※本稿は、矢本治『なぜミーティングで決めたことが実行できないのか』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
「後ほど」といわれた案件がすぐ着手されることはない
ミーティングには成功の方程式があります。
この掛け算を意識した行動を繰り返すことが成果を出すためのプロセスです。
アイデアは、目新しい工夫や着想、問題の解決策を出し合って決めるステージ。
実行は、決めた内容の具体的な行動計画を設定し、実行するステージ。
継続・改善はその後の修正・改善を繰り返すことで質を高め、成功率を高めるステージ。
掛け算なので、何かがゼロだと成果はゼロになります。
今でも「参加メンバーが発言しない」という相談はあるものの、「通常業務が忙しくミーティングで決まったことへ着手できない」「アイデアがあっても人手不足で行動に移せない」といった相談が増えてきています。
今、成果が出ないチームに多いのは、「実行ができない」または、「実行後の継続・改善ができていない」ケースです。
PDCAサイクルの「PLAN=計画」が中途半端になりがち
成功の方程式をPDCAサイクルに置き換えると……
成功の方程式を、一般的に馴染みのあるPDCAサイクルに置き換えると上表のようになります。
多くのミーティングでは、「誰が・何を・いつ」までを決め、しかるべき担当者らしき人物が、「詳細の計画は後ほど作ります」と述べて解散します。
しかし、しかるべき担当者は業務に忙殺されて、「詳細は後ほど」という案件が近日中に対応されることは、ほぼありません。
現場に戻れば、みんなで話し合った記憶もやる気もどんどん薄まっていきます。具体的な行動計画は中途半端になったまま、結果的に実行できない悪循環を繰り返すケースが非常に多い。
つまり、実行(D)の前の計画(P)が中途半端な状態になったままなのです。
この状態では当然、実行(D)に進みませんから、PDCAサイクルのこの後のC・Aも回りません。実行の前の「計画段階」が成果を出せない原因の1つであり、改善のチャンスになる部分です。
1年先が読めないからこそ「迅速+柔軟」な行動を重視
今の時代は、僕たちを取り巻く環境が大きく変わってきた影響で、特にこの実行力が重要視されるようになってきました。
銀行には3カ年計画を出している企業が多いと思いますが、3年先どころか1年先ですら正確に予測することが難しくなっています。
東日本大震災以降、日本特有の地震に代表される天災(地震・雨・台風・雪)で、計画変更をした会社も多かったはずです。
その後、2020年からはパンデミック、感染症の世界的流行が猛威を振るいました。
天災にしろ、パンデミックにしろ、これらを半年前に正確に予測し、準備をした企業はどれだけあったでしょうか? さらに追い討ちをかけるように戦争・円安・物価高……。
昔のような3カ年計画や5カ年計画を綿密に作ったところで、今は役にたちません。
こうした予測不能な中でも、業績を伸ばしている企業は存在します。
そうした企業に共通するのは、「綿密な数カ年計画」ではなく、1年計画をベースに短期(2〜3カ月)で行動計画を立て、実行しながら外的環境を踏まえて臨機応変に修正している点です。
つまり、成果を出している企業は、「熟考」ではなく「走りながら修正」しています。
「まずやってみてダメなら変える」くらいがちょうどいい
今までの計画の立て方や修正の仕方は、以下のような流れが一般的でした。
【昔ながらの一般的な計画の立て方・修正の仕方】
①1年後の目標と計画を入念に考え
②ゴールから逆算して各月の数字や行動計画を立て
③計画・実行は担当者任せ
④細かな進捗確認に力を入れず
⑤1カ月後に進捗確認。当初立てた目標や計画に基づいて修正・実行
今、成果を出している企業は、以下に示すように、一般的なやり方をしていません。
【成果を出している企業の計画の立て方・修正の仕方】
①1年後の目標と半年後の目標、取り組む重点項目を決め
②直近2カ月計画、特に1カ月以内は綿密に立て
③まずは実行してみる
④2週単位で実行できるように修正・改善を繰り返し
⑤2カ月後、社内外の状況を見ながら、先の2カ月の計画(1カ月以内は綿密)を立てて実行
1年計画でさえ綿密に立てることが徒労に終わるケースが増えました。
「時間をかけて計画を立てたのに、あっけなく変更を余儀なくされた」「退職者が相次ぎ、3カ月後の人員確保も困難」、そうした状況が、ごく普通に起きていないでしょうか。
たとえ準備不足でも実行したほうが成功確率は上がる
だから「仮計画・仮実行」の気持ちで計画を立て、実行してみる。定期的に1年目標と社内外の状況を見ながら、2カ月単位で“行動”計画を作成する。直近の時間を大切に「今できること」にフォーカスしながら“考動”するほうが時代にフィットしているのです。
今、業績を伸ばしている企業の共通点、それはとにかく「動いている」、つまり実行力があることです。
パンデミックに直面したとき、台風に巻き込まれたかのように「過ぎるのをじっと待っていた企業」と「不測の事態の長期化も想定し、自分たちにできることは何かを考え、動いた企業」では、3年経って大きな差が出ています。後者のほうが成功確率は上がっているのです。
頭で考えていたことが、成功しそうなのか・失敗しそうなのかは、少しでも行動することで一定の結果が見えてきます。その結果に対し、次の手を打つ――。
頭で考えるだけで一歩も進んでいない会社と違い、歩いた数が違います。失敗に終わった一歩でさえ、その経験が再発防止に活かせるのです。
これを3年間も続けていれば、大きな差になりますよね。
「何が正しいのかわからない」「何をやれば成功するのかも見えない」、そんな唯一正しい正解がない状況の中での行動は、当然リスクも伴います。
それでも、成功と失敗を繰り返してきた企業にだけ、そのうちのいくつかが実を結び、現在の優位性をもたらしてくれています。
ユーチューバーさえ新興のTikTokを馬鹿にしていた
変化のスピードも実行力が重要視されている背景と関係しています。
例えば、YouTubeが出始めた頃、「あんな短い時間で素人が作った質の低い動画が流行するわけがない」と馬鹿にしているテレビ業界の人もいました。
実際は、10分、15分のすきま時間に気軽に楽しめるYouTubeがブレイクしました。今では人気のユーチューバーがテレビ番組にも出演しています。
その後、TikTokを始めとした様々なショート動画が増えてきました。このTikTokも出始めの頃、YouTube界隈で評価しない人たちもいました。「あんな短い動画で何が伝わるんだ」と。でも、瞬く間にブレイクしました。
変化の速さに対応する実行力も生き残りの重要ポイント
僕は全国のクライアント先に向かう移動手段として電車をよく利用します。電車の中で座っている人たちを見ていると、時代の変化がよくわかります。
昔、サラリーマンが新聞を読んでいる光景が目立ちました。その後、スマートフォン(以下、スマホ)が登場すると、紙の新聞を読んでいる人は、ほとんどいなくなりました。
スマホを手にしている人も、当初はテキストやインスタグラムなどの画像を見ていましたが、今はYouTubeやTikTokなどの動画を見ている人が増えました。
コロナ前と後のたった2、3年でも、環境が様変わりしたのは記憶に新しいところです。皆さんのそれぞれの業界も変化したでしょうし、なかった場合は変化の波がこれから必ずやってきます。
ビジネスツールなどの多様化も軽視してはいけない
変化の速さに加えて、今は複雑に多様化していることへの対応も迫られています。例えば連絡ツール。これは僕自身の体験ですが、会社を設立した13年前は、クライアント先の皆さんとの連絡は電話を除けばメール1択でした。
今、連絡手段はチャットが主流です。LINEワークス、LINE、チャットワーク、Googleチャット、Messenger……、クライアント先に合わせていくと、ツールがどんどん増えていきます。同じ会社で複数のチャットを同時活用することも珍しくありません。
こうなってくると「前回送ったメッセージは、どのツールの、どのグループに送ったのかな?」と探したりする煩雑さがあります。
しかし、ちょっとしたやり取りはもちろん、決断や共有が、どこでも素早く確実にできるメリットも享受しています。
このように「変化が速く」「複雑に多様化」していることが、実行力重視に拍車をかけています。つまり現状維持は後退となるため、企業は常に行動が必要なのです。