※本稿は、木下明子『図解!ダイバーシティの教科書』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
将来有望な女性をゆるキャリにしてしまう勘違い上司
育休や時短が当たり前になった今だからこそ、マネジメントの方々に特に気をつけていただきたいのは、次のようなアンコンシャス・バイアスです。思い当たる節はないでしょうか? 「女性は子供を産むまでは男性と同じように働ける。が、出産したら、これまでと同じようには働けなくなるだろう。女性として家庭で育児や家事をきちんとこなしながら長く働けるようにマネジメントして、あまり責任が重すぎる仕事につかせないようにしよう」
これこそが最近流行の(?)バイアスに基づいた考えですが、この方向性が女性活躍だと思っている人がたくさんいます。男女ともにこういう方はいて、おおむね善意からですが、将来有望な女性のキャリアをつぶしてしまうことがあるので注意してください。
妊娠報告を受けて言いがちな余計な一言
妊娠を報告したとたん、本人の意思や体調を確認せず「もう外回りに出なくていいから、内勤の仕事をゆっくりしたら」「復帰後はやっぱり時短にするんだよね?」なんて余計な気を利かせる上司もいます(もちろん妊娠中の体調が極端に悪い人、日常的に重いものを運んだり、ずっと立ち仕事が続いたりするような職場にいる人の場合は、配慮が必要です)。
私のように母親がバリバリ働いていたなど家庭内ロールモデルがいたり、キャリア志向が非常に強い女性部下であれば、「今まで通りで大丈夫です」と言えるでしょうが、優秀でも身近にロールモデルがいない、そこまでのキャリア意識がない女性だったらどうでしょう。ましてや初めての妊娠は、誰にとっても不安なものです。「上司がああ言うからには、やっぱり責任ある仕事は育児中は無理なんだ」「育休復帰後は、とりあえず時短にするものなんだ」と思い込んでしまう可能性が大いにあります。
この手の悪循環が組織に生まれると、実は復帰後にキャリアを積んでいける女性も、どんどんマミートラックに入っていきます(最近はマミートラック部署に、復帰後の女性たちが増えすぎて、もう入れないという状況も起きているようですが……)。そうなると、どうしても昇進や後のキャリアに影響が出てしまいます。
10年以上前は、フルタイムで復帰したら、男性と同じように限りなく残業をさせられるため、定時までであればフルで働けた女性も、仕方なく時短にするケースが多く見受けられました。ただし今は働き方改革が、ある程度浸透したため「時短か果てしない残業もありか」みたいな極端な組織は減っているのではないでしょうか(もしそういった組織の場合は、即働き方改革を浸透させるべきです)。
こまめな雑談が女性の意識を前向きにする
では上司は、どうすれば女性部下にライフイベントがあっても、スムーズにマネジメントすることができるのでしょうか。一番大切なのは、普段からきっちりコミュニケーションが取れているかどうかです。「女性はこういうものだ」というアンコンシャス・バイアスを意図的に排除し、正式な査定面談でもそれ以外でも、将来のキャリアについてきちんと話ができていることが大切なのです。
男性部下であれば、飲み会や喫煙ルームなどで、将来管理職になることを踏まえ、多くの上司の方は「○○君も、そろそろ昇進を視野に入れて、こういうことをやっておいたらどうだ」といった話をしてきたはずです。ただ女性に対しては前述の「いつかマミートラックに入るから」「子持ちの女性は管理職につきたがらないから」というバイアスから、無意識にそれをしない上司がいます。
例えば営業職であれば、営業スキルについては男性と同じように指導する。けれども、そこから営業マネジメント職として男性と同じように、どんどん上がっていくことは、あまり想定していない。女性総合職自体が、まだ数として少ない企業だと、今まで男性にしか真剣に指導したことがなく、女性に対してはどう接していいか戸惑いがあり、日常的に話しかけにくいという上司の方もいるでしょう。これでは悪気はなくても、マイノリティである女性からしたら「あまり期待されてない」と思われても仕方ありません。
育児を応援するのではなくキャリアの応援を
こういったマネジメントを続けていると、もともと強いキャリア志向を持つ女性以外は、優秀でもゆるく働くほうに引っ張られてしまうかもしれません。同時期に出産した同僚が、皆時短にすると言えば、不安が強く迷っている女性もそちらに流れてしまいがちです。
よく「2:6:2の法則」などといわれますが、2割がいわゆる強いキャリア志向の女性、2割が家庭中心で長くゆるく働きたい志向の女性とすると、次世代インクルーシブリーダーとしては、真ん中にいて、どちらにもいきそうな6割の女性たちをできる限り、キャリアの方向に引っ張っていく意識を持って接することが大切になってくると思います。
育休からの早期復帰制度をいち早く取り入れた、ダイキン工業の野間友惠人事本部人事企画グループ長(部長)の言葉を借りれば、企業は「女性の育児を応援するのではなく、キャリアを応援する」べきなのです。そのためには制度があればいいというものではなく、その制度の賢い運用が必須になってくるのです。
飲み会や喫煙ルームの代わりになり得るもの
では、日常的なコミュニケーションは、どう取ればいいのでしょうか。男女問わず、気軽に飲み会に誘ったり、喫煙ルームで煙草を吸う人だけで雑談、というわけにはいかない時代になりましたから、どうしてよいかわからず悩む上司の方も多いようです。飲み会や喫煙ルームコミュニケーションの代わりに、会社の中で何かやるのであれば、飲み物やおやつなどを置いたコーナーをつくって、そこにラフに集まり、休憩時間に話すのもありでしょう。
実際、女性活躍先進国のフィンランドには、フィーカというコーヒータイムの風習があり、会社の中でも休憩時間にお菓子をつまみながら、雑談するそうです。とにかく普段から声をかけ合って、コミュニケーションを取っていれば、今の仕事での成果だけでなく、ライフイベントを含めた将来のビジョンを共有し、すり合わせていくこともできますし、実際、部下の身に急な変化が起こっても、早く気づき、スムーズに対処することができるでしょう。
ちなみに「結婚・出産の予定や、本人の体調、親の介護など、仕事にも影響しそうなプライベートの動向について少しは把握しておきたいけれど、今は『彼氏はいるのか』『結婚や子供はまだか』などと聞けば、ハラスメントになりかねないのでどう聞いていいのかわからない」と言う上司の方もいます。
こういう場合は、男女関係なく「プライベートで何か心配なことはないか。何かあればいつでも相談してね」という感じで伝えておくのがよいでしょう。個人差はあるでしょうが、普段からの信頼関係があれば、ある程度開示してくれるはずです。