※本稿は、沢渡あまね『なぜ、日本の職場は世界一ギスギスしているのか』(SB新書)の一部を再編集したものです。
国際調査で日本は最下位
・高齢化が進み職場の空気がどんより。若手とベテランの間に溝ができている
・過度な成果主義や残業削減圧力により、助け合わない組織風土になった
・トップは「イノベーション」や「チャレンジ」を掲げる一方、現場の社員が新しいことをやろうとすると抵抗勢力が足をひっぱる
・二言目には「コスト削減」。職場の空気がどんどん暗くなる
このようなお悩みやご相談を、私は毎日のように企業の経営者や管理職から受けています。私は『組織変革Lab』(組織開発や変革を担う人たちのための、オンラインの越境学習プログラム)の主宰と講師をしていますが、コミュニケーションや組織風土の課題を挙げる参加者(主に企業の部課長)がとにかく多い。コミュニケーションや組織風土は、組織課題であり経営課題と言っても過言ではないでしょう。
そもそも日本の職場の空気は、世界レベルではどのように評価されているのでしょうか? 図表1をご覧ください。ISSP(国際比較調査プログラム)が2015年に調査した結果をまとめたものです。
日本は調査対象37カ国中、ダントツの最下位。残念ながら、日本の職場は世界一ギスギスしていると認めざるを得ないようです。
日本の職場がギスギスする3つの主な要因
なぜ、日本の職場はこんなにもギスギスしてしまったのか? 私はこれまで350以上の企業・自治体・官公庁で職場コミュニケーションと組織風土の問題に向き合ってきました。そこから、大きく3つの要因を見出しました。
1.旧態依然のマネジメントや働き方
日本は過去50~60年もの間、ものづくり産業を中心とする、大量生産型のマネジメントと組織風土を是としてきました。それが長らく「勝ちパターン」だったからです。トップの号令の下、皆が同じ時間に、同じ場所で顔を合わせ、決められた業務プロセスや作業手順に従い、決められたことを真面目にこなす。それで成果が出せたのです。その組織構造は同質性が高く、社歴が長い生え抜きの男性正社員が出世し権限を持つスタイル。なおかつ、「24時間戦えますか」のキャッチフレーズに象徴される、気合と根性で組織のために自己犠牲を厭わない人が高く評価されてきました。
組織カルチャーも労働制度も終身雇用が前提。私たち労働者は、会社や上司から理不尽な思いをさせられたとしても、新卒で入社した会社を我慢して定年まで勤め上げれば幸せな未来が約束されていました。
働き方、マネジメント、組織カルチャーを変えられるか
「あなたは60歳になりました。お疲れさまでした。定年です。これからは、潤沢な退職金と年金でご家族ともども幸せな老後をお過ごしください。ごきげんよう」
しかし、今の時代はどうでしょう? VUCAと呼ばれる、環境の変化が激しい時代です。先行きが不透明で、将来の予測が困難な時代です。今までの勝ちパターンが通用しなくなってきました。組織の中や過去に答えを見出しにくい。人材の流動性も高まり、多様化も高年齢化も進んでいます。「男性正社員オンリー」「24時間戦える人オンリー」では新規事業の創出やイノベーション、それどころか既存の事業を継続的に運営することさえも困難になるでしょう。
実際、本書執筆時点の2021年9月時点においても、新型コロナウイルスの蔓延がなかなか収束しない状況下において、テレワークやデジタルマーケティングのような新しいやり方を取り入れ目まぐるしく成長する企業と、旧態依然のやり方を手放せずに業績を悪化させる企業の格差が広がっています。
「変われない組織」
「成長しない組織」
「今までの勝ちパターンから脱却できない組織」
そのような組織に対し、未来志向の人、健全に成長したい人ほど危機感を高め、ストレスを抱えるようになります。それが職場のギスギスにつながります。私たちは、旧態依然のマネジメントや働き方、いや組織カルチャーまでをもそろそろ見直す必要があるのです。
2.旧態依然の職場環境
職場環境も職場の空気に少なからず影響を与えます。
世界最大のオフィス家具メーカー、スチールケース社(本社:米国ミシガン州)は、世界20カ国1万4903人を対象に、従業員のエンゲージメント(その組織や仕事に対する帰属意識や愛着や誇り)と職場環境の関係を明らかにするための調査を実施しました。
その調査結果によると、日本の従業員エンゲージメントと職場環境満足度は最低。執務環境に対して、ネガティブに捉えている傾向も明らかになりました。
どうも日本の旧来の組織はコスト削減の名の下、あるいは「仕事は辛くて当然」「皆で歯をくいしばって当然」のような気合・根性ベースの「べき論」の下、狭い職場環境、暗い職場環境、熱い/寒い職場環境、電話する大声や怒号が飛び交う騒々しい職場環境を放置してきたきらいがあるように感じてなりません。そのような殺伐とした職場環境で、働く人たちのモチベーションが高まるでしょうか? 生産性が高まるでしょうか? このような職場では、人は自分がプロとしてリスペクトされていない気持ちにさえなります。
「この組織は自分をプロとして見てくれない」
こうして、そこで働く人たちはその組織や仕事に対するエンゲージメントも下げていきます。贅沢せよとは言いませんが、すべての人がプロの仕事に集中できる、それでいてコミュニケーションしやすい執務環境を提供するのは組織の責任と言えるでしょう。
3.ジェネレーションギャップ
「職場で起こっている最も深刻な問題の一つは、ジェネレーションギャップやジェンダーギャップに対する鈍感さである」
日本マイクロソフトの元業務執行役員で、現在は人材開発・組織開発の専門家として活躍する澤円氏は、日本の職場がギスギスする要因の一つをこう説明しています。
世代間の価値観のズレ、いわゆるジェネレーションギャップは年々大きくなっていると言えるでしょう。学校を卒業したばかりの20歳前後の若手と、再雇用の60歳を超えた高齢の社員が同じチームで一緒に仕事をするのが当たり前の景色になりました。
40代の部課長が、20代と50代、60代の部下をマネジメントするチームも珍しくなくなりつつあります。上司と部下、あるいはメンバー同士、物事の判断基準も、考え方も、心地の良い働き方やコミュニケーションスタイルも違って当然。それらのズレが職場の空気をぎこちなくする場合があります。
正しく対話し、正しく議論し、あるいは譲り合い和解ができるならギクシャクはしません。
しかし、現実にはなかなかそうはいかないでしょう。
にもかかわらず、ジェネレーションギャップに真摯に向き合おうとしない。あるいは、ともすれば今までのやり方や年長者の論理、あるいは同調圧力でもって押し切ろうとする。それでは、職場がさらにギスギスして当然です。
無力感とイライラを募らせる若手たち
とりわけ年功序列のカルチャーが色濃い組織においては、組織内の見えない引力や同調圧力により年長者の声が悪気なく大きくなりがちです。
大手製造業のある部署のお話をしましょう。今までの仕事のやり方を変えようと若手がITシステムの導入を提案したところ、多数派を占める50代の社員の猛反発を受けて頓挫したそうです。
彼ら曰く「定年まで安泰に過ごしたい。頼むから余計なことはしないでくれ」とのこと。
気持ちは分からなくもないですが、組織の未来の発展を考えるとその発言はいかがなものでしょう。こうして、「自分たちが逃げ切ることしか考えていない、昭和のおじさんたちだけにとって幸せなパラダイス」がぬくぬくと育ってゆくのです。
そのような組織に良い人材が集まるわけがありません。成長を諦めたベテラン社員、危機感のない(それでいて自分の倍近い年収をもらっている)年長者に囲まれて、未来ある若手は無力感とイライラを募らせるのです。しかし、年長者が主流の組織はジェネレーションギャップにすら気づかない。年長者が自分たちにとって居心地が良い会社に対して愛社精神を高める一方、若手は静かに退社精神を育んでいるのです。
Z世代に合わせるしかない
では、ギスギスを解消するには基準をどこに合わせたらよいでしょう?
私はより若い世代に合わせるべきであると考えます。なぜなら、これからの組織やマーケットをつくっていくのは間違いなく若い世代だからです。Ⅹ世代、Y世代、Z世代という言葉があります。
Y世代:1980年代から1990年代前半に生まれた世代
Z世代:1990年代後半から2000年代に生まれた世代
仕事のやり方やコミュニケーションの仕方をどの世代に合わせるべきか? 未来の組織とそこで働く個人の成長を考えるのであれば、Z世代に寄せていくのが健全でしょう。なぜなら、Z世代の価値観や行動特性は、VUCAの時代を生き抜くうえでも合理的であると考えられるからです。
また、Z世代は、デジタルネイティブ世代。デジタルツールを使いこなして情報の受発信を行い、素早く必要な情報を探し、素早くコラボレーションするスキルやマインドに長けています。また、「上がこう言ったから」「今までのやり方がそうだったから」ではなく、世の中の動向やその仕事の目的を考え、「なぜそうなのか?」を疑うマインドを持っているのです。自分が所属する組織や仕事が社会にどう貢献しているのかを考える傾向もあります。
そのようなオープンなマインドとスキルを兼ね備えた世代に、ものの見方、考え方、働き方を合わせていったほうが間違いなく組織は前向きに発展するでしょう。職場のギスギスを未来志向で解消していくためには、若い世代に照準を合わせて組織をアップデートしていく。それしか方法はないと考えます。