活動本格化から1周年を迎えた「PRESIDENT WOMANダイバーシティ担当者の会(現 「人事・ダイバーシティの会」)」。今回は特別拡大版として、東レ経営研究所ダイバーシティ&WLB部長の宮原淳二さんと木下明子編集長による対談、および参加者による意見交換会・交流会の2部構成で開催。男女管理職の意識や幸福度に関するデータを基に、女性管理職を増やすためのヒントを探りました。

女性は昇進するほど幸福度がアップ

第1部の勉強会では、本誌春号の記事「男女リーダー1200人意識比較調査」で掲載したデータを、宮原淳二さんと木下明子編集長が対談形式で分析・解説。男性管理職と女性管理職では意識や幸福度がどう違うのか、それはなぜなのか、3つのテーマに分けてひもといていきました。

最初のテーマは「昇進意欲と幸福度」。現役管理職への調査では、昇進前から絶対管理職になりたかったという人は女性31.6%に対して男性は44.0%でした。また、昇進直後の幸福度も男性のほうが高いという結果が出ています。その要因について、宮原さんはこう語りました。

「男性のほうが昇進意欲が高いのは、社内にロールモデルが多いうえ、昇進が仕事の評価指標や世間体のよさにつながるからではないかと思います。また、昇進直後は自分の名が組織図の上位に移る、椅子に肘掛けがつくなど目に見える変化があります。そうした点が優越感に、ひいては幸福感につながっているのではないでしょうか」(宮原)

ところが、現在の幸福度を階層別に調べてみると、一般社員から課長、部長、役員と役職が上がるほど、女性のほうが幸福度がアップ。特に経営者・役員クラスでは、幸福度を10とした人が男性7.5%に対して女性20.0%と2倍以上の差がつきました。木下編集長によると、こうした傾向は、『プレジデント』編集部で同様の調査をしていた十数年前から変わらないのだとか。

勉強会の様子
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

「私もそうでしたが、管理職になると働き方にも裁量権を持てるようになるところが魅力。自分の考えで仕事を進められるので、ワークライフバランスも整えやすくなります。女性にとって、これはかなり大きなメリットだと思います」(木下)

この意見には宮原さんも大きく同意。実際、管理職になってよかったかという問いにYESと答えた人は、男女ともに約85%とほぼ同じでした。女性は管理職になることに不安を感じる傾向が強いものの、「データを見ると昇進後はその不安が払拭されている」と宮原さん。現役管理職の女性は、管理職のよさを若手女性に積極的に伝えてほしいと訴えました。

東レ経済研究所 ダイバーシティ&WLB部長 宮原 淳二氏
撮影=小林久井(近藤スタジオ)
東レ経営研究所 ダイバーシティ&WLB部長 宮原 淳二氏

「管理職=滅私奉公」は思い込み

一方、「周りの管理職の嫌なふるまいは何か」という問いでは男女差がくっきり。男性は「話が論理的でない」、女性は「相手によって態度を変える」が1位で、さらに「ワークライフバランスを無視して働く」は女性のほうが圧倒的に否定派が多いという結果が出ました。

「女性は正義感が強いのか、上にはゴマをすり下には偉そうにする上司を反面教師としている方が少なくありません。そして男性は、長話を聞くのが苦手で『先に結論を言って』というせっかちな方が多い様子。でも、部下の話は時間をかけてしっかり聞くべきですね。そうでないと、いずれ部下が意見や相談をしてくれなくなってしまいます」(宮原)

そのほか、管理職になる前にやっておけばよかったこととして、女性からは経営学やファイナンスの勉強、社内交流などが挙がりました。宮原さんと木下編集長は「男性は飲み会などの場で上司から処世術を学んだり、そろそろ昇進だから勉強しておけと言われたりすることもあるが、女性はそうした機会が得にくいのでは」と分析。この部分の男女差をなくすには、上司が指導の場を広げる必要がありそうです。

次のテーマは「人生における幸せと悩み」。木下編集長から、管理職のプライベート面に迫る調査結果が紹介されました。複数の設問から見えてきたのは、女性管理職には仕事に幸せを感じている人が多く、さらにプライベートの満足度も非常に高いという意外な事実。管理職は家庭や私生活を捨てて滅私奉公するものというイメージを持つ女性も少なくありませんが、実際は真逆のようです。

「調査結果を見ると、管理職になっても家庭や趣味との両立をそこまで心配する必要はなさそうです。でも、間違った思い込みから管理職になることを敬遠する女性も。人事担当者の方は、そうした思い込みをなくせるよう努めていただけたらと思います」(木下)

勉強会の様子
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

一方、悩みについては、女性は心身の健康や人間関係、男性は仕事やお金絡みのことが多い傾向に。特に女性は、人間関係によってモチベーションがかなり左右されやすいそうです。

「部下が人間関係について相談してきたら、『そんなこと気にするな』はNG。上司の方はしっかり話を聞いて、仕事に影響が出る前に、相手との間に入って対話を促してほしいと思います」(宮原)

プレジデント ウーマン 木下明子編集長
撮影=小林久井(近藤スタジオ)
プレジデント ウーマン 木下明子編集長

昇進することのメリットをしっかり伝えて

最後のテーマは「管理職とお金」で、まず年収については男性管理職のほうがやや高い傾向が見られました。宮原さんは「同じ管理職でも、部長や次長クラスではまだ女性比率が少ないため、それが年収差となって表れているのでは」と分析。今後、上位のクラスに就く女性が増えていけば、年収差も縮まっていきそうです。

「男女リーダー1200人意識比較調査」で掲載したデータ
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

また、1カ月で自由に使えるお金は女性管理職がもっとも多く、「15万円以上」と答えた人が約28%にのぼりました。対して、男性管理職では15万円以上は約14%。この結果に、宮原さんと木下編集長の意見は「女性は男性より購買意欲が旺盛と言われているため、女性管理職が増えれば消費が拡大し、日本経済も活性化していくはず」ということで一致しました。

「男女リーダー1200人意識比較調査」で掲載したデータ
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

「女性管理職は金銭的に余裕があり、購買意欲も極めて高いと言えます。彼女たちを購買層とする市場は、これからさらに拡大していくでしょう。この市場を狙う企業にとっては、意思決定層に“購買層に近い視点を持った女性”がいるかどうかが重要になってきます。今後は、そうした企業こそが市場を勝ち抜いていけるのではと思います」(木下)

続いて行われた質疑応答では、参加者からたくさんの質問が寄せられました。優秀なのに「私は管理職に向いていない」と思っている女性にはどんなメッセージや施策が有効なのか、急に管理職に登用されて戸惑っている女性に会社としてどんなサポートをすべきか――。

人事・ダイバーシティ担当者の方々からのこうした質問に、宮原さんと木下編集長は一つひとつ丁寧に回答。100名以上の女性社員をマネジメントしてきた宮原さんと、多くの企業への取材経験を持つ木下編集長の助言は、大きなヒントになった様子でした。

第1部の最後には、宮原さんから参加者に向けて励ましのメッセージが送られました。

「国は当初、女性リーダーの数値目標を、2020年までに全体の3割としていました。しかし結局達成できず、2030年までのなるべく早い段階でと軌道修正しました。今度こそこの目標を達成すべく、人事部門や直属の上司の方は、女性に管理職になることのメリットをしっかり伝えて、挑戦を後押ししてあげてほしいと思います」(宮原)

宮原淳二さんと木下明子編集長
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

意見交換会・交流会で課題を共有

第2部ではZoomのブレイクアウトルーム機能を使って、参加者同士の意見交換会・交流会が行われました。参加者は5つのグループに分かれて、第1部の内容を基にディスカッション。その後、各グループの意見を代表者が発表しました。

参加者同士の意見交換会・交流会
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

ルーム1の代表者は、ディスカッションの中で、企業によって環境や男女の平等度にかなり差があると気づいたそう。その差を踏まえた上で、自社の具体的な施策を紹介し合い、さらには女性としての思いについても意見を交換したと語りました。

ルーム2では、まず各社の女性活躍の現状について、次にそれぞれが持つ課題感について語り合ったそうです。トップと現場の管理職の意見が一致していない、女性を育成したくても会社が人材投資に積極的でないなど、人事担当者ならではの悩みを皆で共有できたと言います。

ルーム3では、「どうしたら女性管理職を増やしていけるか」が焦点に。管理職と幸福度の関係を上手に伝えていこうということで意見が一致したほか、代表者は「メンター制度を実施している社の事例や成果も聞くことができた」と大きな収穫を得た様子でした。

ルーム4の参加者には「他者評価は高いのに自己評価が低い女性が多く、昇進の土俵に上がろうとしてこない」という共通の課題があったそうです。この課題を解消するには、女性ならではの特性を上司や男性社員に認識してもらい、その上で1対1での話し合いや個別対応を行っていくことが大事だという結論に。さらに代表者は、トップ自らが女性活躍の意義を発信することも重要だと訴えました。

ルーム5では、女性社員を育成する立場にある上司への研修施策を共有。予算が人材投資にまで回らず、ダイバーシティというテーマだけでは研修を実施しにくい現状が浮き彫りになったと言います。また代表者は、管理職を経験した女性参加者の「一緒に仕事をする中で管理職って楽しそうだなと思ってもらうことが大事」という言葉が印象的だったと語りました。

女性活躍に取り組む人事・ダイバーシティ担当者という点は同じでも、企業が違えば風土も職場環境も違うもの。そうしたなかで、今回のディスカッションは他社の現状や具体的な施策を知るよい機会になったようです。

発表後、木下編集長は「トップと現場の上司の意識、日本女性特有の自己評価の低さなどが課題」と総括し、続けて参加者の皆さんにエールを送りました。

「今後は、人材投資のありかたが企業の生き残りのカギになってくると思います。ですから、皆さんはどうかくじけずに挑戦し続けてください。私たちも課題解決のお手伝いができるよう、一緒に頑張っていきます」