※本稿は、西尾太『人事はあなたのココを見ている!』(アルファポリス)の一部を再編集したものです。
イエスマンの管理職は、部下にとっては最悪の上司
最も上司にしたくないタイプの代表格といえば、イエスマンの管理職です。イエスマンの管理職は、部下にとって最悪の上司といってもいいでしょう。
イエスマンの管理職は、極端な言い方をすれば、自分の上司しか見ていません。部下のことはまるで眼中になく、上の言いなりになって、平気で部下に無茶振りをしたりします。自分が評価されるためだけに過酷な目標を与え、部下がどんなに苦しんでいても、何のフォローもしません。
保身のためなら、朝令暮改や責任回避は当たり前。トラブルが起きたら、その責任まで部下に押しつけます。頭にあるのは、上司に気に入られて、出世することだけ。そんなイエスマンが上司になると、当然、部下は疲弊してしまいます。心身を病んでしまったり、上司に見切りをつけて、離職してしまう社員もいます。
私たち人事は、そうした社員をフォローしたり、その上司に進言したりもしますが、イエスマンは上しか見ていないので、部下の評判が悪くても気にせず、行動を変えません。
部下が上司を評価できる「360度評価」や「多面評価」といった制度がある会社では、イエスマン上司は部下からは最悪の評価を下され、それが人事評価にも反映されることもありますが、こうした制度がどの会社にもあるわけではありません。
イエスマンは上には絶対に逆らいませんから、社長が人事も兼ねているような中小企業やベンチャーでは、むしろ可愛がられて、そこそこ出世したりもします。理不尽な話ですが、イエスマンが上司になってしまったら、それを嘆いていても仕方がありません。特に30代以上になったら、ダメな上司でも使いこなすスキルが必要です。
上から攻略すれば、イエスマンはコントロールできる
イエスマンは、そもそも自分の意思がありません。上から言われたことは100%鵜呑みにするので、接し方次第では実はコントロールしやすい便利な存在でもあるのです。
例えば、人事から伝えると思い通りに動いてくれない案件でも、上の人にお願いしてOKを取れば、イエスマンは絶対やってくれます。上から話を通しさえすれば、イエスマンの管理職は意外と協力的だったりもするのです。
自分が実現したいことや、通したい案件があるときに、上司にダメと言われてあきらめてしまうようでは半人前です。上司にダメと言われたら、そのさらに上から攻めましょう。課長がダメだと言っても、部長がOKと言えば、課長はイエスと言わざるを得ません。
ただし、イエスマンの上司に直接アプローチしてしまうと「なんで俺を通さないんだ」と機嫌を損ねたりします。そういう場合は、上の上ではなく、斜め上の上司に相談するなど、社内の力学を読んで、上司に「イエス」と言わせる状況をつくっていくのです。
こうした根回しは、いやらしいことのように感じるかもしれませんが、ビジネスパーソンにとって、すごく大事なことです。「誰に言ったら、この人はイエスと言うのかな」といったことを常に見ておかないと、組織の中では本当にババを引いてしまいます。
会社で生き残るために必要なのは、上司に「イエス」と言って従うことだけではありません。上司に「イエス」と言わせる駆け引きを覚えることも、極めて重要なのです。
上しか見てない「ヒラメ管理職」は、会社にとってもリスク
下には厳しく、上にはへりくだる。自分より立場が上の人には、ゴマをすったり、ご機嫌を伺っているけれど、部下の気持ちは一切考えない。
上しか見ていない、いわゆる「ヒラメ管理職」は嫌われる上司の典型ですが、私たち人事にとっても困った存在です。
ヒラメ管理職は、上には取り入って可愛がられたりしていますが、部下の評判は最悪。その部署だけ、人がどんどん辞めてしまったり、部署異動の希望者が多かったりします。
パワハラやセクハラを起こすのも、だいたいヒラメ管理職です。上しか見ていないので、下には平気で暴言を吐いたり、無茶な仕事を押しつけたりします。ただ、パワハラやセクハラが発覚すれば、やっつける口実ができるので、人事としては懲戒処分などの対応ができます。
問題なのは、目に見えない部分でパワハラやセクハラをしたり、そんな上司に嫌気がさした社員が、会社を去ってしまうことです。
パワハラやセクハラは、会社が法的責任を問われる場合もあります。下に厳しく上にへりくだる社員は、会社にとってもリスクです。ここでは、そんな「ヒラメ管理職」を撃退する方法をお伝えします。
ヒラメ管理職をやっつける方法①「組織サーベイ」
ヒラメ管理職は、会社にとっても大きなリスクですから、人事は、かなり注意して見ています。
「うちの上司、なんとかしてくださいよ!」
そういう相談も受けますし、噂レベルの情報もたくさん入ってきますから、社内の誰が「ヒラメ」なのか、ほとんど把握しています。もちろん、なんとかしたいとも考えています。
ただ、ヒラメの上司に伝えても、「えっ、そうなの?」みたいな反応をされることが多く、あまり取り合ってもらえません。ヒラメは、上司からは「愛いやつ」と可愛がられているので、まずはヒラメの上司に理解させることが重要です。
そこで有効なのが、「従業員満足度調査」などの組織サーベイです。
組織サーベイとは、自社のパフォーマンスを向上させるために、現状の組織の問題点や改善点を把握し、適切な対処をするための調査のことをいいます。例えば、社内アンケートを取れば、社員の率直な意見がわかります。ヒラメ管理職については当然、厳しい意見が集まります。
「まずいですよ。このままだと、この人に部下を預けられないですよ!」
「どうしますか? 部下がどんどん辞めちゃいますよ!」
と、そのアンケートをヒラメの上司に見せて伝えれば、さすがに理解してもらえることが多いです。
それでもダメな場合は、上司の上司や社長に相談することもできます。
また、ストレスチェックを使った組織サーベイも効果的です。ヒラメ管理職の部署は、部下のストレスが別格に高かったりするので、職場の雰囲気やマネジメントの実態がわかります。組織サーベイは、感染症対策やリモートワークによる職場のコミュニケーション不足やマネジメント不全の改善のために、今、非常に注目されています。
ヒラメ管理職をあぶり出し、やっつけるためにもおすすめです。
ヒラメ社員をやっつける方法②「360度評価」
ヒラメ管理職への対処法として、もうひとつ推奨したいのは、部下が上司を評価できる「360度評価」です。
360度評価とは、ある社員に対して、直属の上司だけでなく、同僚、部下、他部門の関係者など、さまざまな人が、あらゆる角度から人事評価を行う手法です。
ヒラメ管理職の場合は、直属の上司の評価だけが高く、部下からの評価は、総じて低くなります。下に厳しく上にへりくだるヒラメの実態が明確に「見える化」されるので、管理職として問題があることを白日のもとにさらすことができます。
この結果を、ヒラメの上司に見せれば「あなたは5点つけていますけど、他の人はみんな1点ですよ」「評価しているのは、あなただけですよ」と、ヒラメの上司にもプレッシャーをかけることができます。
実は360度評価の「本当の主役」はヒラメの「上司」なのです。ちゃんと見てないことが、如実に表れるからです。
この360度評価は、私の会社にも問い合わせが多く、たくさんの企業が導入しています。ヒラメ管理職の対処法としても大変有効な方法です。
怖いほうに立ち向かったほうが長い目で見たら得をする
下に厳しく、上にへりくだる。ヒラメ管理職はいつの時代もいますし、いなくなりません。会社に限らず、「客だから」「お金を払っているんだから」と言って、タクシーの運転手さんに厳しく当たる、飲食店でいばり散らすなど、立場の弱い人に対してひどい態度を取るような人は、そもそも人間としてダメでしょう。
本当に偉い人ほど、誰に対しても、きちんと挨拶するなど、公正な態度を取っているものです。そういう態度は、必ず誰かが見ています。上には厳しく、下には寛容に。目指すべきは、こちらでしょう。
怖いほうへ怖いほうへ立ち向かっていったほうが「あの人は、上に対しても、ちゃんとモノを言う人なんだ」と評価され、長い目で見たらトクです。
それで左遷されても責任は取れないので、あくまで私の個人的な意見ですが、上に意見して冷遇されるような会社なら、辞めたほうがいいです。ヒラメの温床になるような組織では、安心して働くことはできません。
世の中には、社長に逆らったとか、異議申し立てをした社員でも、クビにせず、逆に評価してくれる会社もたくさんあります。そういう会社を見つけましょう。
下に厳しく上にへりくだる社員は、どんな組織にも必ずいますが、周りもみんなわかっています。気づかないのは本人だけ。いつか必ず報いを受けます。
早急に解決したい場合は、人事に相談して、組織サーベイや360度評価を実施してもらい、事実を白日のもとにさらしましょう。それが、あなたのためにも会社のためにもなります。