※本稿は、安藤広大『数値化の鬼 「仕事ができる人」に共通する、たった1つの思考法』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
「思うように売れない」ときは頑張り方を変える
ある商品を開発しました。とても売れる自信があります。
しかし、目立つところに置いても売れませんでした。値下げしても売れません。デモンストレーションをしても売れません。
わかりやすく説明するPOPを置いたところ、売上がやや微増しました。
店内で軽くヒアリングすると、「パッと見でメリットがわからない」「難しいイメージだ」という反応がありました。
そこで、思い切って、ネーミングを変えてみたら、飛ぶように売れるようになったのです。つまり、この商品にとって、商品の名前が「変数」だったのです。このように、試行錯誤をして、頑張り方を変える方法を紹介しましょう。
「仕事のどこを変えればいいのか」これを考えるのが、いわば仕事の醍醐味です。思いつくままにテコ入れするのではなく、1つにフォーカスし、問題を解決する。それは、個人でも組織でも同じです。
そのためには、目の前で起こっていることの裏側にある「数字」を見つけなくてはなりません。結果を裏付ける数字があるはずです。
違和感をそのままにせず、数字を見つけ出すこと。その技術を身につけましょう。
ビジネスにおいて、すべての物事はいったん数字に置き換えられます。ただし、そのすべてを考えるべきかというとそうではありません。
「考えるべきこと」と「考えてもムダなこと」に分かれます。それを見分けるために必要な概念が、本記事のキーワードである「変数」なのです。
2つの「頭の悪さ」
世の中には、2つの頭の悪さがあります。1つは、「すべて自分の思いどおりになる」と思っていることです。もう1つは、「自分の力では何をやっても思いどおりにならない」と思っていることです。
どちらも間違っています。
正しくは、世の中には「変えられること」と「変えられないこと」があるということです。
そして、多くのビジネスパーソンは、次の2つのパターンで苦しんでいます。
・「変えられること」を変えられないと思い込んでいる人
本来なら、「変えられること」を変えようと努力し、「変えられないこと」は早々に見切りをつけることが大事です。
どこに「x」が隠れているのか
この見極めに必要なのが、「変数」という考えです。数学が得意だった人は、「y=ax+b」という一次方程式を思い浮かべてもらうと、「x」が変数であり、それにより「y」の値が変わるということがイメージできるでしょう。
「a」と「b」は定数であり、与えられた数字なので、ここは変えられません。
数学が苦手でも、この本質は理解しておかないといけないので、さらに例を挙げましょう。
たとえば、大事なプレゼンに臨むとします。資料作成の時間を1時間から2時間に増やし、レイアウトやデザインにこだわり抜いたとします。
しかし、プレゼンの結果があまり変わらなかったらどうでしょう。ここで2時間の努力を3時間や4時間に増やし、さらに資料作成に時間をかけるのは、間違った努力の仕方です。
それは、「プレゼン資料の『完成度』が『変数』ではない」からです。
今度は、プレゼンの様子を動画で撮影し、自分で見返してみるとします。すると、資料をめくったときにすぐに要点を伝えることなく、ダラダラと前置きの話をしていることに気づきました。そこで、「次の資料に移ったら、最初の10秒で結論を述べる」という方法を試したとします。
すると、プレゼンを聞いている人の反応が変わり、プレゼンの成功する「回数」が以前より増えました。数値化された成果が出たのです。
こうして、「プレゼンでの『伝え方』が『変数』だった」ことに気づくことができます。
「変数」こそが仕事の成果につながる
このように、結果を出すためには、「変数が何か」「どこに変数が隠れているのか」ということを、試行錯誤して見つけ出さないといけません。ここが仕事の成果に直結します。まずはプレーヤーとして、自分の仕事の変数を見つけられること。次に、マネジャーや経営者として、マイナスにつながる変数を減らすこと。いくら努力しても変えられない部分、つまり「定数」は、さっさと諦めることです。「変数」の重要性について、それぞれの方法を本記事で見ていきましょう。
プロセスの「型」を身につける
プレーヤーの人が「変数」を見つけ出すためには、プロセスを試行錯誤する必要があります。上司から思いつくままに口出しされながら教えられるより、一度、自分でやってみたほうが学べることが多いはずです。
とはいえ、そのカンどころに個人差が出てしまいます。
センスのいい人はいち早く「変数」を見つけ、どんどん仕事が上達します。センスがない人は置いていかれます。そのような差が生まれることを避けないといけません。
どんな業界や職種でも通用する「型」は、たしかに存在します。基本的に仕事は「PDCA」を回すことです。
では、変数を見つける「仕事ができる人」は、どのようにプロセスと向き合っているのでしょうか。
仕事の「中身」を細かく砕く
まず、仕事の工程を細かく分けるところから始めます。
「変数」を見つけるためには、やることを時系列で整理するのがポイントです。たとえば、自社で開発したシステムを商品に、法人営業で契約を取る業務をしているとします。
これを、「PDCA」に置き換えましょう。「P(目標)」は、「月3件の契約を取ること」だとします。「D(行動)」は、「1日4件のアポを入れること」だとしましょう。
さらに、1つの業務を時系列に分けると、次のようになります。
1. 最初のアポイントを入れる
2. お試し期間としてシステムを試してもらう
3. 契約の申込みを獲得する
というように、1つの契約を取るまでの工程を3つに分けることができます。
「行動量」を増やすためには、最初の工程を増やすことです。とにかくアポをたくさん入れることに集中します。
ここから、さらに成長する人は、それぞれの工程での問題点を整理します。
たとえば、アポが2倍に増えたのに、契約件数が2倍になっていないとします。それぞれの数字をかぞえてみると、以前は、
・アポ 60件
・お試し 6件
・契約 1件
という状態でした。そして、「行動量」を最優先した結果、
・アポ 120件
・お試し 12件
・契約 1件
と、改善できたとします。
アポが2倍になったおかげで、12件のお試しの導入にまでこぎつけています。
ただし、最終的な申込みにまでは1件しか進んでいないことに気づきます。
ここで、どのようにプッシュすればいいのか、そこに「変数」が隠れていそうです。
ガムシャラにアポを増やしながらも、「最後の契約に結びつけるには『どこ』を頑張ればいいのか」にフォーカスしてみます。
「なぜ?」を繰り返して変数を明らかにする
お試しにまでこぎつけた12件のクライアントから、意見を集約してみたとします。すると、その8割から「使いにくい」「とっつきにくい」という声が出てきました。
それを改善するためには、「サポート体制があることを伝える」「ちゃんと担当者を付ける」などのメリットを提示する必要があることに気づけます。
もしくは、「試用期間に一度も連絡がこなかった」という声も寄せられたとします。
最初のお試しを導入してもらうまでは力を入れているのに、その後、なんのフォローもなかったら、契約する気は下がっていきます。
「実際、使ってみてどうですか?」「何かお困りではありませんか?」と、何度か連絡を入れてみたら、もっと早い段階で改善点を知ることができて、親身になってくれる印象を与えられ、契約に結びつくかもしれません。
実際に、試用期間中の連絡やフォローの「回数」を増やすと、契約件数が1件から2件、3件と増えたとしましょう。
ここで初めて、連絡やフォローの「回数」が「変数」であったことに気づけます。
「変数探し」は自分の間違いを認める作業
ここでの例では、お客さんからの声を頼りに、変数を見つけました。
これに自分自身で気づくためには、シンプルな方法ですが、「なぜ?」を繰り返すことが大事です。
「なぜ、アポからお試しまでにこぎつけることができないのか?」
「なぜ、試用期間が終わってから契約につながっていないのか?」というように、仕事の工程を細かくして、心を鬼にして自分と向き合うことが試されます。
「変数を見つける」という作業は、自分の行ないが間違っていたことを認める作業でもあるので、苦しさがあるかもしれません。
しかし、ここで向き合える人には必ず成長が待っているので、それを信じましょう。
ここまでの話は、あくまで一例にすぎません。
これを上司が言う前に、自分で考えることができるようになるのがゴールです。
「行動レベル」に落とし込めば迷いがなくなる
先ほどの例では、2件の契約を取るという目標の手前に、次のような目標が設定できました。
・お試し期間にこまめに連絡を入れる
・改善点をメリットとして伝える
さらに、数値化したKPIに分解すれば、1日にやるべきことが明らかになります。
・1日1回、お試しを導入している企業の担当者にメールか電話をする。お試し期間の終了時には必ずメリットを提示する。
プレーヤーとして、ここまで行動に分解していれば、もう迷うことはありません。
上司は「答え」を与えてはいけない
これらは、上司から「これが正解だからやれ」と言われても意味がありません。新入社員などの場合なら、こういった指示をしてプロセスを管理する必要があります。
しかし、プレーヤーとして成長する過程で、目標と結果以外は管理されないようにシフトしていくことが求められます。
最近の多くの企業は、いつまでもプロセスの管理をしてしまっています。
小さな目標を設定し、それをクリアしてくれれば、社員たちのモチベーションが上がるだろうと思い込んでいます。
まさにこれが、いつまで経っても社員や部下が成長しない原因です。
この事実に気づいた人から成長していきます。
仕事のプロセスを分けて、どこが問題なのかを探しながら、試行錯誤をする。
これを「自分でやって、自分で解決する」からこそ、勝手にモチベーションが上がっていくのです。上司や会社が踏み込む問題ではないのです。
いつまでたっても部下を子どもや新人扱いするから、モチベーション管理までを上司がやっているのでしょう。
しかし、それが成長を止めていることに、お互いが気づく必要があるのです。