1980年代から女性総合職を積極採用
【木下】オリックスは現在、社員の4割が女性であり、女性管理職比率は2割強に達していると伺っています。女性総合職の採用も男女雇用機会均等法施行の4年前という非常に早い時期から実施されています。まずは当時の経緯をお聞かせください。
【三瀬】現在、当グループは人材戦略に関して「Keep Mixed」というスローガンを掲げています。これは、多様な人材の価値観や専門性が融合して初めて新しい価値が生まれるという考え方です。しかし、女性の総合職採用を始めたのは、多様性を求めてというより事業上の必要に迫られてのことでした。1964年の創業時には社員わずか13名のベンチャー企業だったのが、80年代に入って急成長し、慢性的な人手不足に陥ってしまったのです。そのため、優秀な人を男女問わず採用してどんどん活躍してもらおうという方針が出されました。
【木下】当時はフルタイム勤務の女性が少なく、支援制度も整っていなかったのではと思います。どんなところから取り組まれたのでしょうか?
【三瀬】1982年に初めて新卒で四年制大学卒業の男女の募集を開始し、同時に一般職から総合職へ転換できる職種転換制度を導入しました。当時から「総合職は男女で役割を分けない」と決めていたため、それを実現できるよう、1988年に出産・育児制度を、1995年にベビーシッター助成制度を導入して女性が働き続けられる環境をつくっていきました。その後も、キャリアセレクト制度や配偶者転勤エリア変更制度を設けるなど、そのときどきで社員から出た要望に応える形で制度を充実させてきました。
産休・育休からの復職率はほぼ100%
【木下】女性が働き続けやすい環境はかなり早くから整備されていたのですね。ただ、その後は時代が変わり、女性がフルタイムで働くことも当たり前になりました。当時の制度をどうブラッシュアップしていかれたのでしょうか。
【三瀬】2007年には「Keep Mixed」のスローガンの下、ダイバーシティ推進専任担当を設置しました。それに伴って出産・育児制度も拡充し、育休は3歳まで、時短勤務は小学校卒業までなど、法定より少し多めに設定し直しました。これは「そのぐらいの期間が必要だ」という社員が増えてきたためです。
【木下】その結果、働き続ける女性が増え、女性管理職比率も自然に上がっていったということですね。ただ、「制度を整えても活用が進まない」と悩む企業も多いようです。御社では、各制度はどのように機能していますか?
【三瀬】制度をつくっても活用されないようでは寂しいので(笑)、社員に積極的に使ってもらうための取り組みも行ってきました。産休・育休をとった社員には「安心して復帰してね」「戦力として期待しているよ」と伝えるためのセミナーや研修を、復職者には両立期以降のキャリアを描いてもらうためのワークショップを実施しています。
また、ライフイベント前から今後のキャリアを考えてもらう若手女性向けのフォーラムや、夫婦で参加する育児セミナーなども開催しています。やはり、社員に制度を知ってもらい、ためらわず使ってもらえるような取り組みが必要ではないでしょうか。現在、当社では産休・育休取得者の復職率はほぼ100%です。
【木下】家庭と仕事を両立する、いわゆるフルキャリアという考え方を推進されているのですね。中には「大変そう」と感じる女性もいるかと思いますが、そのあたりをどう教育されているのか、社員の反応も併せてお聞かせください。
【三瀬】確かに、両立は大変そうだと感じている方もいらっしゃると思います。会社としては、社員に長く活躍し続けてもらいたいと考えており、「仕事を続けたい」と思う人がキャリアをあきらめてしまうことがないように支援しています。セミナーやフォーラムを通して、会社はこんな取り組みをしていますよ、さらに必要な制度があればつくりますよ、障害があれば取り除きますよという姿勢を伝え続けることで、フルキャリアへの意識も定着していくのではないかと思います。
こうした取り組みへの社員の反応は、好意的なものが多いですね。各セミナーには必ず制度を利用した経験者を招いているので、これから利用する方々は、同じ境遇にある先輩たちがどうしてきたのかを知ることができます。オリックスでは女性社員の約4割がワーキングマザーですから、復職者は決してマイノリティーではありません。先輩の話を通して、育児中の人も活躍できる、戦力として期待されていると理解してもらえているのではと思っています。
社員が考えた施策の6割以上が実現
【木下】活躍し続けられるよう、職種転換や転勤対応なども実施されているとのことですが、具体的な内容を教えていただけますか。
【三瀬】キャリアの継続を支援する制度としては、育児や介護などと両立するため一時的に役割を限定した職種や等級へ転換できる「キャリアセレクト制度」をはじめ、配偶者の転勤に伴う勤務エリアの変更や休職、退職者の再雇用といったものがあります。誰もがずっと同じスピードで同じ働き方ができるわけではありませんから、そこは個々人の事情に合わせて柔軟に対応していきたいと思っています。
【木下】社として多様性の維持・推進を本当に重視されているのだなと感じました。先ほどおっしゃった「Keep Mixed」はダイバーシティの真髄だと思います。また、御社のトップである宮内義彦シニア・チェアマンや井上亮社長は、大変グローバルなご経験をお持ちですね。ダイバーシティ推進に際しては、こうしたトップの経験値や理解も非常にプラスに働くと思うのですが、いかがでしょうか?
【三瀬】間違いなくプラスに作用していると思います。先ほどお伝えしたような制度も、トップの理解がなければまず実現できなかったでしょう。2016年には、真のグローバル企業になりたいという思いの下、社長直轄で「職場改革推進プロジェクト」がスタートしました。
主要グループ会社10社、200人以上の社員で委員会を立ち上げ、およそ120もの施策を提言して、そのうち80ほどが実現に至りました。これも「やったほうがいいこと、できることは全部やろう」という社長の強いメッセージがあったからこそです。
【木下】具体的には、提言のうちどんなものが実現したのでしょうか。
【三瀬】6時〜22時の間で出退社時間を自由にできる「スーパーフレックスタイム制度」や、有給を1時間単位に分割して取得できる「時間単位の年次有給休暇制度」、年間6万円を上限として自己研鑽などに利用できる「自分磨き制度」、他の部署の業務を1週間体験できる「社内インターンシップ制度」などが実現しました。
【木下】人事・ダイバーシティ担当者の中には、考えた施策をトップにどう話せばいいかと悩んでいる方も多いようです。アドバイスをいただけますか?
【三瀬】皆が働きやすい環境にしようという話は、突飛でも何でもなくとても自然な話ですよね。ですから、この施策は社にとってマイナスではなくプラスなのだと、普通に説明しさえすればわかってもらえるはずだと思います。併せて、社員からこういう声が上がっていると伝えると、より説得力が増すのではないでしょうか。
活躍の形は管理職だけではない
【木下】すでにすばらしい制度がそろっているように思いますが、コロナ禍で何か変えられたことはあるのでしょうか。
【三瀬】2019年から上長判断で在宅勤務ができるようにしていたので、新しい制度をつくる必要はほとんどありませんでした。ただ、当社には幅広い事業分野があるので、中には在宅が可能でない部門もあります。そうした部門では、マネジメントやメンバーが工夫して柔軟に対応しながら仕事を進めています。
【木下】女性活躍に関して、今後の取り組みや目標値を教えてください。
【三瀬】管理職比率の目標値を30%に置くべきかどうか、議論を進めているところです。しかし当社では、管理職比率は女性活躍を示す要素のワンオブゼムでしかないと考えています。活躍の形は人によってさまざまで、管理職になることだけとは限りません。基本方針は、女性だからという理由でキャリアをあきらめることがないよう活躍を支援することです。
そのためにも、今後もさまざまな施策の実現に取り組んでいくつもりです。例えば今は、産休・育休から復職した方々にしっかり仕事をアサインして活躍してもらえるよう、本人と上司が話し合う機会を増やそうかと考えています。本人が活躍を望んでいるのに、上司が「今は育児で大変だろうから」と重要な仕事から外すようなことがあってはいけませんから。
また、男性育休も重要課題のひとつです。当社の男性育休取得率はまだまだ恥ずかしいぐらいのレベルなので、何が障壁になっているのかを探って、それを取り除いていこうとしているところです。
【木下】女性活躍以外にも、さまざまなダイバーシティ施策に力を入れていらっしゃるそうですね。
【三瀬】当社では、多様な人材に多様なキャリアに気づいてもらい、働きがいをもって働き続けてほしいと願っています。具体的には、海外大学生の新卒採用や65歳までの定年延長、特定子会社設立による障害者雇用の拡大などを実施してきました。また、当社は社員の4割がキャリア採用で、キャリアや働き方に対する思いも人によって異なります。それぞれの思いと会社の思いを融合させることで、皆が働きやすい環境、働きがいのある環境につながっていくのではないかと思っています。
【木下】最後に、女性活躍を含むダイバーシティ施策に悩める人事関係者の方にメッセージをお願いいたします。
【三瀬】当社も必ずしも進んでいる面ばかりではなく、皆様と同じような課題も抱えています。引き続き課題解決に取り組むとともに、活躍イコール管理職と考えるのではなく、社員一人ひとりの「こうしたい」という思いが実現できるよう支援していきたいですね。会社として、また人事部の一員として、そのための手立てを考え続けていくつもりです。