※本稿は、矢本治『なぜミーティングで決めたことが実行できないのか』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
実行できないのは脳には変化を嫌う「恒常性」があるから
人間の脳は自分の生命を安定維持するため、できるだけ変化を避けて現状維持をしようとする防衛本能が働いています。身近な具体例は以下のとおりです。
・気温にかかわらず、体温を一定に保つ
・軽いけがをしたり、かぜをひいたりしても、時間が経てば健康な状態に戻る
・体内の水分量を一定に保つ
・ダイエットを始めても体重は簡単には減らない
これをホメオスタシス(恒常性)といいます。
つまり、新しい行動ができないのは、個人の能力的な問題や、やる気の問題だけではなく、より強い防衛本能が新しい行動を抑制していることが原因だとも判断できます。
「なぜ年始に立てた新しい習慣が身に付かないのか」「なぜダイエットが難しいのか」が理解できると同時に、単にモチベーションや気合い、根性に頼っていては動けなかった理由もわかります。
新しいことを成功させるには最初の一歩が鍵
例えば、ダイエットを決意し、ジムに入会しました。仕事が早く終わったので、本来ならジムに行きたいところ。でも、今日はハードワークだったので、そんな気になれない……。
頑張ってジムに行くか、ビールでも飲んでダラダラ過ごすか、悩みますよね。
そんなとき、「あんまり運動しないかもしれないけど、とりあえず行ってみよう」とジムに行き、頑張っている人を見ているうちに、結局1時間トレーニングをした。ほかにも、「数ページだけ読むつもりで読書をしたら30ページも読んでいた」「少しだけ手をつけた仕事が、気分が乗ってきてキリのいいところまでやりたくなった」、そういった経験はないでしょうか?
前述のジムでいえば、「ジムで運動すること」と「とりあえずジムに向かう」ことの、どちらがハードルが高いか?
この場合、ハードルの低い「最初の一歩」にいかに着手するかが実行力を決めています。運動をする気はなくても、ジムに向かい動き始めることで運動へのやる気が高まります。
この理由は脳の側坐核という部分の特性と関係があるようです。
ドーパミンを出す脳の仕組み=側坐核のスイッチを入れる
私たちの脳には「側坐核」と呼ばれる場所が存在します。
側坐核が刺激されると、意欲を高めたり、楽しいと感じる「ドーパミン」というホルモンが分泌されます。ドーパミンが行動力の源になるわけです。
“側坐核のスイッチ”を入れさえすれば、誰でも、すぐに動くことができるようになります。
でも、ここで重要な事実は、側坐核というスイッチは、「よし、やるぞ!」と気合いを入れても入らないことです。
周りの人から、「頑張ってね!」「応援しているよ!」と応援されたり、「早くやれ!」「なんですぐに着手できないんだ!」と叱責されてもスイッチは入りません。では、どうすればいいのでしょうか?
側坐核は「なんらかの行動を起こす」ことで刺激を受け、ドーパミンを放出します。つまり、気合や根性といった意識的なものではなく、「行動に着手」することで、はじめてスイッチがオンになるのです。
「そうはいっても動けないから困っているんだけど……」という声も聞こえてきますが、大丈夫です。側坐核のスイッチを入れるために必要な行動は「ほんの少し」の、ハードルの低い行動だけでもいいのです。
自分で自分を行動させるコツはハードルを下げること
普段の職場でも、ミーティングでも、ほんの少しハードルを下げて実行していくために図表1のように三つのポイントがあります。
一つ目は「小さく始める」です。
任された業務であれば、まず細分化します。細分化することでファーストステップを簡単にして、取りかかりやすくするのが目的です。
「ホームページのリニューアル」であれば、「トップ画面を見て、気になった部分をメモ書きする」だけでもいいのです。
これを「まず改善点を洗い出し、他社のホームページをチェックして、他部門の意見もヒヤリングし、その後、デザイン部門と相談し、上司の了解も得て……」と頭で思い描いて動こうとすると面倒になり、「とりあえず他の業務を先にしよう」となるわけです。
二つ目は「短い時間から始める」です。これは時間的なハードルを下げることです。2、3時間かかりそうな仕事を、まず少しだけ着手し、4分経ったらやめていいといったルールを決めてスタートします。
前述のホームページの例でいえば、「30分だけやってみて、気が乗れば引き続き進めてもいいし、他の業務がやりたいと思えば、そっちに着手する」と決めて動きます。
完成度は100点でなくても70点ぐらいでいい
三つ目は「完成度を下げる」です。これは完成度に対するハードルを下げる考え方です。例えば、上司が「早く取り掛かれ」と指示しても、「情報を全部得てないので、まだできない」と返す人がいます。
何事も完璧にしようと思うあまり、慎重すぎる対応になってしまうのが行動力のない人の特徴です。70%の完成度でいい。未完のもので走りながら改善するくらいに考え、まず着手する習慣が大切です。
時間が足りなくなるのは新しいタスクが発生するから
僕たちは無意識に「未来の時間」を多く、言いかえれば甘く見積もることをしています。
「1週間後には今よりゆとりがあると思っていたけれど、実際その時になってみると時間が全然なかった」という経験は誰にでもあるはず。
なぜこのようなことが繰り返されるのかというと、自分たちが読み切れない「今までの予想を超えた新たな仕事」という存在を忘れているからです。
未来は、自分が思っているほど時間はありません。
仮に今、スケジュールが空いていたとしても、必ず何かで埋まってしまうリスクがあることから、僕は「実行の第一歩は今から72時間以内に必ず行う」ということをおすすめしています。
実行の第一歩は今日、もしくは72時間以内に必ず
できれば「今日」、すなわち当日に着手するのがベストです。
ただ、ミーティングにも一定の時間をとられているので、他のスケジュールが詰まっていて“余白”がないことも多いでしょう。
経験上、4、5日後に着手となるとミーティングの細かな内容を明らかに忘れてしまう人が多いので、試行錯誤を繰り返し、「今から72時間」が実行の第一歩としています。
もちろん、優先順位は、①今日→②明日→③3日後の順です。遅くなればなるほど思い出す作業が必要となり、記憶との戦いになります。
そして、後になればなるほど、「今までの予想を超えた新たな仕事」などが舞い降りてくる確率が高まるので要注意です。
成果を出したいとき、根拠のない楽観視をするのはやめましょう。
単に「先延ばし」するのではなく、「直近の日程を細やかに調整」しながら、大事な仕事をスケジューリングしていくことが大切です。
確実に実行するため、未来の自分にアポ取りする方法
「72時間以内の最初の一歩」を意識させるだけでなく、先のスケジュールも具体的に決めます。
例えば、
第一歩はいつ? →「○月○日にYさんと△△を実施」
その次のステップは? →「□□を○月○日に個人で実施」
などです。
さらに、この内容をスケジュール帳にすぐに書き込みます。
これを僕は「未来の自分へのアポイントメント」と言っています。
多くの組織では、「時間が空いたら」「すきま時間を見つけて」「作業の合間に」と言って、こうした内容をきちんと決めずに解散してしまいます。
日常業務で忙しいあなたに「すきま時間」は永遠にやってきません。だから、先に「予定を決める」「手帳に記入してブロックする」のです。
未来の自分に“アポ取り”することで、決めたことへの実行力は格段にアップします。