若者研究の第一人者であり芝浦工業大学教授の原田曜平さんが、理系の学部・大学院に在籍する女子大学生9人の座談会を開催。理系に進んでから気づいた意外なメリットとは――。
座談会参加者
藤井さん=芝浦工業大学理工学研究科(修士)
鈴木さん=芝浦工業大学デザイン工学部デザイン学科
有坂さん=芝浦工業大学工学部機械工学科
岡田さん=青山学院大学理工学部経営システム工学科
中川さん=芝浦工業大学建築学部建築学科
熊坂さん=駒沢女子大学人間総合学群住空間デザイン学類
井関さん=横浜市立大学医学研究科(修士)
井島さん=芝浦工業大学理工学研究科(修士)
山下さん=東京海洋大学海洋工学部海事システム工学科

工業大学に入学することを告げたら祖母が…

【原田】前編で、皆さんそれぞれのきっかけがあって理系に進んだということを話してもらいましたが、周囲の人から「女性なのに理系に行くのか」というような反対をされた経験はありますか?

【有坂】反対というほどではないけれど、小さい頃からかわいがってくれた祖母に「工業大学に入ります」と報告したときは、悲しそうな顔をされてしまいました。祖母から見ると、男ばかりの危ないところに思えたのかもしれません。「ピアノを習っていたから音楽大学に行けばよかったのに」とも言われ、ショックでした。祖父が「今は女の子でもそういう時代なんだよ!」と説得してくれて救われましたけど。

座談会の様子
撮影=プレジデントオンライン編集部

【井島】私も反対というか、高校のときに理科で物理を選択したら、両親は文系なので「物理だと私たちは勉強を教えられないけれど、いいの?」と聞かれました。理系に進むのは100歩譲って理解できるけれど、生物ではなくて物理となるともう分からない、みたいな反応でしたね。

【山下】私も理系に進んだときではなく、船の海上職になるために転学したときは偏見の目で見られ「そんな男社会に行くなんて、いいの?」と言われました。

座談会の様子
撮影=プレジデントオンライン編集部

【原田】船乗りなんて男社会の最たるところですからね。どう言い返したんですか?

【山下】えっと、「そういう時代なんだよ」と……(笑)。

【原田】そうだよね。ここにいる皆さんはご両親とかからあまり強い反対を受けなかったのかなと思うけれど、世の中には反対されてそれに屈してしまう女子も多いのかもしれない。

将来のビジョンがない子は「なんとなく」文系を選んでしまう

【鈴木】昔はよく理系に進むのを反対されたと聞きますけれど、私たちは幸い、個人の意見を尊重すべきだという時代に育ったので、周囲でもあまり聞いたことはないですね。

【熊坂】私はアルバイトで中学生、高校生向けの塾の講師をしているんですが、中学の頃から興味のある分野がはっきりしている子と、何をしたいのかわからなくてなんとなく文系の方がいいかなと思っている子に分かれています。そこで、塾がプレゼンをして「理系だとこういうところに就職できるよ」と説明すると将来のビジョンがなかった子も前向きになりますね。

座談会の様子
撮影=プレジデントオンライン編集部

【原田】そうやって情報を伝えるのは大事だよね。やはり国というか教育の現場が「理系に進むとこういうメリットがある」ということを十分に伝えられていない。理系って就職も有利なんだし、もっとたくさんの女子が理系に進めばいいのにという気持ちはありますか?

【全員】あります、あります。

数学が苦手な場合はどうすればいいのか

【原田】でも、うちの娘は小学生で、動物とか鉱物の図鑑が大好きで、めちゃめちゃ詳しくて理系っぽいんだけれど、塾では算数の成績だけ悪い。そういう場合はどうしたらいいですか。

【中川】私がまさにそうでした。そこからなぜ苦手な数学を克服できたかというと、建築学部のオープンキャンパスで数学の授業を受けたときに、「この図がどうやって建築物に応用されるのか」ということを教えてくれたから。数学が好きなものにつながっているんだと思うと、勉強も頑張れました。前編でも言いましたが、数学は比較的、克服しやすい科目だと思います。

座談会の様子
撮影=プレジデントオンライン編集部

【井関】「女子は数学が苦手なものだ」というイメージがあるから、ちょっとつまずくとそれで理系に進むのをあきらめてしまう傾向がありますよね。男女にかかわらず、数学が苦手な人は多いのに、「女子は苦手でもいいよね、わざわざ理系を選ぶことないよね」とされてしまうのはもったいないと思います。

理系に進んでおけば、文系の就職もできる

【岡田】それに、高校生の時点で「理系の方が就職しやすい」「技術があれば結婚、出産後も復職しやすい」ということはなかなか分からないですよね。実際に大学に入って先輩の話を聞いてみないと……。私は今、就活中ですが、理系学部から文系の就職ができるということも高校生にはあまり知られていないと思います。

【井関】そこまでキャリアを明確に思い描けていない子にとっては、理系に進むことは道が絞られることになると感じられるようです。でも実際には物理を学んでも進路が狭まることはないわけです。

座談会の様子
撮影=プレジデントオンライン編集部

【原田】文系の職にも就ける。また理系から文転をすることもできますよね。つまりつぶしが効くというのは意外な盲点かもしれないね。例えば文系のイメージが強い新聞社でも科学部という部署があり、理系の人は重宝されるわけです。就職については理系が強いというのははっきりした事実なのに、リケジョが増えないのはなぜなんだろう?

【岡田】経済的な理由として、医学部は別格としても理系の学部は授業料が高いですよね。

【原田】今は親も経済的に苦しくなっているし、それもあるかもしれないね。

文系は青山キャンパスなのに理系は相模原…

【岡田】それにうちの大学のように文系は青山キャンパスなのに、理系学部は相模原キャンパスだということも、関係あるのかも……。

【原田】たしかに理系の学部は郊外に追いやられがちですね。実験施設や研究所があるから広いスペースが必要ということなんだろうけれど……。

【井島】やっぱり高校生の時点では、東京の都心で楽しい大学生活を送りたい! というあこがれで学部を選んでしまい、そうすると自然に文系ということになるのでは。

撮影=プレジデントオンライン編集部

【原田】理系だとキラキラした大学生活にはならない、と。

【有坂】大学生でインフルエンサーの人というと文系が多い。そういったSNSなどで目立つ人やタレントさんに理系の女性が増えるといいですよね。女優さんとかでも。文系に比べて、高校生以下が興味を持つきっかけが少ないのかも。

【原田】やはりメディアで目にするものの影響は大きいよね。ネガティブなイメージとしては、実験とかで勉強がたいへんというのもあるのかな。実際にはどうですか?

朝から夕方6時まで「勤務」

【藤井】授業は難しいですが、それが私にとってはよかったです。中学高校の6年間は頑張れるものがなかったけれど、大学に入ってからは学ぶ内容が面白いので毎日、充実しています。研究室の先輩からは「(実験があるので)週2日も休めないし、就職した方が楽だよ」と言われ、文系の人からは「大学時代は遊んだほうがいいよ」と言われますが、それには共感できないんですよね。

撮影=プレジデントオンライン編集部

【有坂】たしかにうちの家族は全員、文系なので、「大学生なのに、こんなに勉強するなんてかわいそう」と言われます。入学前から機械工学科は履修科目が多く卒業するのがたいへんだと言われていましたが、いざ大学に入ってみると、勉強は想像以上にハードでした。

【鈴木】私の専攻も朝から夕方6時まで学校にいるので、もはや「授業」ではなく「勤務」と呼んでいます(笑)。でも、それを楽しんでやっているのが理系の独特なところで、逆に社会に出てからあまり困らなくていいのではと思いますね。

座談会の様子
撮影=プレジデントオンライン編集部

【有坂】専攻している授業のほかに教職課程も取って、部活動もして、バイトもやっているので、家には寝るために帰るだけという忙しい毎日ですが、思い描いていた大学生活のとおりでもあるのでよかったなとも思います。

【井関】私がいた学科が少人数だからかもしれませんが、ずっと一緒にいる分、ラボの仲間と一緒に能動的に学問に取り組んで、お互いにアドバイスしながら高め合えるアカデミックな環境だというのは理系ならではなのかなと思いますね。

撮影=プレジデントオンライン編集部

【井島】部活では私が入りたかった山岳部には男子しかいないなど、入れるところが限られてきてしまうんですが、授業では意外に国際性が豊か。有志が入れる国際プログラムがあって、理系の研究をしていても自分の国際性を高められるのはメリットだなと思います。

【原田】皆さんの話を聞いてみて、僕がリケジョに抱いていたイメージとは変わってきていることを感じます。これまで女性は理系に進むのを暗に反対されるのが問題とされてきたけれど、皆さんは大学に入るまで特に反対もされず理系に進んできている。しかし、社会全体で見れば女性は生涯賃金が男性の7割ぐらいと低いし、理系に進む人も増えていない。女性がしっかり稼いで自分の生活を守れるようにするためにも、もっとリケジョが増えてほしいと思いますね。皆さんの話の中にいくつかヒントがあって、理系の就職事情や仕事と家庭の両立のリアルについてはもっと一般に知ってもらえたらと思います。