性格の悪い人や嫌いな人は努力してでも好きになるべきなのか。心理学者の内藤誼人さんは「人間なら、どうしても嫌いな人がいることは避けられません。もう運命だなと割り切って、できるだけその人のそばには近づかないようにするのが一番です」という――。

※本稿は、内藤誼人『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。

女性の芝生でリラックス
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他人に「期待をしない心」を身につけよう

じつを言うと、「世の中って、そんなにいい人ばかりじゃないよ」とひねくれた考え方をしていたほうが、そんなに人間関係で苦痛を感じません。

なぜかというと、期待が裏切られることがないからです。

たとえ、ものすごく性格が悪い人に出会っても、「ほら、やっぱりね」と軽く受け止めることができるからです。

私たちは、イヤなことでもそれをあらかじめ予想しておけば、けっこう何とか耐えられるものなのです。心の準備をしておけば、そんなにストレスも感じません。期待していた通りのことが起きただけ、とすんなり受け入れることができるのです。

心の準備をすれば毛虫だって食べられる

南イリノイ大学のジョエル・フォックスマンは、女性の実験参加者に3匹の毛虫(もちろん食用できる毛虫です)を食べてもらう、というひどくイヤなことを求めました。ただし、半分には「これから10分後」と伝えて、10分前から覚悟をさせました。残りの半分には、いきなり食べてほしいとお願いしました。

しかし、いざ食べてもらう段になったところで、「どうも実験参加者が十分にたりているようですので、重さの違う封筒を手に持って比較する実験に参加してもらうだけでもいいですよ」と切り出しました。

普通に考えれば、封筒の重さを比較する実験のほうが、毛虫を食べさせられるよりもずっとマシですよね。

ところが、10分前に毛虫を食べてもらうことを伝えて、ある種の覚悟をさせた条件では、なんと15人中12人が、「いえ、毛虫を食べます」というコースを選んだのです。

いきなり食べてほしいとお願いし、すぐに他の実験でもいいと伝えたときには、15人中2人しか毛虫を食べることを選びませんでした(それでも2人も毛虫を食べることを選んだのですからすごいですね)。

(新鮮市場) のボウルに揚げ毛虫で引けた
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ちょっと驚きの実験でしたが、このことからもわかるように、私たちはイヤなことでも、あらかじめ期待(準備)しておけば、けっこう受け入れられるようなのです。

ということは、毎朝家を出るときに、「たぶん今日もイヤなヤツばかりに出会うのだろうな」と思っていれば、実際にイヤな人に出会っても、そんなに驚きもしませんし、ストレスも感じないのではないかと思います。

逆に言えば、他人に対しておかしな期待をしているから、自分の期待が裏切られたときに傷ついてしまうのであって、最初から期待などしなければ、そういうイヤな思いをすることを避けることができると思うのです。

年々ワガママな人は増えている

「どうして私の気持ちをわかってくれないんだろう?」
「この人は、どうして自分のことばかり考えて行動するんだろう?」

読者のみなさんは、そんなふうに思ったことはありませんか。

じつを言うと、年々ワガママな人が増えている、というデータがあります。

ノートルダム大学のサラ・コンラスは、1979から2009年までに発表されている調査で、「思いやり」「共感性」「相手の立場で考える」といった質問を含んだ調査研究を集めて、時代的な変化を調べてみました。

その結果、アメリカ人の、思いやり、共感性といった特徴は、年とともに著しく減少しているという傾向が突き止められたのです。

今のアメリカ人は、30年前、40年前のアメリカ人に比べると、はるかにワガママになっていたのです。

この研究は、アメリカでおこなわれたものですけれども、日本についても同じような傾向が確認されるのではないでしょうか。

さもしい
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人には期待などしないほうがいい

かつての日本人は、相手のことを気づかったり、相手の立場に理解を示したりするのを、当たり前のようにやっていました。

ところが、現代の日本人は、自分のことばかりを考えていて、他の人の気持ちなど、これっぽっちも考慮してくれない人が大量に増えているような印象を受けます。

先ほど、「世の中には、イヤな人ばかりだと思っていたほうがいい」というアドバイスをしましたが、実際に、ワガママで、傍若無人な振る舞いをする人は年を追うごとに増えているみたいですから、なおさら「世の中には悪人だらけ」だと思っていたほうがいいでしょうね。

そのほうが、いざ悪人に出会っても気になりません。

ちなみに私は、人には期待をしないようにしています。

人によい期待をすると、その通りにならずに、非常に気分が害されることが経験的にわかったからです。

「明日中にメールでご連絡いたします」と言っていたのに、翌日にはメールを寄こさない人などいくらでもおりますし、きちんと約束していたはずなのに、一方的に約束を破るような人も少なくありません。

どうも現代人は、ワガママな人たちばかりのようですので、なおさら人には期待などしないほうがいいということも覚えておきましょう。

嫌いな人を好きになる必要はない

どうしても肌が合わないとか、相性が悪いという人はいるものです。

それはもうどうしようもないことです。人間なら、どうしても嫌いな人がいることは避けられません。

でも、本質的にどうしようもないにもかかわらず、善良な人ほど、そういう自分を許せない傾向があるようです。

そのため、好きになる努力をするわけですが、どうしても嫌悪感を消すことができず、そのことでまた心がモヤモヤとしてしまうのです。

いっそ、嫌いな人のことまで、好きになろうとするのはやめましょうよ。

どうせ好きになどなれないのですから。

別れのイメージを連想させるピクトグラム。
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どんなに好きになろうとしても受けつけない人はいる

米国ケンタッキー州にあるルイビル大学のマイケル・カニンガムは、「社会的アレルゲン」という用語を作りました。「社会的」とは、「人付き合いの」くらいの意味で、「アレルゲン」は、「アレルギーを引き起こすもの」という意味です。つまり、「社会的アレルゲン」とは、「人間関係のアレルギー」のことを指します。

カニンガムによると、私たちは、ある特定の人に対しては、小麦や花粉などと同じようなアレルギーを持ってしまうそうです。

「くちゃくちゃと音を立てて食べるのがイヤ」
「どうしても体臭だけが許せない」
「貧乏ゆすりをする人が嫌い」

このように、私たちはある人の行動やしぐさ、あるいは表情やクセといったものに対して嫌悪感を抱きます。最初は何とか許せても、それが何度もひんぱんにくり返されると、私たちはアレルギーを持つようになります。

内藤誼人『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(明日香出版社)
内藤誼人『気にしない習慣 よけいな気疲れが消えていく61のヒント』(明日香出版社)

そして、いったんアレルギー反応が形成されてしまうと、もうどうにもなりません。

小麦アレルギーの人に向かって、「小麦はものすごく栄養があるんだから、食べなきゃダメだよ」とは言いませんよね。小麦アレルギーの人は、どんなに好きになろうとしても、身体が受けつけないことを知っているからです。

社会的アレルゲンも同じなのです。

嫌いな人が近くにいるだけで、過呼吸になって息ができなくなってしまったり、言葉が話せなくなってしまったり、身体が震えてしまうこともあります。

もしそうなってしまったら、もう運命だなと割り切って、できるだけその人のそばには近づかないようにするのが一番です。