「PRESIDENT WOMANダイバーシティ担当者の会」第5回では、ウェビナー特別編として、以前からたくさんのご要望をいただいていた「勉強会&交流会」を開催。木下明子編集長を講師とした勉強会と、企業の人事・ダイバーシティ担当者の皆さまによる交流会の2部構成で、編集部と参加者が一緒になって女性管理職を増やしていくための方策を探りました。
「女性管理職のリアル」データ勉強会&大交流会の模様
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

管理職になると本当に「大変」なのか

今回のウェビナーは「『女性管理職のリアル』データ勉強会&大交流会」と題し、企業の人事・ダイバーシティ担当者の皆さま約40名をお迎えして開催。プレジデント社からも、木下明子編集長をはじめ鈴木勝彦常務取締役や池田嘉之経営企画本部シニアフェロー、事務局スタッフが出席しました。

第1部では、『プレジデントWOMANプレミア2021年秋号』の記事「幸せな女性リーダーの仕事とプライベート大調査」を基に、木下編集長が女性管理職にまつわるデータを紹介。女性社員や現役女性管理職へのアンケート結果から、昇進に対する意識や子育てとの両立事情などを解説しました。

調査結果では、「管理職になりたいですか?」という問いに対して、女性社員の約6割が「なりたくない」と回答。その理由のトップ3は「管理職に向いていない」「責任が重くなる」「プライベート時間がなくなる」でした。

Q1 管理職になりたい?

ところが、現役女性管理職に同じ質問をすると、「なりたかった」が6割以上とまったく逆の結果が。理由としては「実力を認めてもらえる」「指導的立場が向いている」「給料が上がる」などが上位に並びました。

「でも、なりたくなかったと答えた人も3割以上いて、その理由は社員のポジションの人とまったく同じ。男性の場合は『管理職になりたい』が9割を超えることもあるのに、女性はやはり『大変』というイメージからか、避けたがる人が一定数いるようです」と木下編集長。

では、この「管理職は大変」というイメージは正しいのでしょうか。実際は、現役女性管理職のうち8割以上が「なってよかった」と回答しており、理由として「社内で自分の意見が通りやすくなった」「社内外の高位者と会えるようになった」「現場仕事を部下に任せられるようになった」などを挙げたとのこと。加えて、「時間調整がしやすくなった」「マネージングに徹することで仕事が楽になった」という回答も目立ちました。

Q3 管理職になりたいなりたくない

実は昇進するにつれ幸福度が上昇

ここから、木下編集長は「女性が持つ『管理職は大変』というイメージは、実は思い込みの部分も大きいのでは」と指摘。自身も、編集長になってから上記のようなメリットを強く実感していると言います。

「女性は昇進意欲がないとよく言われますが、これは女性自身が考えすぎてしまっているところもあるのでは。女性には謙虚な人が多く、また給与面でメリットがないと昇進意欲が湧かない合理的な人も多いので、人事担当者の方々はデータを示しながら『大丈夫だよ』『メリットがあるよ』と背中を押してあげることが大事だと思います。また、昇進意欲が高い人=能力が高い人とは限らないので、この点をしっかり見極めることも重要でしょう」

さらに、昇進と幸福度の関係を示すデータも紹介されました。「昇進すると大変になる」が本当なら、ポジションが上がるにつれて幸福度が下がっていきそうなものですが、実際のデータでは一般社員から経営者・役員クラスへと職位が上がるにつれ幸福度も上昇していました。

Q9 子育てと管理職満足度

ただ、これは勤務先の会社で働き方改革がきちんと進んでいればの話だそう。そうでない企業では、職位が上がるにつれて大変になる場合もあるため、「昇進してもメリットが苦労に見合わない」と考える女性も多いと考えられます。やはり、女性活躍と働き方改革は一体で進める必要がありそうです。

続いて、多くの女性が気にかけている「子育てとの両立」についても解説がありました。編集部による現役女性管理職への調査では、プライベート、仕事、時間の使い方、人生の幸福度のいずれでも「子どもがいる人のほうが満足度が高い」という結果でした。

しかし、子育てと仕事を両立している女性管理職はまだロールモデルが少ないこともあり、昇進を打診されても「私には両立は無理」とためらってしまう女性が少なくないとか。木下編集長は「そういう人にこそ、このデータを見せてあげてほしい」と呼びかけます。

「女性は消費者の目線をよく知っている、いわば市場の主役です。なのに組織の意思決定層が男性ばかりのままでは、今後の成長は見込めないでしょう。やはり、これからの経営戦略には女性活躍推進が不可欠。企業は、女性社員の中に自社の経営成長に役立つ宝が眠っていると考えて、そうした人材を見つけて引き上げていってほしいと思います」

交流会では各社が抱える悩みを相談

ウェビナーの第2部では、人事・ダイバーシティ担当者である参加者同士が悩みや解決策を話し合う交流会が行われました。最初のお悩みは大手通信企業の人事担当者から。「女性管理職候補生に向けてキャリア開発研修などを行っているが、彼女たちのモチベーションをどう上げていけばいいのか行き詰まりを感じている」というものでした。

これに対しては、「外的なデータを見せて管理職は怖くないとしっかり示す」「女性は合理的なので給与面でのメリットも説明する」といったアドバイスが。デメリットばかりに目が行きがちな女性には、キラキラした部分も見せることがポイントになりそうです。

この点について、エネルギー企業のダイバーシティ&インクルージョン推進担当者から「逆に男性の場合は何が昇進意欲につながっているのか」と疑問が投げかけられました。輸送機器メーカー勤務の男性参加者は「自分の場合は、昇進すれば仕事を全力でできると思っていたからだが、実際は逆で、全力を出した結果昇進につながったように思う」と解答。多くの部下を育ててきた経験から、管理職候補者を見極めるには本人の意欲に加えて専門性やリーダー適性も見ることが大切だと語りました。

次に話題になったのは、女性活躍推進に対する経営層のコミットについて。「部長や役員にまで女性を増やしていくには経営層のコミットも必要だが、どう説得すればよいか」「経営層がコミットすると『逆差別』と言う男性社員や『下駄を履かせたと言われそうで嫌』と言う女性社員が出てくる」などの悩みが挙がりました。

これに対しては、多くの企業を取材してきた経験から木下編集長がアドバイス。女性活躍が進んだ競合他社がどう成長しているかなどをデータで示すと説得力が増すと語り、下駄履かせ問題については「女性に下駄を履かせるのではなく、今まで男性に履かせてきた下駄を取るだけだ」と語りました。

「女性管理職のリアル」データ勉強会&大交流会
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

また、アパレルメーカー勤務の参加者は自社の例を紹介。以前は経営陣は男性ばかりだったそうですが、最近になって初の女性役員が誕生し、女性の社外取締役も迎えたそう。これは経営トップの強い危機感から実現したもので、同時に働き方改革もスタートしたと言います。こうした大きな変化を起こすには、やはりトップの意思が欠かせないようです。

しかし、日本では男性中心の企業がまだ多数派。あるメーカーのCSR担当者が「当社は社員の9割が男性で女性管理職は1名のみ。経営層もダイバーシティの重要性がピンときていないようで、このままでは10年後も1人のまま」と危機感を訴えると、参加者から「当社も同じ」「以前はそうだった」など共感の声が続々と上がりました。

能力の高い女性を引き上げていくには

問題は、女性管理職を増やしたくても、昇進に関わる評価・査定をするのは現場の男性上司であること。前出のCSR担当者は「どうしても査定結果が男性優位になってしまい、優秀な女性が埋もれてしまう。彼女たちを引き上げるにはどんな取り組みをし、どんな査定方法を取り入れたらいいのか」と皆にアドバイスを求めました。

すると、同じく社員のほとんどが男性だという参加者たちが、それぞれ自社で効果があった取り組み例を紹介。トップが数値目標を掲げ女性登用を進めた、女性を一般職から総合職に引き上げる制度をつくった、事業所ごとに女性活躍推進チームを立ち上げて男性上司の意識改革に取り組んだなど、多くの事例が寄せられました。

査定方法については、証券会社の人事担当者も「男性が査定するとバイアスがかかりがち。女性を正しく評価してもらうにはどうすれば……」と吐露。他の人材戦略担当者も「当社では各社員が能力値を自己申告し、それを基に上司が査定する制度をとっている」と言いつつ、それでも男性は自己評価が高く女性は低い傾向があるため、結局は男性ばかりが昇進しがちだと頭を抱えます。

「査定する立場の男性上司には、女性にはこうした傾向があること、自己評価を鵜呑みにせず能力をよく見ること、の2点を伝えておく必要があるのでは」と木下編集長。外部のコンサルタントを入れて、管理職セミナーの実施や人事制度の再設計などに取り組む方法もあると語りました。

「女性管理職のリアル」データ勉強会&大交流会
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

もうひとつ話題になったのは、時短勤務者の評価について。食品メーカーの人事担当者が「フルタイム勤務者との労働時間の差をどう評価に反映するか。皆さんの社ではどうしていますか?」と問いかけると、自らも時短勤務者だという参加者が自社の例を紹介。

その企業では、自分で決めた目標を上司に提出して、そこに向けていかに頑張ったかで査定される仕組みになっているそうです。そのため、時短勤務でもフルタイム勤務者より評価が低くなることはないとのこと。労働時間が少ないぶん給料やボーナスはカットされているそうですが、評価は下がらないことから本人に納得感があり、フルタイム勤務者の不公平感も解消されているようです。

ただ、他の参加者からは「当社も制度は同じだが、時短勤務の人は昇格試験が受けられないという噂がある」「育休取得者や時短勤務者に対して子どものいない女性からの風当たりが強い」といった声も。制度を整えていても、現場の雰囲気や社員の意識といった面ではまだまだ課題があるようです。

交流会の最後には、木下編集長と鈴木勝彦常務取締役が「当社も全力で女性活躍推進を支えていく」と力強く宣言しました。

「女性管理職を自然に増やしていく上では、経営層のコミットや評価制度など多くの課題が残されていることがわかりました。人事・ダイバーシティ担当者の皆さんに解決に取り組んでいただけるよう、私も一緒に頑張っていきます」(木下)
「日本では今、経済活性化に向けて女性リーダーが渇望されています。優秀なリーダーにどんどん出てきてもらうために、社を挙げて女性活躍推進をサポートしていきます」(鈴木)

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