題もないと伝える」が大前提であることは絶対に忘れないでください。

OK! 通る文例
①実は現職で半年ほど、体調不良で休職した時期がありました。
②同じ職場の仲間が急に退職し、新しい社員も入ってこない状態で、私が2人分の仕事を抱えることになったのが原因です。
③体調不良について早めに上司に相談したこともあって、仕事への影響は最小限度にとどめることができ、その後、回復まで十分なお休みをいただきました。そのため、今は元通りの仕事ができています。
POINT
①疾病の具体的な名称や症状等には、あえて触れない
②納得感の得られる、よくある事象であれば伝えておく
③今は問題なく働けるという点は絶対に伝える