できる限り自宅でひとり暮らしを続けたいという人は多い。ジャーナリストの小山朝子さんは「いずれ他者の介助が必要になるときがきても、自分で自分の介護をすることは可能だ」という――。

※本稿は、小山朝子『自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

たばこを吸っているシニア
写真=iStock.com/Doucefleur
※写真はイメージです

「自分で自分の介護をする」とは

「自分で自分の介護をする本」という本書のタイトルを見て、身をよじりながら自分をお世話をしている自分の姿をイメージした人もいるかもしれません。

「介護」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは「介助」という言葉で表現される行為で、具体的には食事・入浴・排泄など日常の動作の手助けをすることを指します。

一方、「介護」はその人が望む生活を送るための支援であり、その実現に至るまでの過程も含みます。

私流の解釈では、「介助」は誰かの力が必要になるかもしれませんが、「介護」は自分自身でできることもあるように思うのです。例えば体が不自由になった場合に自分はどのような生活を望むのか、その生活を送るための計画を立て、実行していく――。そんなふうに人々の中の介護のイメージが能動的なものへと変わってほしいと考えています。

タバコを吸いながら死ぬまで自宅で暮らしたい

かれこれ20年以上前になりますが、当時私は、認知症でひとり暮らしを続けている男性の取材をしていました。長いあいだ、自分の住む町で洋服の仕立て屋さんを営んでいたとのことで、ご自宅を訪れると洋服などが所狭しと散乱し、部屋の片隅には古い足踏みミシンがありました。

私と出会ったとき、すでに日常会話がままならない状態でしたが、彼は元気だった頃から「自分はタバコを吸いながら死ぬまでここで暮らしたい!」という主張を繰り返していたため、介護サービスを提供するスタッフや近所の方々が、火事を起こさないようにと交代で見守りをしていました。

ご近所の方によるこの「介護」のかたちは、ずっと私の心に残り、自分の望みを常々口にすることで、彼もまた「自分で自分の介護」をしていたのだと、いまになって考えるようになりました。

ひとり暮らしの高齢者はこんなに増えている

独身者や結婚しても子どもを産まない夫婦、さらに子どもがいる場合でも「別に暮らす」という選択をする人など多様な家族のかたちや柔軟な考え方が受け入れられる時代になってきました。

70代の私の母は都内でひとり暮らしをしています。心身の不安は近所の主治医に相談しながら、寝起きや食事も自分に合った時間に設定し、生きがいとしている創作活動を続け、多くの友人に囲まれた彼女の生活は、充実しているように見えます。

2020年の国勢調査によると、ひとり暮らしが世帯全体の38.0%を占め、単身高齢者は5年前の前回調査に比べ13.3%増の671万6806人に増えました。65歳以上のひとり暮らし世帯が増加しており、高齢者5人のうち1人がひとり暮らしとなっています。

【図表】子どもとの同居を希望するか?
※『自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)より

今後はとくに首都圏をはじめとする都心部において高齢者が急増する見通しです。ひとり暮らしの人が増加している理由は、配偶者との死別で独居になった女性の存在や、未婚化による独身者の増加、高齢の親と子の同居率の低下なども影響しているでしょう。

ひとり暮らしの高齢者に取材をすると「子どもからの同居の誘いを断った」という答えが意外とあり、驚かされます。私も母を気遣い、「実家に遊びにいく」と電話で伝えると「いま自分のことで忙しいから」と素っ気ない対応をされることがしばしばあります。

大切なのは「いつか、ひとりになる」と覚悟を決めること

老後の頼れる存在として子どもに期待しても、希望どおりにいかなかったという話を耳にします。また、長年連れ添ったパートナーに先立たれ、ひとりの生活に不安を感じる人もいるでしょう。大切なのは「いつか、ひとりになる」と覚悟を決めること。そうすれば子どもへの期待が裏切られても落ち込むことはありません。

いまの時代、独身、子どもなしという人生を自ら選択する人も増えています。この背景には、共働きでも収入が安定しない、働く女性が増えたといった社会的な変化はもちろん、「条件に合う結婚相手がなかなか見つからない」、「自由な時間を大切にしたい」といった個人的な理由もあるでしょう。

国立社会保障・人口問題研究所が公表した2020年の生涯未婚率(50歳の時点で一度も結婚したことがない人の割合)は、男性が28.25%、女性が17.81%に達しています。現在ひとり暮らしでも、家族と同居していても、多かれ少なかれ将来に不安がある点は、共通しているのではないでしょうか。

【図表】積極的に結婚したいと思わない理由
※『自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)より

結婚しても「子どもをもたない」という選択

子どもがいない女性が増えたと感じます。この感覚は調査でも実証済みで、経済協力開発機構(OECD)のデータベースによると1970年に生まれた女性の50歳時点での子どもがいない割合は27%(2020年)。先進国のなかでも日本は最も高い割合です。

さらに厚生労働省が発表した2022年の人口動態統計によると出生数は77万747人で初めて80万人を下回り、女性1人あたりの子どもの数を表す合計特殊出生率も1.26で過去最低となりました。

【図表】子どもが欲しくない理由
※『自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)より

昨今の出生数の低下はコロナ禍による婚姻数減少の影響もあるとされていますが、2015年までは「結婚したら子を産む派」の割合が高かったのです。しかし、2016年以降は結婚した人も子を産まなくなってきたという分析もあります。

欧米を中心に「チャイルドフリー」という考え方が注目されています。子どもを持たない人生を充実したものだと考える人たちを指す言葉です。これからは多様な価値観に対応したシニア向けのサービスも増えていくかもしれません。

「死亡年齢最頻値」をふまえて老後のひとり暮らしの想定を

長年にわたり介護施設などに出向いて取材や調査をしていますが、近年、90代や100歳を超えた女性とお話しすることが珍しいことではなくなってきました。これまでお会いしたなかで印象深いのは、元看護師と元教師だったおふたりです。私がお会いした当時、前者の女性は104歳、後者の女性は102歳で、ともに私の質問にハキハキと応じてくださったのを覚えています。

ところで、みなさんは「死亡年齢最頻値」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。厚生労働省の簡易生命表データのなかで「最も死亡者数が多かった年齢」のことで、2020年の死亡最頻値は、男性88歳、女性93歳になっています。一方、平均寿命とは0歳時点での平均余命のこと。この数値のなかには若くして亡くなる人も含まれているため、「死亡年齢最頻値」の年齢のほうが現実的かもしれません。

100歳超えの可能性もあり得る現在、ひとりで暮らす期間は想像以上に長くなるかもしれないことを想定しておきたいものです。

【図表】男女の寿命
※『自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)より
【図表】年齢別死亡件数
※『自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)より

書き出すことで不安が明確になる

子どもがいない30代後半の女性から「この先、老後が不安」だと打ち明けられました。私は30代後半で同居していた祖母の在宅介護を終え、当時はまだ自分の老後についてまで考える余裕がありませんでした。

小山朝子『自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)
小山朝子『自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)

例えば、子どもがいない夫婦が不安に思うことのひとつに相続があります。亡くなった側の親が健在なら配偶者と親、親が亡くなっている場合は配偶者と兄弟、兄弟が亡くなっている場合は配偶者と甥・姪とで遺産分割協議をする必要があります。遺産分けによる争いを避けたい場合は遺言を残すことで配偶者に財産のすべてを残すことができます。遺産分割協議をする必要もなく、残された配偶者の手続きの負担も軽くなります。

不安の内容は人それぞれ異なります。ひとり老後の準備をするためにまず始めることは、自分にとって不安なことは何かを具体的に書いてみること。書くことで自分がいだいていた不安が明確になります。それらを少しずつ調べたり、行動に移してみることで「いま」すべきことがわかり、解決の糸口を見出すことができるでしょう。