怒りやイライラは悪いことではない
確かに、最近は「カスハラ」や「モンペ(モンスターペアレント)」といった言葉を見聞きすることが増えています。一方で、店や学校に対して言いたいことがあっても、ぐっとこらえる人は多いですね。怒りを感じているのに、それを表現できない。うまく怒れない人たちが増えています。
そもそも、うまく怒れない人には3つのタイプがあります。1つ目は、怒ったりイライラしたりするのを、やってはいけないことだと思っている人、2つ目は、怒っていること、イライラしていることが、相手に伝わると嫌われるのではないかと恐れている人。3つ目は、2つ目の延長になりますが、みんなから好かれたくて、怒ること自体に抵抗がある人です。
ただ、自分の中に起きた怒りやイライラをおさえつけても、ストレスを抱えてしまい、悪くすると、子どもや部下など、自分より弱い立場の人にイライラを向けてしまう可能性もあります。
まず知っておいてほしいのは、怒ったりイライラしてしまうこと自体は悪いことではないということ。おさえつける必要もありません。
問題は伝え方です。ヒステリックになったり、高圧的になったりすると、対人関係のトラブルになっていきますから、表現の仕方は工夫が必要です。
怒りを伝える「魔法の4ステップ」
もともと私たちが怒ったりイライラしたりするのは、自分の価値から生まれる期待値と、相手の言動にズレが生じるから。こちらが思ったことを相手がやってくれないせいで、怒ったりイライラしたりしてしまうのです。
伝える時には、次の「4つのステップ」を踏みましょう。
ステップ2:自分の期待値が社会通念に照らし合わせて逸脱していないか判断する
ステップ3:「今の状況」「自分の期待」「自分の今の感情」をセットで伝える
ステップ4:自分の望みを率直に伝える
ステップ1とステップ2は、自分が相手に対して持っている期待が、過剰でないかを検証する段階です。自分の期待が正当なものだと判断できたら、そこではじめてステップ3、ステップ4の「伝える」段階に進みます。
この4つのステップを踏めば、激しいクレームにならず、人間関係が壊れることもないでしょう。具体例でご説明しましょう。
必ず「恐れ入りますが」から入る
たとえばレストランで、運ばれてきた食器が汚れていた場合です。
ステップ1:相手に対する自分の期待を振り返る
「明らかに汚れているけれど、食事の味が変わるわけじゃないし、別にいいかな。でも食欲は失せるし、できれば変えてもらいたい」。つまり自分の期待は「汚れた食器ではなく、きれいな食器で食事を提供してほしい」ということです。
ステップ2:自分の期待値が社会通念に即しているかどうか判断する
それが過剰な期待かどうかを考えると、今の日本できれいな食器で食事を提供されることを望むのは、正当と言えますよね。それほど過剰なサービスを望んでいるわけではない。だとしたら、自分の期待は社会通念上、正しいだろうと判断できます。ここでようやく次のステップに進み、相手に自分の気持ちを伝えていきます。
ステップ3:「今の状況」「自分の期待」「自分の今の感情」をセットで伝える
「今の状況」=食器が汚れている、「自分の期待」=きれいな食器で食べたい、「自分の今の感情」=食事を楽しみにしていたのに、がっかりしている、この3つをいっしょに伝えます。
このときに注意したいのは第一声です。「おい」「ちょっと」など上から目線で言うと、相手も気分を害して、こちらの話を聞こうという気分にはなりません。必ず「恐れ入りますが」と下手に出ましょう。
「前はこうだった」と蒸し返さない
また「今の状況」を伝えるときに気を付けたいのは、今回の状況以外のことを持ち出さないこと。「そういえば、前に来たときは床が汚れていた」など、勢い余って以前のことまで蒸し返すのはやめましょう。それはその当時に言うべきこと。昔のことを言っても仕方がありませんし、ものごとが悪い方向に進んでいくだけです。今の状況だけを伝えましょう。
「他の店ではこうしてくれた」と他を引き合いに出すのもよくありません。今はサービス戦争で、顧客に過剰サービスを期待させる世の中なのも問題ですが、他の店の話を持ち出すときりがありません。
そして「自分の期待」「自分の今の感情」を伝えるときは、「私はこう思う」「私はこう感じた」と主語を「私」にしましょう。「あなた」を主語にすると、「あなたはどういう神経をしているんですか」「あなたは気づかないんですか」となり、これまた品のないクレームになります。また「ほかのみんなもこう思ってます」というのも、ずるい言い方。「ほかのみんな」とは誰なのかはっきりしませんし、自分の考えに対して自信がないことが相手に伝わってしまいます。自分の意見を伝えることが大切です。
ステップ4:自分の望みを率直に伝える
自分がどうしてほしいか、具体的に相手に伝えるのが最後のステップです。たとえば「新しい皿に盛りつけてほしい」でもいいですし、「一言謝ってほしい」でもいいでしょう。「誠意を見せてほしい」といった言い方は、何を求めているのかがあいまいでわかりにくいので良くありません。相手を困らせるだけの、良くないクレームになります。
ゴールを見失うと単なる「ややこしい客」に
この4つのステップのゴールは、自分の望みを的確に相手に伝えることにあります。「自分が正しくて相手が間違っていることを認めさせる」「何とかギャフンと言わせてやりたい」といったことがゴールになってしまうと、店側からすると、ただのややこしい客です。まさに悪いクレーマー、カスハラになってしまいます。途中でゴールを見失わないように気をつけましょう。
この4つのステップを踏めば、クレーマーやモンペ扱いをされる可能性は低くなり、こちらの要求は通りやすくなるはずですが、最終的に要求が通るかどうかはやはりわかりません。だからこそ大切なのは、こちらの柔軟性です。自分の期待通りにいかなくても、それはそれとして、お互いに歩み寄っていく。柔軟性を身につけていれば、そもそもの怒りやイライラも減っていくはずです。