一方的にしゃべり続ける顧客へはどのように対応すればよいのか。人材育成コンサルタントとして、ハラスメント行為者へのカウンセリングを専門に行う松崎久純さんは「くだらない話を続ける顧客の相手など、多くのビジネスパーソンにとって当たり前。それは仕事の一部に過ぎない。そう考えることができる人には、そのエキスパートとして、優秀な聞き手を目指すことをお勧めします」という――。

一方的にしゃべり続ける顧客にうんざり

一方的にしゃべり続ける顧客にうんざりしています。よく食事に誘われ、ご馳走してくれるのはいいのですが、毎回、長々と仕事に関係のない話をされ、ほとほと嫌になっています。話を聞くのも仕事とわかっていますが、今時こんなことあるのでしょうか――30代の会社員の方からのご相談です。

昔も今も変わることなく、実に多くの人が、取引先の人を相手に、仕事と関係のない話を延々としています。

営業のように顧客との関係を構築するのが担当業務であれば、どんな話でも徹底的に聞くのが仕事です。それがイヤとなると、顧客と直接的に接する仕事では、今後も同じ苦痛がつきまとうでしょう。

耳に指を入れているチンパンジー
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他の人が話し始めると「ふ~ん」と生返事

こういう私も相談者の方の気持ちはよくわかります。

私も受注のためなら、トコトン話を聞くタイプですが、一方的にしゃべり続ける人は、大抵の場合、相手の話に関心を示すことはなく、気持ちのよい会話は成り立たないからです。

たとえば、「先日の地震が起きたときに何をしていましたか」と尋ねると、その際の様子を詳細に話し出す人がいます。

最近この質問をして、話が長かったのは、「勤務先の高層ビルから階段で下へ降りることになったが、途中で一緒に降りていた人とはぐれた」というエピソードからはじまり、その後の移動の様子を事細かに語った人でした。

しかし、感情をたっぷり込めた様子の再現が終わり、他の人が「私は、あのとき横浜にいました」と話しはじめると、その話にはまるで関心を示さず、そっぽを向いていました。

他にも、地方から遊びに来ていた家族が、帰りの長距離バスに乗り込んでいたが、結局バスが出発しなかったという学生も、ノリノリで長い話をしましたが、やはり他の人が話し出すと、「ふ~ん」と生返事をするだけで、目の前の食べ物に集中していました。

割り切って付き合うことが大事

自分のことを話したいだけの人たちの振る舞いは未熟で、コミュニケーションの取り方は洗練されておらず、会話が双方、あるいは皆にとって楽しいものにはなりません。

その振る舞いを見て、周囲の人たちは「何だ、この人は」と思わずにはいられず、イヤな気分になってしまうものです。

したがって、そうした人たちを相手にする時は、仕事あるいは、そうするのが義理だと割り切って付き合わないと、がっかりすることになります。

相談者の方は、同じ相手に、繰り返し付き合わされているようですから、「もう勘弁して欲しい」という気持ちになっているのでしょう。

BLAHと書かれた紙を持つ人
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私も定期的に会う取引先の人から、いつも長い話を聞かされていたことがありました。

先月は、何時間もかけて、東大医学部を出て、よく名の知られた大学病院に勤務し、スポーツカー好きという息子の自慢話を聞いたかと思えば、今月は、他の難関大学を卒業した娘の自慢を聞くという具合です。

どんな相手と結婚し、どんな生活ぶりか。今は夫の赴任先の○○市で、どんな間取りの部屋に住んでいるか、といったことまで延々と話が続きます。

彼らは欲しがっている仕事を与えてくれることが多い

ただ、こうして話をする人たちは、こちらが欲しがっている仕事は与えてくれることが多いものです。

人は、話をトコトン聞いてくれる人には自分を認めてくれていると感じ、できるだけのことはしてあげたいと思うのです。

したがって、相手が仕事を欲しいと知っていれば、便宜を図ってくれるわけです。

聞き上手で営業をやっている人は、いつも自分の話を聞かせる見込み客から、「そろそろ何か買ってあげないとね」と、言われたことがあるのではないでしょうか。

相手との関係性から、もう話を聞かないようにするのは簡単というケースもあるでしょうが、仕事がらみの相手であれば、イヤだという気持ちは抑えて、演技をしながら話を聞き続けることも多いはずです。

その際には、代わりに、仕事の注文はしっかりともらうようにしましょう。

話を聞いている時間は、あなた自身が、あるいは勤務先の会社が、受注のために投資している時間です。もちろん、それは口にすべきことではありませんが、そうしたプロとしての意識は高く持っておきたいところです。

無料で客の話を聞いてもいいという(たとえば)ホステスさんがいたら、その人はホステス失格だと思いませんでしょうか。

人は誰かに自分の話を聞いてもらいたい

人は誰かに自分の話を聞いてもらいたがっています。これは普遍的で永久的、つまり今後もなくならないことです。

もちろん、そんな行為は愚かだと考え、自分ではしないように気をつけている人も多いでしょう。

しかし、夜の街でお金を払って話を聞いてもらう人、同僚や後輩に話を聞かせたがる人が、どれだけ多いか。年配者だけではありません。若くても自分の生い立ちや半生を語りたがる人は多いものです。

自分の体験や考えを話したがる人は多く、口頭だけでなく、感じたことをわざわざネットに書き込んだりする人もいるわけです。

そうした中で、自分の顧客が本人のことを話しはじめても、何ら不思議はありません。

彼らは、あなたやあなたの考えにはまるで関心を示さず、自分のことばかりを聞かせようとするかもしれません。

そんな人の話に付き合うのはイヤというのは、当たり前の感覚です。

しかし、彼らに何かを売りたければ、そんな話は聞きたくないと態度に出すのは得策でないことは、あまりに明白です。

消沈するビジネスウーマン
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我慢を続けると体を壊してしまう

「一方的にしゃべり続ける顧客にうんざり」。こう感じるのは自然ですが、相手に気分よくなってもらう接待なしでは、多くのビジネスが立ち行かなくなります。

顧客の顔色をうかがったり、ご機嫌を取るのも仕事のうちと考え、それは世の中に普通にあることと「あらためて自覚」できたら、その上で、どうされたいかを再度考えてみることをお勧めします。

私はここで、イヤな話でも聞き続けるべきと、お話しするつもりはありません。

くだらない話を続ける顧客の相手など、多くのビジネスパーソンにとって当たり前。それは仕事の一部に過ぎない――こう考えることができれば、そのエキスパートとして、優秀な聞き手を目指すことをお勧めします。

聞き上手になってみようと思われた時には、聞き方のテクニックを学ぶことで、自己のストレスは緩和しながら、スキルの上達を目指すこともできます。

しかし、「イヤだと思う話を聞き続ける」のは、切実な問題にもなり得ます。

私はこれまで、接待を仕事の一部とする商社の人などが、若い頃から毎晩のように飲酒を伴う接待を続けて、40代で病気になってしまうケースを数多く見てきました。

あくまでも(医学的な知識のない)私個人の思うところに過ぎませんが、お酒を飲むだけでなく、我慢して人の話やわがままを聞く人が、頑張り続けると体を壊しやすいように思えるのです。

一方的な話を聞き続けるのは、それなりのストレスが伴います。ですから、相談者の方には、必ずしも我慢を続けることはお勧めしたくありません。

百戦錬磨の強者でも、苦手な顧客はいたはずです。そうした意味で気楽に、よくあることに直面していると考え、現状にどう対処したいのかを考えてみましょう。

苦痛な時はムリに耐える必要はない

ここでは最後に、考え方のヒントになることをご紹介しましょう。

一方的に話す顧客の話くらい、いくらでも聞けると思っている人は、その顧客のことは、お金に見えているものです。

この話を聞き続けたらいくらになる、来年も契約を更新してもらえる。この人たちにとっては、これが大事なところで、相手が自分を気に入って話し続けてくれること、イコール、グッドサインなのです。

もしそう感じることができず、相手の話に耐えるのが、ただ苦痛で仕方ない時には、自分をプロテクトするのを優先してもいいでしょう。そちらを選んでも、決して間違っているわけではないことを覚えておきましょう。