※本稿は、矢本治『なぜミーティングで決めたことが実行できないのか』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
自分の思い込みで失敗するか適切な判断で成功するか
いろいろな会社のミーティングを見ていると、リーダーは、「適切な判断によって成功するリーダー」と「自分の思い込みで判断して失敗するリーダー」の2つに分かれます。
その違いはどこからくるのかというと、1つは集まる情報の量とスピードです。
唐突ですがペットボトルを例にとると、見る角度によって形が全然違いますよね。真上、真下、横、斜めと、様々な角度から見ることで、本質的な形を把握することができます。
仕事上の問題も、ある意味、このペットボトルと同じです。
AさんとBさんが社内でトラブルを起こした場合、Aさんの話だけを聞く場合と、両者の話を聞くのとでは、得られる情報も違えば自分の見解も変わってきます。
さらに、両者のトラブルを近くで見ていたCさんの話も聞くことで、さらに情報が増え見解が変わる可能性も出てきます。
つまり、情報という視点は多いほうが、本質的な問題を把握できたり、適切な解決策を導き出せる確率が高くなります。
また、情報が届くスピードも、速ければ速いほど問題は解決しやすくなります。
例えば、社会人の報告・連絡・相談の基本に、「ミスやクレームなどの悪い情報ほど上司に素早く報告し対処する」がありますが、①すぐ情報が集まり早期に解決できるリーダーと、②責任追及を恐れた部下が報告をためらううちに問題が大きくなり、重い対応を迫られるリーダーの差などが代表的なケースです。
「聞く力」に優れたリーダーが気をつけていること
このように、集まってくる情報の量や、その情報が届くスピードが、リーダーによって差がついてしまう原因は、そのリーダーの「聞く力」にあります。
「聞く力」に優れているリーダーはどんなことに気をつけているのでしょうか。
それはミーティングを見ていればわかります。
ここではミーティングの場を例に、共通する3つのポイントを紹介します。
「人の話に耳を傾ける」原則を守って自由な意見を募る
①発言内容を裁かない
気持ちのよいコミュニケーションの原則は、「人の話に耳を傾けること」です。そうすることで、集団の中で非難や拒絶の不安がなく安心して自分の意見を発言できる心理的安全性が作られます。
そのためには、まずリーダーは「発言内容を裁かない」が基本です。
「裁く」ということは、自分の中には正しい答えがあり、それ以外のアイデアや解決策は認めていない状況になります。しかし、これだけ変化の速い時代に、「唯一正しい答え」などは存在しません。
ミーティングや普段のコミュニケーションで、部下が自分の想像していた答えと違うことを言ってきたとき、
「あれだけ言ってるのに!」
「それは違うだろう?」
「その考えは難しいなあ」
とその場で裁くとどうなるか? 部下は上司の反応をじっと見ているのです。そして、(あ、これは言ってはダメなことだったんだ)と学ぶ。そして、無意味な叱責や衝突を避けるため、「今後は余計なことを言わない」。
部下の発言を裁くと「裸の王様」状態になってしまう
どうしても発言を求められる場では、「自分の意見」ではなく、上司の考えを忖度した回答をするようになります。
このようにして「裸の王様リーダー」(上司)が完成するのです。
様々なアイデアや解決策を集め、効果的な決定をして明るい未来にしていきたいのに、部下が「リーダーの答えを探して無難な発言をする」ようでは、忙しい中、わざわざ集まってミーティングをしている意味がありません。
すべての現場や状態を把握することはできません。部下から自分の気づかない視点や情報をどんどん集めていくリーダーを目指すなら、「裁く癖」は改善しましょう。
自分とは違う意見は新たな視点を示してくれる
②違う考えを歓迎する
「でも、『変な意見だな』と思うと、表情がつい変わっちゃうんだよね」
「なんか腹立たしい気持ちを抑えられない」
そんなリーダーも多いかもしれません。いくら我慢をしても、表情からにじみ出てくるイライラや怒りは、相手に伝わってしまうものです。
このような場合は、「我慢をする」「イライラを抑える」ではなく、捉え方・感じ方を変えてみる方法をおすすめします。具体的には、
→間違った見解ではなく「個性」
→自分が気づかない視点を提供してくれた
そのほか、「自分の常識は他人の非常識」と考えてみるのも一案です。
国や人種が違えば常識もまったく違うように、あなたが思う常識も、基本は「幼少の頃から積み上がってきたあなたの個性の塊」です。
このように考えてみれば、聞いているあなたの表情は変わってきます。
成功確率の高い決断をできるリーダーは、聞くスキルに長けています。そして、ミーティングでの聞くスキルが、リーダーのみならず、発言者以外の全員に身に付くことで、職場の雰囲気はガラリと変わります。お互いの個性を活かし、尊重し、協働できるチームへ進化させていきましょう。
忙しくてイライラしても部下の話の腰を折ってはいけない
③話を最後まで聞く
あなたは部下の話を聞くとき、発言の腰を折らずに最後まで聞いているでしょうか。
「ちょっと待て! なんでそうなるの?」
「あーわかった! 要するに君が言いたいのは、こういうことだよね?」
「(話の途中で)で、何が言いたいの?」
おそらく「聞いてるよ」と断言できるリーダーは少ないことでしょう。
僕も組織の中で管理職をしていた頃はそうでしたから、気持ちはわかります。リーダーは忙しいですから、とりとめのない長い話や言い訳めいた内容を最後まで聞いている時間はない。どんどん判断しないと、自分が大変なことになってしまいます。
でも、立場を変えて、もしあなたが話している途中に上司が同じように話を遮ったらどう感じるでしょうか。報告したら怒られたり、早合点の要約をされたり……。そんな経験を繰り返したら、気分は良くないですし、報告するのが嫌になりますよね。
もちろん、「まとまりのない報告をする」「事実と解釈を分けて説明できない」「結論を言わずにダラダラ経緯ばかり話す」など、報告の仕方に問題のある部下もいますから、適切な指導をする必要もあるとは思います。
上司の機嫌が悪く見えると、部下は「自分は悪くない」と思う
①最後まで話を聞いたうえで「今後はこのように報告して」と指導するリーダー
②最後まで話を聞かずにイライラした口調で指導をするリーダー
どちらのリーダーの指導が効果的か、よく考えてみましょう。
②の部下になると、「機嫌の悪いときに話しかけたから怒られた」と、自分の報告のまずさを省みることもなく、「イライラしがちな上司と非のない部下」という勝手な解釈をします。これも問題なのです。
話を最後まで聞かない上司のもとでは、仮に報告の仕方を上司が指導したとしても、部下が素直に改善する可能性も低くなります。
忙しい普段の会話から気をつけるのは難しいかもしれません。だからこそ、最初は「ミーティングのときだけ」でかまいません。話を最後まで聞くミーティングを繰り返すことで「普通にできる」に少しずつ変わります。「聞く力を持つリーダー」になりましょう。
議論が活性化するかどうかは「場作り」にかかっている
また、ミーティングで活発にアイデアや解決策が出るかどうかは、リーダー(進行役)の「場作り」に大きな影響を受けるのは、皆さん容易に想像できると思います。
僕はクライアント先のミーティングで図表1のような投げかけをしています。キーワードは「無責任でOK」「人と違って当たり前」「質より数が優先」「自由」です。
アイデアを出すために考えて書く場合は、「他の人はどんな内容を書いているのか」「自分だけ的外れなことを書いていないか」と、最初は誰でも不安になります。その不安をなくすのです。
一般的に、部下は上司の顔色をうかがいながら仕事をし、日々のコミュニケーションも上司の「答え探し」をするケースが多いです。
過去に否定されたり、怒られた経験があり、それがいつしか「何を言えば穏便にすむか」に注目するようになるからでしょう。部下が本来持っている様々な視点や情報を引き出し、個々の「考えるカ」をレベルアップさせるには、そうした“答え探しの呪縛”から解放してあげるのが大切です。
心理的安全性を確保して、「人と違うことでも安心して発言できる雰囲気」にすることがリーダー(進行役)の役割になります。