7割超の患者が仕事を含む日常生活に支障をきたしている
片頭痛の認知度は高まっているが、いまだに本人も周囲も「たかが頭痛」と思っている人は少なくない。病気という認識がなかったり、市販の鎮痛剤で対処したりする人が多く、医療機関への受診率は約30%にとどまっているという。また、検査をしても異常を見つけられないため、せっかく受診をしても、医師が「問題ありません」と適切な診断を下さずに帰してしまうこともあるという。
ところが実際には片頭痛を抱えている人の72%もが日常生活に支障をきたしているという。
埼玉国際頭痛センターのセンター長である坂井文彦医師は、片頭痛による職場での経済的損失は想像以上に大きいと指摘する。坂井医師があるIT企業で、片頭痛を抱える社員に対して行った調査では「ガマンして仕事をするが、生産性が極端に低下」「出勤はするが生産性・能率が極めて低い」「ときどき欠勤する」という声が多く、1人あたりの経済的損失は年間25万円、会社全体の損失は64億円となったという。また、国全体での経済的損失は年間推定2兆円に上るという。会社にとっても日本経済においても大きな損失を与える片頭痛は「社会問題として考えていかなければいけない」と坂井医師は訴える。
また、獨協医科大学副学長の平田幸一医師によると片頭痛患者へ日常生活への支障を調査すると身体的なツラさだけでなく、「次に来る発作が不安になる(55%)」「人との約束を遠ざけてしまう(50%)」「周りの人の理解が得られない(48%)」など、精神的な負担を抱える人も多いという。
環境、食べ物、ニオイ……片頭痛の原因は人それぞれ
ではなぜ片頭痛は起きるのか。
天候や光といった自然環境のほか、男性の約4倍もの患者が存在する理由からも女性ホルモンの影響が少なからず関係していると考えられる。そうした環境や体内の変化に対応するのが、脳内セロトニンだ。ところが脳内セロトニンが疲弊して枯渇すると、そのコントロール下から解放された三叉神経が興奮。血管を拡張する痛みの伝達物質CGRPが脳の血管へと放出され、片頭痛を引き起こす。
多くの患者の経験からも、特に以下のような状況で、片頭痛は起こりやすい。
・空腹(低血糖)
・生活リズムの乱れ
・疲労
・食品や飲料、アルコール
・天候
・音、光、ニオイ
睡眠時間は6.6〜8.5時間が最適とされ、長くても短くても片頭痛のトリガーになる。緊張やストレスにさらされた交感神経優位の状態から、リラックスして副交感神経優位になったときに起こる「週末片頭痛」もよく見られる症状だという。また片頭痛患者の約90%がニオイで誘発された経験があり、香水や洗剤、柔軟剤など、一般的に良い香りとされているものでも片頭痛を誘発することがわかっている。
何が片頭痛のトリガーとなるのかは、人それぞれだ。例えば、ある片頭痛患者は、頭痛が発症した日や痛みの程度などを書き込む頭痛ダイアリーをつけたところ、暑さ、台風、強い光を見たときに片頭痛が起こることがわかったという。
片頭痛はコントロール可能なのか
では片頭痛にどのように対処すべきなのか。
まずは生活スタイルの改善が挙げられる。以下のような方法によって、患者の多くが片頭痛の頻度が減ったり、痛みの持続時間が短縮したり、痛み止めが効きやすくなったという報告もある。
・毎日、頭痛予防体操をする
・ヨガや太極拳を続ける
・朝の散歩を日課とする
・休日は二度寝をしない
・空腹をガマンしない
・休みの前日のお酒はほどほどにする
「頭痛予防体操」の方法を以下に解説するので、片頭痛に悩む人は実践してみてはいかがだろうか。
<肩回し体操>
①足を肩幅に開き、両肘を軽く曲げる
②両腕を内側に回す(リュックサックを背負うように)
③両腕を外側に回す
※6回繰り返し。慣れてきたらさらに大きく肩を回そう。
<腕振り体操>
①足を肩幅に開き、両肘を軽く曲げて脇を開く。
②体の軸を意識しながら、前を向いたまま腕を左右に振る
※2分間行う
出典:日本頭痛学会HPより
肩コリから頭痛を併発することもあるため、肩・首回りをほぐすことは、頭痛予防に効果があるという。デスクワークの合間にも実践してみるのがオススメだ。
上記のような行動で、なぜ頭痛がコントロールされるかというと、生体リズムが安定することでセロトニンの分泌が活性化し、症状が改善するからだと考えられている。
宮城県仙台市で頭痛専門外来を中心に展開するクリニックの院長の松森保彦医師によると、ほかにも日頃からストレスをためないようにする工夫や、マッサージ、アロマテラピー、頭痛に良いとされるハーブのフィーバーヒュー(ナツシロギク)やバターバー(西洋フキ)、さらにビタミンB2やコエンザイムQ10、マグネシウムのサプリも有効だという。
また、最近では痛みの伝達物質CGRPをブロックする、注射による予防治療薬も開発された。精神面では患者同士をつなぐセミナーなども各地で行われ、情報交換や精神的サポートも行われている(日本頭痛学会のHPはこちらhttps://www.jhsnet.net/ippan.html)。
このようなセミナーに参加経験がある患者は「これまで、周囲に頭痛の苦しみを吐き出せなくてツラかった。セミナーに参加し、悩んでいるのは自分1人じゃないと共有できてホッとした」と語った。周囲の理解を得ることもまたストレス緩和の一役を担っているのだ。
片頭痛の治療は長期にわたるという。だからこそ正しく知って、正しく対処することがツラさから解き放たれる第一歩となる。