※本稿は、藤井薫『人事ガチャの秘密 配属・異動・昇進のからくり』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
「ライン課長」から「担当課長」は左遷なのか
A:左遷を『広辞苑』で引くと、「高い官職から低い官職におとすこと。また、官位を低くして遠地に赴任させること。左降」とありますが、一般に、人事部が左遷という言葉を使うことはありません。降職とか降格と言います。役職から外す場合は解任です。
担当課長が組織図上、部長傘下ではなく課長の傘下に入ることになっていたり、等級制度上で課長よりも下位であると定められていたりするのであれば、降職・降格です。しかし、ライン管理職から部下なしの専門職になるだけでしたら、必ずしもそうとは言えません。昇進昇格ではないでしょうが、同格での役割変更かもしれません。
さて、「担当課長」の位置付けは、会社によってさまざまです。公式組織のライン長ではなくても、プロジェクトや特命担当の責任者としてライン課長に匹敵する、もしくは、それ以上の権限を持っている場合もあります。ちなみに、プロジェクトと常設組織との違いは、期間が定まっているか否かです。プロジェクトは目的を達成すれば解散します。難易軽重という意味では一概にどちらが上ということではありません。
真逆の場合では、担当課長は単なる対外呼称、名刺肩書きにすぎないこともあります。何の肩書きもない名刺は軽く見られる、対外的には「長」が付く名刺はメリットがある、社員のモチベーションも上がるしコストもかからないということで、肩書きを多用する会社もあります。中には、課長・部長などは名刺肩書きで、ライン管理職の名称はマネージャーやジェネラルマネージャーなどのカタカナを使うという会社もあります。
左遷ではなく、一時的なポスト待機
さて、A課長ですが、状況からすると、本人に問題があって外された、左遷されたということではなさそうです。後任のBさんは35歳。着実な仕事ぶりのA課長を外してまで早く登用しようとしたわけですから、Bさんは将来を嘱望されている人だろうと想像できます。Bさんの昇進を優先したわけです。
若手の優秀人材を登用したいと思っても、着実に役割を果たしている現任者を外す決断ができない会社は多くあります。その意味では、あなたが勤める会社には、適所適材や新陳代謝を進めていこうという意思が感じられます。こうした場合、人事部はまず現任者が力を発揮できる異動先ポジションを確保したうえで、若手の昇進を行おうとするものです。それが多くの人事部の行動原理です。
おそらく、A課長も異動先の事業部で相応のポジションを得るだろうと思います。担当課長は、次のポジション登用までのタイムラグ、一時的なポスト待機なのではないでしょうか。
A課長の今後については、それほど心配する必要はないように思います。むしろ、あなたの会社の人事部は、やるべきことをやる人事部だということで安心していいかもしれません。
同じ部門にいるべきか、他部門を経験すべきか
A:課長昇進では、確かに、係長クラスの人がそのままその課の課長に昇進するというパターンが大半でしょう。課長昇進で着任する最初のポストが、まったく未経験の仕事というケースはほとんどないだろうと思います。課長は実務推進の要であり、時にはプレイングマネージャーの役割を要求されることもあるからです。
ただ、若年層では何らかの育成的なローテーションを行う会社が多いので、新入社員からずっと同じ部署で長く勤務している人が有利ということではありません。係長クラスを務めた部署で課長に昇進することになりやすいというだけです。
あなたは、そこからさらに部長・役員と昇進していきたいとの希望をお持ちなのですね。課長登用の論理は比較的シンプルで、専門分野の実務能力に長けたマネージャーを求めているわけですが、部長は課長の延長線上ではありません。
ヒアリング調査では、「課長の昇進基準と部長の昇進基準は違う。課長として専門能力があって実績優秀だからといって部長になれるわけではない」というコメントが多くの会社の人事部から聞かれました。部長にはジェネラルなマネジメントの視点が必要だとの指摘です。また、部長のキャリア採用を行っている会社からは、課長は内部昇進でもいいが部長ポジションには新しい血を入れて改革をスピーディに進めることを期待しているという声も聞かれます。
他部門経験が部長昇進の条件の会社も
同じ部署で係長クラスから課長に昇進し、そのまま長く同じポストを担当するほうが部長に昇進しやすいかと問われれば、もちろんそれも可能でしょうが、必ずしもそちらのほうが有利だとは思いません。会社によっては、課長昇進後の他部門異動経験を部長昇進の条件としている会社もあるくらいです。その際、部内異動などでは他部門異動経験としてはカウントされないそうです。やはり、部長には幅広いジェネラルなマネジメント視点と、現状踏襲ではない改革視点を求める会社が多いと言えそうです。
この傾向は、役員登用では一層顕著です。次世代経営人材プールに登録された人は、全社横断的な、さらにはグループ横断的な育成ローテーションの対象として他部門経験を積ませることが定番です。
課長昇進が目標であれば、ずっと自部門で異動せずに垂直的に昇進する「棒上がり」も悪くありませんが、部長や役員を目指すのであれば、若年層の段階でも異動を厭わないほうがいいでしょう。部長や役員には、それなりの裾野の広さが必要です。早く課長になった人が早く役員になるわけでもありません。
30代半ばから40歳くらいで課長になって最初のポジションを数年経験してから初めて新たな仕事に異動するよりは、若年層のうちに異動を経験して耐性を作っておくほうがよさそうです。
自分はもうこの部署の課長にはなれないのか
A:昇進に不可欠なもの、それは「空きポスト」です。ポストがなければ昇進できません。
責任権限の明確化や意思決定の迅速化を目的に、組織数や組織階層はできる限りスリム化するというのが基本的な流れです。同様の理由で、副部長や部長代理などの中間役職を置く会社も少なくなっています。成長企業はポストが増えるでしょうが、全体傾向としては、ポストがどんどん増えていくという状況ではなさそうです。
空きポストの次に、昇進に大きな影響を与えるものが登用候補者の数です。需要と供給の関係です。需給状況を最もざっくり判断するには、年齢別の労務構成が参考になります。皆さんも、縦軸に年齢、横軸に男女別の人数をとった労務構成グラフを見たことがあると思います。その自社版や自部門版です。なぜ、年齢別なのか、男女別なのかという声も聞こえてきそうですが、実際にはかなり参考になります。
今の部署にこだわると昇進が遅くなる
新卒一括採用、定年制や役職定年制、さらには、大企業では20代で部長になることはほとんどないなどの実態等がある以上、年齢別の労務構成から推測できることは少なくありません。また、男女で勤続年数や役職昇進意向に差があること、女性活躍推進でポジティブアクションが求められていることなどをふまえると、男女別に労務構成を見ることにも意味があるのです。さらに、職種別や部門別、地域別などに分解していくと、より多くのことがわかってきます。
さて、本題に戻ります。昇進した先輩は、おそらく3年程度はそのまま課長を務めるでしょうから、その間は、あなたがこの部署で昇進することは残念ながらなさそうです。
では、3年後に先輩の異動や昇進でポストが空くでしょうか? 課長クラスをある程度定期的にローテーションする方針の会社であればともかく、そうでない場合はなかなか予測できませんが、多くの会社ではたいてい組織改編などを含めて5年に一度くらいは異動があるので、3~5年後といったところでしょうか。いずれにせよ、今の部署で課長になることにこだわると、昇進時期が遅くなってしまいそうです。
異動発令が出たら受けるべき
あなたが先輩並みの優秀人材で、先輩と同じく2年後に課長昇進させたいと会社が考えている場合は、あなたを次期課長候補にできる異動先を探すかもしれません。たいていは同一部署で係長クラスから課長に垂直昇進するので、異動先での係長経験期間を考慮すると、早いタイミングでの異動になるでしょう。
もし、近々、あなたに異動発令が出た場合、先輩に疎まれたのではなどと考える必要はありません。今の部署での課長昇進ではありませんが、あなたのキャリア形成を考えての異動なのではないでしょうか。その異動は喜んで受けるべきです。
異動発令がないようでしたら、もう一度シミュレーションしてみましょう。この部署での課長にこだわるべきか、ほかの部署への異動を模索するほうがいいか。それとも当面はプレーヤーとしての腕を磨くことに集中するほうがいいか。また、相談するなら誰がいいか。このほかにも、もうあなたには多くの選択肢が見えていそうですね。