※本稿は、藤井薫『人事ガチャの秘密 配属・異動・昇進のからくり』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
同じ部署に5年以上いると、意欲は低下する
ここでは、入社以来、おおむね平均的な人事評価成績をとっている人たちのことを「ミドルパフォーマー」と呼んでいます。たとえばS・A・B・C・Dの5段階評価であれば、「B」をとる人です。Bの社員は人数が多いので、評価に差をつけようと、S・A・B+・B・B-・C・Dのように評価段階を細かく分散させる会社もあります。「B+」~「B-」の人もミドルパフォーマーです。
皆さんの中には、ミドルパフォーマーは今の仕事をうまくやっているわけだから、そもそも異動する必要があるのかという疑問があるかもしれません。図表1は、異動を経験したことがない人に学習意欲などを尋ねた調査(「一般社員層の異動配置定量調査」)の結果です。
同じ部署に5年以上在籍すると、成長志向、学習意欲、キャリアへの関心は低下してきます。他部門の業務内容などに関する社内知識が豊富になっていくというわけでもありません。いわゆるマンネリ傾向だと言えそうです。この「5年」という期間は皆さんの実感とも合致するのではないでしょうか。
また、異動配置施策としても人事部に人事権がある会社を中心として、若年層の「10年間3部署」ローテーションだけでなく、30代半ば以降においても育成観点から同一部門での長期在籍を避けようという考え方が見られます。
一方、事業部門の人事権が強い会社では、30代半ば以降の中堅社員を積極的にローテーションしようという会社は多いとは言えません。中堅社員をローテーションしないことのリスク、目配りされないミドルパフォーマーの将来が気になります。それでは、30代半ば以降の異動配置状況を見てみましょう。
「貴重な若手」に期待と関心を持って目配り
新入社員からの10年間、20代半ば~30代前半は、定期的なローテーションを行いながらじっくりと適性を見定める会社から初期配属部署での「早期戦力化」を重視する会社まで、やり方はさまざまですが、何らかの育成観点を含む、それぞれの会社で工夫された異動配置施策が行われています。また、貴重な若手人材ですから、部門も人事部も期待と関心を持って皆さんに目配りしています。他部署への異動を行う際の受け入れ先探しにもさほど困ることもないでしょう。
問題はそれ以降です。
貴重な若手→働き盛りの中堅→単なるベテラン
30代半ば以降の中堅社員やベテラン社員の異動配置については、「あまり明確な方針がない」「個別対応になる」という回答がほとんどになります。確かに、年代層が上がるにつれて、だんだんと方針があいまいになって個別対応に近くなってきます。とはいえ、各年代ごとに各社に共通する傾向もあります。また、30代半ば以降は何歳になっても同じというわけではありません。やはり、年代層によって異動配置方針が変化していきます。
図表2は新入社員から10年刻みで見た異動配置傾向の俯瞰図です。図中の[A]→[B]→[C]に注目してください。もしかすると皆さんには「悲観シナリオ」に見えるかもしれません。しかし、これは確率論としては、ミドルパフォーマー、すなわち、多くの普通のビジネスパーソンが辿ることになりがちなシナリオなのです。
ざっくり言うと、[A]貴重な若手→[B]働き盛りの中堅→[C]単なるベテランへと至るルートです。別の表現をすると、[A]引っ張りだこ→[B]戦力カウント→[C]放出対象と言えなくもありません。どうして、このような筋書きになるのか。そのヒミツは、30代半ばから40代前半の10年間に隠されています。
30代半ば〜40代前半は管理職登用の「適齢期」
新入社員から10年も経てば、すっかり中堅です。転職経験がある人も同じです。誰しもこの年代で「まだ、半人前です……」というわけにはいきません。すなわち、プレーヤーとしては各部門で一人前の戦力として頼りにされている人たちのはずです。では、この年代に対する人事部の最大関心事は何だと思いますか?
皆さんがプレーヤーとして機能していることは、すでに織り込み済みです。もちろん、戦力になっていないローパフォーマーがいれば、新たなマッチング先探しも人事部の仕事のひとつになりますが、最大関心事ではありません。プレーヤーとしての戦力化や適性判断、育成が主要なテーマになるのは若年層です。
30代半ばからの10年に対する人事部の最大関心事は、なんだかんだといって「管理職の選抜と登用」です。
管理職は組織の要です。各組織に適切な管理職を配置することは、人事にとっても経営にとっても極めて優先度が高い超重要課題です。「管理職の異動配置調査」では、課長登用は35歳前後から始まり、40歳前後がピークになっています。また、「働く1万人の成長実態調査」(パーソル総合研究所)では、「出世したい」と思う人と「出世したいと思わない」人の割合が42.5歳で逆転することがわかっています。
働く側から見て42.5歳を境に「出世したいと思わない」人のほうが増えるのですが、実は、会社側も新たに課長に登用する際の上限年齢を設定していたりします。管理職になりたいと思っても、適齢期を超えると管理職になれる確率がガクンと落ちるのが実態です。つまり、30代半ば〜40代前半の10年間とは、人事部から見ると、管理職に登用すべき人は登用しつくす10年間なのです。
管理職になりたいのか、なれない場合はどうするか
管理職の選抜・登用は、会社に勤める働き方を選択している人にとっては、大きな分かれ道です。管理職になりたいのか、なりたくないのか。なりたいとしてもなれるのか、そうでないのか。管理職を選ばない、もしくは、なれないのであればどうありたいのか。この問いに対する自分なりの答えを30代中頃までに用意しておくことが大切です。それまでに必ず考えておいてください。きっと役に立ちます。
ここでは、管理職ではない人たちに焦点を当てていきます。
目配りされない「ミドルパフォーマー」
筆者が「目配りされないミドルパフォーマー」と呼んでいるのは、典型的には、事業部門の人事権が強い会社に勤める、人事評価成績が高くも低くもない30代半ば~40代前半の一般社員です。念のため繰り返しますが、ミドルパフォーマーは各部門の基幹戦力として頼りにされている人たちです。若手の時代に比べると異動機会は減少し、同じ部署で同じ仕事を続ける人が多くなります。それでも、プレーヤーとして仕事にやりがいを感じている人も多いでしょうし、きっと働き盛りの毎日を忙しく過ごしていると思います。管理職ではないからといって、とくに不満は感じていないかもしれません。
そもそも今の時代、総合職だからといって全員がいろいろな仕事をこなして管理職を目指さなくてはならないというわけでもありません。むしろ、人事のトレンドとしては、管理職になる人も含めて、社員それぞれがしっかりとした専門性を持ってほしいという方向性です。
それにたいていの場合、この年代はプレーヤーとして脂がのった時期です。怪しくなってくるのは、40代半ば以降になってからです。
前述の通り、40代半ばになると管理職登用適齢期をすぎます。実質的にこの年代以降から管理職になる確率はかなり低くなります。管理職にならないだけならまだよいのですが、だんだんと人事評価成績が落ちてきて、ミドルパフォーマーだったはずがいつの間にかローパフォーマーになっているというケースが目立つようになります。
ここではあえて「人事評価成績」と書きました。実際には仕事のパフォーマンスそのものが落ちてくる人と、パフォーマンスは変わらなくても人事評価成績が下がってくる人がいます。
前者は若い時に比べてパワーダウンしてくるケースです。後者は、パフォーマンスが変わらなくても、40代半ばとしての等級や給与に見合う会社や上司の期待値に応えられないケースです。後者は年功的人事の弊害でもあります。等級や給与が年功的に上がるので人事評価基準が厳しくなり、能力や成果が同じであれば評価成績が下がってくるというわけです。
40代半ばは「魔の年齢」
40代半ばをすぎると同年代には管理職の人も大勢いますから、たとえ管理職でなくても管理職並みの成果が求められたりします。馬鹿げているようですが、実際にはよくあるケースです。
いずれにせよ、ローパフォーマー扱いですから、職場の居心地はあまりよくないかもしれません。いわゆる「働かないおじさん」的な話になってきます。
目配りされないミドルパフォーマーにとって、40代半ばは魔の年齢だと言えそうです。管理職登用の可能性がなくなるのと同時に、専門職としても通用しないと言い渡されるようなものです。それを避けるには、「40代半ばまでに、それ以降も管理職に伍してプロフェッショナルとして通用する専門能力を身に付けておくこと」です。
皆さんは、「今の部署で今の仕事をずっと続けていて、40代半ば以降もこの仕事のプロフェッショナルとして通用するのか?」を問い続ける必要があります。
30代半ば〜40代前半の10年間をプレーヤーとして頼りにされていることで安心し、キャリアを考えることなく同じ場所で同じことをやり続けるリスクを決して侮ってはいけません。
30代半ば~40代前半の過ごし方については、技術系の人よりも事務系の人のほうがリスクが大きいと言えそうです。技術系の仕事をしていると、常に何らかの技術進歩の影響を避けられませんから、折に触れ「自分はこの先の技術進歩についていけるだろうか?」という自問自答を繰り返さざるを得ません。自ずと、キャッチアップのための勉強をするなり、場合によっては方向転換するなりの機会があります。一方の事務系、とくに営業系は目先の業績がよかったりすると、立ち止まって考えることなしに、勢いのまま同じことを繰り返して10年間を過ごしたりします。そして気付いた時にはあっという間に40代半ばで、専門能力と言えるほどのものを持っていないという事態に陥りがちになるわけです。