※本稿は、柴田重信『脂肪を落としたければ、食べる時間を変えなさい』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。
朝食をとらないと体内時計のバランスが崩れる
体内時計は、周期が24.5時間となる主時計と、それぞれ微妙に周期が異なる末梢時計があります。
にもかかわらず、体中の体内時計がてんでバラバラにならないのは、主時計がしっかりと末梢時計を束ね、オーケストラの指揮者のようにリズムをリードしているためです。
体内時計のしくみは、多くの生物がもっていますが、主時計が指揮者のように全体を統制するのは哺乳類の特徴です。
主時計が末梢神経をリードし、全体としてリズムよく、きれいなハーモニーを奏でられている状態を保つからこそ、体中の臓器がリズムよく動き出し、健康を維持できるのです。
とはいえ、体内時計どうしの美しいハーモニーも、毎日、外界(地球の一日)とのずれをリセットしなければ実現しません。
光と朝食が重要
そのずれの修正に必要なのが、朝の「光」と「朝食」です。
光は、主時計を動かすのに必要な、最も重要な刺激です。朝、太陽の光を浴びると、光が網膜から視神経を通して視交叉上核に届き、その刺激が体内時計を前へ動かして、外界とリズムを合わせることができます。一方、朝食は、末梢時計のなかでも、代謝にかかわる肝臓などの末梢時計を動かします。
これ以外に、運動や温度なども体内時計を動かす作用があることがわかっていますが、最も基本的なものは、一日の始まりに浴びる光と、朝食であることは間違いありません。
文部科学省は2006年から、子供たちの生活リズムの向上を図るため「早寝早起き朝ごはん」という運動をしています。
まさに「早起き」は光の刺激、「朝ごはん」は朝食の刺激の大切さを広めています。
また、「朝ごはん」は体内時計の修正だけでなく、太りにくくなる効果も認められています。
朝食で、太りにくくなる理由
朝食をとるとどんないい効果があるのか、同じ食事でも、昼食、夕食、夜食でとった場合と何が違うのか、具体的にみていきましょう。
① 体内時計をリセットする
朝食は、おもに肝臓にある抹消時計をスタートさせる働きがあります。抹消時計がリズムよく働き、代謝にかかわるしくみが効率的に働き出すことによって、日中の活動期は太りにくい、メタボになりにくい状態をつくります。
つまり、本来、体がもっている働きを目覚めさせ、十分に発揮させるきっかけをつくっているのが、朝食と言っていいでしょう。
② 体温を上げやすい
食べながらうっすらと汗ばんでくることがあります。特に香辛料の利いた辛いものや温かいものを食べると体がポカポカしてきます。これは、食事をとったときにエネルギーが燃やされて体温が上がる「食事誘発性熱産生」というしくみによるものです。
人が消費するエネルギーは、運動によるエネルギー消費が30%程度、呼吸や内臓など生命維持のために消費する「基礎代謝」が60%といわれています。「食事誘発性熱産生」は、残りの10%を占めています。
この熱産生は、同じ食事内容でも、夕食でとったときより、朝食のほうが大きいことがわかっています。熱産生はタンパク質をとったときがいちばん大きく、次に糖質で、脂質はあまり体温を上げません。
朝食にタンパク質や糖質をとると、それだけで体温が上がり、エネルギーを消費するということです。
③ 肝臓の代謝がダイナミックに起こる
肝臓では、食事からとった栄養素を利用しやすい形に分解・合成し、必要に応じてエネルギーとして使ったり、肝臓や筋肉にたくわえたりする働き(代謝)をしています。
朝食では、この代謝の働きがダイナミックに起こることが実験で確認されています。
同じ食事内容の朝食と夕食のあと、30分、60分、120分で血液を採取し、そのなかに含まれる代謝物を測定すると、朝食では代謝によって起こる物質が非常に多いことがわかったのです。
この代謝の働きは、朝食の前に長い空腹時間があると、より活発になります。これは朝食だけの特徴で、昼食や夕食の前に長い空腹時間をとったとしても、代謝は活発になりません。
④ 朝食の血糖値は上がってもすぐ戻る
同じ内容の食事をとったあとの血糖値についても、朝食、昼食、夕食で違いがあります。
血糖値が高まりにくく、すぐに戻りやすいのは朝食です。次いで昼食、夕食の順になります。
朝食ではインスリンが効率的に効くので、血糖値が速やかに戻りますが、夕食では、睡眠を促すメラトニンの影響でインスリンの効きが悪くなります。そのうえたくさん食べてしまうと、高血糖の状態が続き、これがインスリンによって脂肪に変えられ、肥満の原因になっていきます。
まだまだある朝食のメリット
⑤ 朝食が睡眠中に脂肪を燃えやすくする
私たちは日中は、糖質(ブドウ糖)をエネルギー源にしていますが、睡眠中は体内にたくわえられた脂肪を材料にしてエネルギーを作ります。
日中の活動期と、夜間の休息期では代謝の方法が大きく変わるのです。
寝ているあいだに行われる脂肪を酸化して分解する脂肪酸化というものを起こしやすくするのも、朝食です。
朝食、昼食、夕食、夜食をそれぞれ午前8時、昼12時40分、午後5時45分、夜10時に設定し、1回目は朝食、昼食、夕食をとり夜食はとらずに、2回目は朝食をとらずに昼食、夕食、夜食をとって、どちらがエネルギーを消費しているかを比べました。
すると、朝食をとらない人たちは、睡眠中あまり脂肪が分解されず、夜食でとった糖質(ブドウ糖)が先にエネルギーとして使われていました。朝食抜きで夜食ありの習慣は、太りやすいということです。
⑥ セカンドミール効果が大きい
野菜やきのこ、海藻、豆、芋などに豊富に含まれる食物繊維は食後、血糖値を上げすぎないようにする作用があります。その効果は、どの食事でも現れますが、血糖値を下げる効果が高いのは朝食に食物繊維をとったときです。
朝食の食物繊維が血糖値を下げる効果は、昼食や夕食にも及びます。昼食や夕食で食物繊維をとらなくても、朝食での効果が持続するのです。最初の食事(ファーストミール)でとったものの効果が、次の食事(セカンドミール)にも影響を及ぼすことをセカンドミール効果といい、朝食のセカンドミール効果は一日のなかで最も大きいことも確認されています。
⑦ 血圧を下げるから脳卒中も減少
一般に血圧は朝上がり、夜になると下がります。朝、血圧が上がるのは、活動を高めるための体の作用ですが、朝食をとると血圧は下がります。しかし、朝食をとらないと空腹によるストレスも加わって、血圧はより高くなりがちです。日常的に朝食をとらない人は高血圧になりやすい傾向があるということです。
最近、メタボの人がなりやすい心臓病や脳卒中と、朝食の関係に関する調査が発表されました。45~74歳の男女約8万人を13年間追跡した結果、朝食を毎日とる人に比べて、週に0~2回しかとらない人は、脳卒中全体では18%、脳出血に絞ると36%もなりやすいことがわかったのです。
高血圧は、脳卒中を起こす原因のひとつなので、きちんと朝食をとり、運動や薬などで血圧をコントロールしていくことが重要になります。
このようなことから、朝食にはほかの食事では得られない効果があることがわかります。
これらの効果は、いずれも肥満やメタボを防ぎ、改善するうれしいものばかりです。