2022年10月、人事・ダイバーシティの会による「第2回 次世代人材育成研究会」がオンライン開催されました。世代・トレンド評論家の牛窪恵さんを迎えて、20代社員とどう向き合うか、世代間ギャップをどう埋めるかといった課題を研究。牛窪さんの講演と、参加者によるディスカッションが行われました。
(出演者)
世代・トレンド評論家、インフィニティ代表取締役 牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)
『プレジデント ウーマン』編集長 木下明子(きのした・あきこ)

今の20代はキャリアへの納得度が低い

今回の研究会は、世代・トレンド評論家の牛窪恵さんによる「今の20代の傾向と、彼らを上手に戦力化するコツ」と題した講演から始まりました。日本の多くの企業にとっては、ダイバーシティの推進はもちろん若手社員の育成も大きな課題のひとつ。各企業から多くの人事・ダイバーシティ担当者が参加し、講演に耳を傾けました。

マーケティング会社インフィニティの代表取締役で、おもにネット調査やビッグデータなどを用いる「定量調査」と、少人数を対象にグループインタビューなどを行う「定性調査」を、企業各社と数多く実施してきた牛窪さん。各世代の特徴や消費傾向、彼らを取り巻く社会環境などを長く調査研究しています。

自身はバブル世代で、20代の頃はバリバリ働くことが格好いいとされる時代だったそう。ところが今の30代半ば~後半は「草食系世代」。牛窪さんが名付けた世代名で、多くがポジションや年収に固執せず、ワークライフバランスを重視する傾向が強い人たちです。

「そして、さらにその下のゆとり世代やZ世代は、消費傾向も働き方に対する考え方も、従来の世代とは大きく違います。なぜそう変わってきたのか、彼らにどう向き合えばいいのか。今日の講演が皆さんのヒントになれば幸いです」

牛窪さんはまず、さまざまな調査結果をわかりやすい図にして掲示しました。今の50代の約6割が「20代の頃は残業も顧みず働けるだけ働いていた」のに比べ、今の20代は「仕事よりプライベートを優先する」が圧倒的多数(約8割)(※1)。ここからは大きな世代間ギャップが見てとれます。

また、今の20代は現在のキャリアへの納得度が総じて低く、スキルを磨くのも「スキルがないと転職できないから」と転職が前提になっている様子。また「(どちらかといえば)副業したい」という人の割合も60%以上に上っており(※2)、牛窪さんは「この世代は震災やコロナ禍といった想定外の危機をたびたび経験していることから、本業と副業の二刀流で万が一に備えようという意識が高い」と分析しました。

さらに、職場で人間関係に難しさを感じている20代は85%。難しさの対象を「先輩や同僚」とする人が多く、理由としては威圧的、気分に浮き沈みがある、指示に一貫性がない、人柄が信頼できないなどが挙がりました(※3)。他の世代でもこうしたことに悩む人は少なくありませんが、今の20代はそれにも増して人間関係に敏感で、職場の雰囲気をとても気にするそうです。

※1:2019年 エニワン「『昭和世代と平成世代の価値観』に関するアンケート調査
※2:2020年 学情「20代副業に関する意識調査
※3:2018年 エン・ジャパン「1万人に聞く「職場の人間関係」意識調査―『エン転職』ユーザーアンケート

世代・トレンド評論家、インフィニティ代表取締役 牛窪 恵
撮影=小林久井(近藤スタジオ)
世代・トレンド評論家、インフィニティ代表取締役 牛窪 恵さん

バブル世代からZ世代まで、それぞれの特徴

こうした世代による違いはなぜ生まれるのでしょうか。「マーケティングの世界では、デジタルに何歳ごろ初めて接したかで、人間関係、コミュニケーションの取り方や消費の価値観などがかなり変わってくるとされています」と牛窪さん。

現在28~34歳のゆとり世代と18~27歳のZ世代(いずれも牛窪さんの会社の定義)は、物心ついたころからネット環境があった、いわゆるデジタルネイティブ。上の世代と違って、相手の邪魔をしないようにと電話よりメールやLINEを使い、働き方にも効率を求める傾向が強いのだとか。

もうひとつ、世代間ギャップが生まれる理由として牛窪さんが挙げたのは、多感な青春時代に置かれた、景気経済や社会環境の違いでした。

「草食系世代以降は、物心がついてからずっと経済不振が続くなかで「自己責任」を突きつけられ、リスクを避ける姿勢が共通している。ただ、ゆとり世代は『コスパ(費用対効果)』を重視し、中長期的に見てトライするだけの価値があれば、やってみようと考えやすい。またZ世代は『二刀流』なので、最初からリスクを前提に、プランAだけでなくプランBも用意して備える賢さを併せ持つ人たちです。転職や副業への志向が強いのもその表れでしょう」

では、他の世代はどうなのか。この点を明らかにするため、働き方に対する他の世代の考え方についても解説がありました。現在52~63歳のバブル世代は、バブル期に汗水流して働き、出世を競っていた「24時間戦えますか世代」。一方、現在46~51歳の団塊ジュニア世代は、初めて学校教育で男女平等教育を受け、派遣という働き方も身近になった世代。20代のころ、仕事は定時に終わらせてアフター5は自分磨きに勤しむなど、自分らしいライフ&ワークスタイルを求めていた人も多いといいます。

現在35~45歳のロスジェネ~草食系世代には、就職段階から、職場で人間関係や等身大の自分を重視する傾向が。同僚とも「競うのではなくゆるくつながりたい」と考え、ナンバーワンよりオンリーワンを目指すことをよしとする考え方が根底にあるようです。

そして前述のゆとり世代は、働き方に効率を求める一方で、社会貢献への意欲が高く、モノよりコミュニケーションを、目立つことよりもKY(空気を読む)を重視するという特徴があるそう。この傾向はZ世代になるとさらに強まり、「就活では企業名よりSDGs重視」「一人よりも共創」「リスクに備えて自分をアップデート」といった行動が見られるそうです。

Z世代が持つ「タムパ」の概念
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

若者には「3つのC」でアプローチを

こうした特徴を持つゆとり世代やZ世代に対し、上司や人事担当者はどうアプローチすべきなのでしょうか。牛窪さんは、彼らのモチベーションを上げるうえで次の「3つのC」を感じさせることが重要だといいます。

(1)Charge:早め早めのアップデートによる成長実感
(2)Care:他者が支援してくれるという安心感
(3)Co-creation:仲間や地元、家族と共に社会をよくする共創実感

「今の20代は、日本だけでなく先進国各国で、自分に自信がない世代だと言われます。つねに『このままでいいのか』との不安があるだけに、継続へのモチベーションが必要。その源となるのが3つのCです。ただ、大前提として企業や社会に、彼らが好む『ゆるいつながり』と『楽しさ』を感じられる環境が不可欠。そのうえで、3つのCを重視したアプローチをとってみてください」

各キーワードを実践するための具体例についても話がありました。たとえば、「Charge」ではスキルマップなどを活用して成長を数値で示す、「Care」では社内メンターや1on1などで支援体制を見える化する、「Co-creation」では積極的に現場に行かせて、誰かの役に立つ喜びを体感させてあげる──。牛窪さんは「こうした三方向からのアプローチを継続し循環させることが大事」と語り、参加者にこう呼びかけました。

「今はビジネスも競争から共創の時代に変わりつつあり、社会における自社の存在意義を軸にした『パーパス経営』も注目されています。20代の目線に立った彼らとの共創こそが、新時代のパーパス経営を創り出します。どう共創していくか、ぜひ皆さんでアイデアを出し合っていただけたらと思います」

講演後には質疑応答が行われ、牛窪さんと『プレジデント ウーマン』の木下明子編集長が、参加者の質問に一つひとつ回答していきました。20代の社員に対してどんな研修を行うべきか、研修への参加を促すにはどうすればよいかなど実践的な内容も多く、参加者はそれぞれ自社の施策に生かせるヒントを得たようでした。

プレジデント ウーマンの木下明子編集長
撮影=小林久井(近藤スタジオ)
『プレジデント ウーマン』の木下明子編集長

参加者によるディスカッションも

続いて行われたのは、木下編集長と参加者によるディスカッション。「20代の教育」をテーマに、牛窪さんの講演内容を踏まえて、自社で行っている施策や効果、今後の課題、その解決策などを皆で話し合いました。

金融業界のある担当者は「当社では、以前から女性向けの研修を続けてきて一定の効果が出たため、今は男女両方向けに切り替えていっている」と紹介。これから研修を始める予定だという担当者からは、研修の内容や効果、なぜ男女両方を対象にするのかといった質問が相次ぎました。

これをきっかけに議論が活発化し、「女性だけを対象に研修を行うと反発の声が上がりやすい」、「でも現実的に昇進に男女差があるのだからやり通したい」などの声が。中には、女性管理職比率がまだ低いのに「社内に女性支援はもう終わったというムードが漂っている」と悩む担当者もいました。

「女性活躍を推進して一定の効果を得たという企業でも、部長以上には女性がいないというケースは多いですよね。現実的にはまだ全然終わっていないのに、女性課長が一定数増えたからもういいだろうと。世にある商品やサービスには女性向けのものも多いのに、意思決定層に女性を増やさないままでいるのは本当にもったいないと思います」(木下)

そのほかにも、経営層の説得方法やライフイベント前の研修の意義、出産・育児からの復帰支援、時短勤務制度の功罪など、多くの議題が出て議論は白熱。業界は違えど全員が人事・ダイバーシティ担当者ということで、共感し合える点や学び合える点も多かったようです。

人事・ダイバーシティの会 第2回研究会の様子
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

最後に、木下編集長が「人事・ダイバーシティの会では、引き続き次世代人材育成をテーマにした研究会を開催していきます」と語り、第2回研究会は閉会しました。今後も研修の提案やセミナーを通して、企業が抱えるさまざまな課題の解決を図っていく予定です。