転職の面接で志望理由や他社への応募状況を聞かれることは多い。キャリアカウンセラー(キャリアコンサルタント)の中谷充宏さんは「面接では、面接官はその質問を通じて何を知りたいのかを考えて回答を準備する必要がある。志望理由では、他社ではなく当社でなくてはならない、オンリーワンの理由を聞きたいと考えている」という――。(第2回/全6回)

※本稿は、中谷充宏『30代後半~40代のための 転職「面接」受かる答え方』(秀和システム)の一部を再編集したものです。

胸の前で腕でバツ印をつくって拒否するジェスチャーをしている
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当社を志望する理由を教えてください

【面接官が知りたいのはココ!】
ちゃんと企業研究してきたよね?
使い回しの志望動機にはうんざりだからね
入社後の即戦力性も、感じさせてほしい

面接官は、ここで「他社ではなく当社でなくてはならない、オンリーワンの理由を聞きたい」と思っています。社名だけ変えれば、どこの企業でも通用する志望理由では響かないと心得ておいてください。

しかし実際には、経験豊かなはずのミドルの大半が、企業のホームページから拾った経営理念や社長のメッセージ等を引用して回答を組み立てています。

「御社の経営理念である『社会の発展に貢献』に共感し……」、「御社社長の『お客様に新たな価値を届け続けたい』というメッセージに強く惹かれ……」といった感じです。これではその他大勢と同じで、取ってつけた印象を否めません。

ここは長年の職歴を活かして、自分の人脈等を駆使してリアルな企業研究をした上での志望動機を盛り込みましょう。

でないと、その他大勢から抜きん出ることはできません。

加えて、その企業で自分に何ができ、どのような貢献ができるのかを、志望動機と連動して述べることを忘れてはいけません。

たとえばこういう人の場合

40歳女性、大卒後新卒入社したアパレル企業で店舗マネジャー職として勤務中。今回は老舗ブランド会社の、同じく店舗マネジャー職への応募。

NG!
御社の経営方針にいたく共感しまして。特に『革新へのチャレンジ』というテーマは、まさしく私の仕事上のモットーと同じです。

↑抽象的で、「オンリーワンの理由」を説明できていません。

OK!

まず、私がファストファッションのリーディングカンパニーで養った店舗マネジメントスキルを、御社のディフュージョンブランドで活かしたいと考えました。
特に私はこの10年、レディスセクションマネジャーとして店舗発注業務も行っていましたので、移り気な20代女性の売れ筋トレンドを読む力は、一番貢献できる所と思っております。
レディス部門の最高級ブランドで名高い御社で働くことは、長年の私の憧れでもありました。
懇意にしているファッションプレス曰く、他の老舗ブランドと違って現状に妥協しない攻めの姿勢が最大の強みと伺い、より一層御社で働きたい気持ちが強くなった次第です。

↑入社後の「やりたいこと」と「できること」をバランスよく交えて連動させることで、単に「やりたい」という自分勝手な思いだけではないことを証明でき、即戦力としての活躍を期待させます。「プレス」という第三者からのリアル情報を追加することで、納得感が増します。

他社への応募状況と、選考の進み具合を教えて頂けますか?

【面接官が知りたいのはココ!】
(「御社だけ」という場合)本当?
複数の応募先がある中で、当社で働きたい旨をアピールしてほしい

ミドルなら、今や何十社と応募するのが当たり前ですから、他社を受けていても何ら問題ありません。

ただし、応募企業と違う職種や業種に応募している場合、言いっ放しではなく、なぜそこに応募しているかの説明が必要になります。

たとえば、「私が経験を積んだ○○業界も、今回応募した△△業界も、目に見えないサービスを扱う点では一緒ですので」といった具合です。

なお、内定もないし進行途中の企業もないのでは、さすがに訝しく思われる危険性があります。実情がそうでも、「御社と同業の複数にエントリーを検討しています」等と、今後の応募予定について語っておきましょう。

その一方、既に内定を持っていたり、応募企業よりも先の選考段階に進んでいるのであれば、アピールする絶好のチャンスと捉えてください。

実際、他社で高評価されていることは、非常に強い武器となります。状況を伝えつつ、「私が働きたいのは(他社ではなく)御社です」と宣言して、面接官を安心させてください。

たとえばこういう人の場合

42歳男性。大卒後、新卒入社したシステムベンダー会社でネットワークエンジニアとして従事。今回は初めての転職。

NG!
(失業中にもかかわらず)今のところ他社は受けていません。御社だけです。

↑これでは転職活動を真剣にやっていないように感じられます。

OK!

現在のところ、前職と同じネットワークエンジニアを募集している通信キャリア3社、ITコンサルタントを募集している外資系コンサルファーム1社に応募しております。
通信キャリアは、3社とも1次面接のスケジュールを調整して頂いている状況です。
コンサルファームは、少々畑違いのように感じましたが、転職エージェントから勧められ、先方の話を聞かせて頂いたところ、私の経験が活かせるのはもちろんのこと、多数のクライアントを回るので、日々の業務に飽きることなく知的好奇心が満たされる点に面白さを感じ、応募した次第です。こちらは現在、最終面接まで進んでおります。
ただ、繰り返しになりますが、御社のネットワークエンジニアになりたいという想いが最優先であるということを付け加えさせてください。

↑現在の応募企業の選考状況を正直に話すのは、当然です。それに加えて、違う職種に応募した経緯や関心をフォローした上で、最終面接まで進んでいることをさりげなくPRできています。そして最後に応募企業に対する入社意欲を念押ししておく。非常に良い回答です。

面接で驚いて口を覆う女性
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数ある同業企業の中で、なぜ当社なのですか?

【面接官が知りたいのはココ!】
業界研究、企業研究を基に、比較検討して説明してほしい
他社をおとしめて、「だから当社」という回答はやめてね

ここは同業他社と応募企業の比較をした上で、「だから私が志望するのは御社です」といった構成で回答を導き出さねばなりません。

このためには、応募企業の企業研究だけでは足りず、その業界やライバル会社に関しても研究しておかないと答えられません。

特にミドルの場合、抽象論ではなく今まで築き上げてきた人脈や業界誌、セミナー・研修会などのリアルな情報から語る必要があります。

また、他社と比べた場合の応募企業の優位点や魅力、独自性などをわかりやすく伝える説明力も重要です。

せっかく業界・企業研究をして豊富な知識を持っているのに、対立軸を明確にしない等、比較説明ができないのは、非常にもったいない話です。「人前で説明するのは苦手でして」では済まされません。苦手なら余計に、事前にしっかり練習しておく必要があります。

採用されたい一心で、他社を貶めたり批判する発言を見かけますが、相手を下げてこちらを高める話法は良くありません。

大人気なく、面接官にとっても非常に聞き苦しいので、絶対にやめましょう。

たとえばこういう人の場合

37歳女性、大卒。これまで2社のビルメンテナンス会社のマンション管理業務に従事。今回は3社目の転職で、同業種・同職種への応募。

NG!
御社の競合である△△社の2次面接時に、面接官から『うちは徹底した成果主義だから厳しいよ』と言われ、不安になりました。その点御社は、安定した~

↑他社をけなして応募企業を持ち上げるのは避けましょう。

OK!

まず御社の、他社と違って工程毎に分社したりせず販売から施工、管理まで一気通貫で対応できる点と、売って終わりではなくアフターケアこそ大切という方針に強く惹かれたので、御社が第一志望です。

同業他社は多数ありますが、この地域でこの2つを満たしている所は皆無だと思います。
私は2社で管理業務を経験していますが、どちらも『管理費の内訳を説明しない販売会社が悪い』、『壁のヒビは施工会社のせい』と責任回避に終始していました。
こういった業界の常識を改善すべく、住んだ後のCSに比重を置いた社長のご英断は素晴らしいと感じました。
入社が叶いましたら、購入者の満足度向上を目指して頑張る覚悟です。

↑他社との違いを明確に打ち出すのは、ここでは必須です。自身の業界慣習への問題意識や応募企業の姿勢を重ね合わせると、より訴求力が高くなります。

当社の課題は何だと思いますか?

【面接官が知りたいのはココ!】
企業研究はきちんとしてるよね?
解決方法を論理的に説明してほしい

有名企業でない限り、新聞やテレビといったマス媒体で、その企業の課題が論じられることはないでしょう。

中谷充宏『30代後半~40代のための 転職「面接」受かる答え方』(秀和システム)
中谷充宏『30代後半~40代のための 転職「面接」受かる答え方』(秀和システム)

したがって、通常の業界研究・企業研究で核心を捉えるのは非常に困難です。

丸っきり的外れでは困りますが、ここで面接官は、「なぜそれが当社の課題と思ったのか」という選択理由について、客観的な事実や具体的な数値等を用いて理論的に話を展開できるかをチェックしたいと思っています。

たとえば、「同業他社と比べてみたのですが、御社の公表されている数字を見ると、売上に対し従業員数が多いと感じます。営業社員1人当たりの売上額の低さ、間接人員の多さが想定されるため、生産性の向上を課題に挙げさせて頂きました」という感じです。

もちろん課題指摘で終わってはいけません。解決する方法をセットで述べなければ、単なる上から目線の評論家と見なされます。

「入社したら一緒にその課題を克服していかなければならないので、当事者意識を持った上での(課題解決の)具体的な方法を伝えてもらい、課題解決力を感じたい」と、面接官は考えています。

たとえばこういう人の場合

38歳男性。大卒後、新卒入社した1社にて総合職として勤務。今回は初めての転職で、同業種・異職種(経営企画職)への応募。

NG!
今この業界は、スケールメリットを利かさないと生き残りが難しい時代です。競合他社はM&Aを盛んにしているのに、御社は規模拡大に消極的なのが課題と考えます。

↑課題指摘の後に、解決への道筋を語らないといけません。

OK!

特定企業との取引依存度が高いのが、御社の課題かと思っております。

公表されている主要取引先を見ると、有名な大手企業の名前が並んでいます。釈迦に説法とは存じますが、浮気せずに大手企業とだけ取引していれば安定した経営ができるというのはもはや幻想だと思います。鉄の結束を保っていた自動車メーカーも、系列を超えて取引を行う時代です。

このままでは取引先の大手企業に生殺与奪を握られ、逆にリスクが高いと言えます。

急には難しいでしょうが、やはりここは特定企業との取引依存度を減らすことを念頭に置いて、自社製品の付加価値を向上させる必要があるかと考えております。自転車業界のように、部品メーカーが完成品メーカーを凌駕し、立場が逆転している分野もあります。
入社後は、自社製品の付加価値を向上することに取り組んでいきたいと思います。

↑具体的な事例を用いて課題と解決方法を提案することが、ミドルには求められています。