「カントリーマアムチョコまみれ」は全国発売から2年がたち、好調に売り上げを伸ばしている。しかし、現在のパッケージやキャラクターは発売前の直前2週間で一から考え直したものだったという。発売前に何が起きていたのか。消費者インサイトに詳しい桶谷功さんが開発担当者に聞いた――。

発売2年、じわじわ成長し“本家”の6割まできた

【桶谷】「まみれさん」という謎なキャラがチョコレートの沼から「ぬぅ~~~~~ん」と出てくるイラストが個性的ですね。2020年の販売開始から、売れ行きはどんな感じで推移していますか?

「カントリーマアムチョコまみれ」コンビニで発売された小パッケージ。
「カントリーマアムチョコまみれ」コンビニで発売された小パッケージ。(写真提供=不二家)

【菊池】「カントリーマアムチョコまみれ」は、定番のソフトクッキー「カントリーマアム」ブランドの商品で、ココアを練りこんだ生地にチョコチップを限界まで入れ、さらにチョコでコーティングしたものです。

おかげさまで、毎月売り上げをじわじわと更新しています。発売直後は特にCMなどの販促バックアップもなかったのですが、SNSで火がつきました。いまはどんどん新製品が生まれ、そしてすぐに消えていく時代です。消費者の方もそれをわかっているので、「チョコまみれを買い支えます」という発言が増えてきた時はうれしかったですね。

そして発売から2カ月くらいすると、営業から上がってくる販売計画が、工場の生産能力を上回ってしまったんです。このままだと商品がなくなってしまう。販売休止はかろうじて回避しましたが、発売して1年くらいは、なかなか積極的に売りに行けませんでした。

現状、定番のカントリーマアムの売り上げを10とすると、チョコまみれは6というところまできています。

菓子事業本部 営業本部 商品企画部部長 菊池祐一さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
菓子事業本部 営業本部 商品企画部部長 菊池祐一さん

一番よく食べるのは男子高校生だが…

【桶谷】そもそもカントリーマアムというマザーブランドがあるなかで、「チョコまみれ」を出されたのは、何が狙いですか。

【板橋】ブランドの若返りですね。2019年にカントリーマアムが発売35周年を迎えるタイミングだったので、その1年くらい前から、何か新商品を出そうと考えていました。それに先立って、現在の課題を抽出してみたのです。いまのカントリーマアムは、「家に置いてある大袋のお菓子」という位置づけ。いまはまだ順調ですが、購買層が変わらないまま時がたてば、いずれブランド自体が古いものになっていく。だったら若い人が自分で買ってくれるような商品をつくろうと、買いやすい価格の小袋にして、セブン‐イレブンさんでテスト販売を始めました。

【菊池】事前の調査では、カントリーマアムを一番よく食べているのは男子高校生だったんですよ。次が女子高校生です。彼らにインタビューすると、ふつうのチョコレートは腹持ちが悪いという。かといってただのクッキーではつまらない。チョコがからんでいないと、なかなか喜ばれません。その点、食べ応えがあってチョコチップも入っているカントリーマアムは重宝だという話でした。ですから実食者は若い人たちなのですが、彼らは自分では買わない。そんな危機感がありました。

カニバリは、ほとんどなかった

【桶谷】この「チョコまみれ」になってからは、狙い通り高校生に買われていますか。

【菊池】やはり最初に反応してくれたのはその層でしたが、40代や50代にもすごい速さで伝播していきました。だからこそ、これだけの売り上げになったと思います。

【桶谷】それで大袋を発売して、スーパーでも売るようになり、ファミリーユースになっていったのですね。

(写真左)「ホームパイチョコだらけ」/(写真右)「まむれさんの休日」は現在は販売終了。
(写真左)「ホームパイチョコだらけ」/(写真右)「まみれさんの休日」など、スピンオフ商品も多数出ている。(写真提供=不二家)

ちなみに「チョコまみれ」が出たことで、通常のカントリーマアムの売り上げが減ったりしませんでしたか。

【菊池】カニバリ(共食い)はほとんど見られませんでしたね。冒頭で申し上げたように定番のカントリーマアムと「チョコまみれ」の売上比率は10:6くらいで、定番10の上に6が乗っかった形です。

最初の名称は「俺のカントリーマアム」だった

【桶谷】「チョコまみれ」というネーミングや、「まみれさん」というキャラクターは、板橋さんが考えられたのですか。

【板橋】私はまとめ役にすぎません。いろいろな人の意見を聞いて、この最終形態になりました。みなさんからアドバイスをもらえなければ、全然違う方向に行っていたと思います。

何しろ、いちばん初めは、最もカントリーマアムを食べている層である、「男子高校生のためのカロリーマックス、チョコマックス」みたいなコンセプトだったんですよ。中身はいまとまったく同じですが、名称が「俺のカントリーマアム」だったんです。

商品企画部次長 兼 ビスケット課長 兼 キャンディ課長 板橋和範さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
商品企画部次長 兼 ビスケット課長 兼 キャンディ課長 板橋和範さん

【桶谷】そうだったんですか!

こちらが担当者自ら“黒歴史”と語る幻のキャラクター
こちらが担当者自ら“黒歴史”と語る幻のキャラクター(写真提供=不二家)

【板橋】パッケージデザインも、学ランを着た高校生が坊主頭の上に、チョコでコーティングしたカントリーマアムを乗っけているというイラストだったんですよ。

ほとんどそれで進んでいたところ、土壇場で「やっぱり狙う層が狭すぎるので、もう少し万人受けするパッケージやネーミングに変えたい」という話になりまして。

そこから現在の「チョコまみれ」になるまで、わずか2週間ほど。時間もなかったので、どんなお菓子なのか、お客さんがすぐわかるように、なるべく要素を省いてシンプルにしたのがよかったのかもしれません。もし「俺の~」だったら、今ごろ残っていませんよね。黒歴史ですよ(笑)。

チョコをかけた製品を発売するも1年で消えた過去が…

【桶谷】「まみれさん」というキャラクターやネーミングは、どこから降ってきたんですか。

過去にもトライしては消えていったチョコでコーティングされたカントリーマアム…今回「これがダメなら諦める」の覚悟で定番化することができた。
撮影=プレジデントオンライン編集部
過去にもトライしては消えていったチョコでコーティングされたカントリーマアム…今回「これがダメなら諦める」の覚悟で定番化することができた。

【板橋】ロングセラー商品を若年層に訴求するとき、キャラクターを使うのは定番のやり方です。「まみれさん」は、デザイナーさんと「チョコの沼から“ぬぅ~~~~~ん”とゆっくり上がってくる感じで」などと話をしていて生まれました。

商品名は、やっぱりチョコが推しなので、「チョコづくし」「チョコずくめ」「チョコだらけ」などの案の中で出てきたものです。「まみれ」というのは、普段あまりプラスの意味で使わない言葉ですよね。

【桶谷】そうですね。「ほこりまみれ」とか「泥まみれ」とか。

【板橋】それを食べ物に使うのは抵抗がありましたし、お客様サービス室にも「あまりよろしくないのでは」というご意見が寄せられたりしました。でも実はいままでもずっと同じ路線を模索してきて、トライはするものの市場に残れていなかったので。

【菊池】実は過去にも、カントリーマアムにチョコをかけた製品を発売しているんです。でもブレークせずに1年くらいで消えていった。定番として残るためには、多少のインパクトが必要だろうと判断しました。これがダメなら諦めるというくらいの覚悟はありましたね。

テスト販売だったので思い切ったトライができた

【桶谷】それにしても伝統ある老舗企業で、よくここまで振り切りましたね。

【板橋】スタートがテスト販売だったので、ゲリラ的に思い切ったことができたんです。デザインがデザインなので、途中経過はあまり見せずに、実際に中身(商品)をつくる福田と二人で水面下で動きつつ、上に提案するタイミングを見計らっていました(笑)。当時テスト販売を担当する広域営業部の責任者が菊池だったことは、大きかったと思います。

【菊池】私はもともと企画部門にいて、板橋はそのときの部下でした。

【桶谷】それは理解のある方でラッキーでしたね。堅物の営業の方だと、「こんなふざけたもの」といわれかねない。

チョコ好きの心理をどこまで考えたか

【桶谷】「チョコまみれ」はチョコレート好きの心理を見事にとらえていると思いますが、そこはかなり掘り下げて考えられたのではないですか?

【板橋】いや、そこはあまり考えませんでしたね。

【桶谷】そうなんですか? 実は消費者の深層心理を探るために、「○○の星に行ってみたら」というお題で絵を描いてもらうという調査手法があるんですよ。たとえばチョコレートなら「みなさん、チョコレートの星に行ってみましょう」といって、対象者に「チョコレートの星の絵を描いてください」とお願いするんです。実は、これがチョコレート好きの人に描いてもらった絵です(見せる)。

チョコレート好きな消費者が描いた「チョコレートの星」
チョコレート好きな消費者が描いた「チョコレートの星」(画像提供=桶谷功)

これを描いた人は、「チョコレートの星では建物も全部チョコレートでできていて、川にはチョコレートが流れてて、子どもも大人もそこに飛び込んではしゃいでる。遊んでいるうち、口にチョコレートが入ってきちゃうんですよ」と説明してくれましたが、これぞまさにチョコまみれ。だから私は「チョコまみれ」をお店で見たときから「これはチョコレート好きの心をわしづかみだろう」と思っていたんです。でも別にそこまで考えていなかったんですね。

「ぬぅ~~~~~ん」は工場にあるチョコレートの沼から

【菊池】われわれは工場でどんなふうにつくっているか、実際に見ているので、商品の製造過程を知っているじゃないですか。よくテレビなどでも紹介されていますが、まさしくチョコの沼みたいなところに商品が潜っていくんですよ。

【福田】チョコの沼の上に、さらに流れるチョコのカーテンみたいなものがあって、その下をくぐっていくんです。

商品開発部 ビスケット課 課長 福田達也さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
商品開発部 ビスケット課 課長 福田達也さん

【桶谷】なるほど、みなさんの潜在意識にはチョコレート製品の製造工程がしっかり入っているので、それが出てきたんですね。

じつは、一発屋で終わるだろうと思っていた

【福田】私は中身を開発しているので、「チョコまみれ」ができたときに、社内の人から「すごくおいしいね!」という感想をけっこうもらったんですよ。私自身も「おいしいのができた」と自信があった。ところが完成品ができてきたら、パッケージがこれ(笑)。正直、「ああ、せっかくいいのができたのに、一発屋で終わるだろうな」とその時は思いました。

【板橋】そんなふうに思ってたなんて、いま初めて聞いたよ(笑)。

【福田】でも実際にはこのパッケージにひかれて手に取ってくださったお客さまが大勢いらしたからこそ、ここまで成長できたのだと今は思います。

【桶谷】最初は興味本位でも、中身がおいしければ、リピート買いしますものね。インパクトだけでなく、味が重要ということですね。

【板橋】おっしゃる通りです。特徴的なキャラクターなので、グッズ販売もいくつかトライしたのですが、まったくダメでした(笑)。やはり、この中身、味があって初めて成り立つ商品なのだなと。

それぞれ手にカントリーマアムを持って
撮影=プレジデントオンライン編集部

取材を終えて 桶谷 功より
責任感が強すぎると、大胆な発想や商品は生まれにくい。今回はゲリラ的な商品だし、失敗しても大きな損失にはならないし、といった一種無責任な状態のほうが自由に発想できる。最近のキーワードで言えば「心理的安全性」が高いということ。
取材をしていて、上長の方がチームにそういう環境を用意されていると、とても強く感じました。みなさん楽しそうで、かつ、まみれさんのようにゆるくて緊迫感がない(すみません!)空気感の中で話がはずむ。まさに、この環境がアイデアを生み出すのではないでしょうか。
私がファシリテーションを行うアイデア・ジェネレーション・ワークショップ(アイデア創出ワークショップ)などでは、意図的にそういう雰囲気をつくるのですが、普段からそういう環境を自然につくられているとしたら、とてつもなく素晴らしいことだと思いました。