リモートワークや在宅時間の増加で私たちはますます目を酷使している。疲れ目を癒やすために使う点眼薬が、意外に角膜の傷を悪化させることがあるという――。
疲れ
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PC、スマホ、サブスク動画…。新型コロナでドライアイが加速

人と直接会うことが制限され、デバイスを介した生活が定着して1年以上が経つ。テレワークやオンライン飲み会、スマホ時間の増加や動画サブスクサービスの浸透などによって、私たちはこれまでにないほど目を酷使している。

「コロナ禍によって目の角膜の危機が新たな局面を迎えている。角膜の傷に、より一層の注意が必要」と警鐘を鳴らすのは、東邦大学医療センター大森病院眼科教授・診療部長の堀裕一先生だ。

角膜とは目の表面にある厚さ0.5mmの膜で、眼球に光を取り入れるレンズの機能を持つ。5層構造で、一番外側にある角膜上皮は生きた部分がむき出しの状態になっているが、まばたきをすることで表面に涙の膜をつくり、外部刺激と乾燥から守っている。

【図表】角膜と涙

この涙の膜は、油層、水層、ムチン層の3層構造だが、この涙の層がくずれてドライアイが進むと、角膜がむき出しになり、異物やまばたきそのものでも角膜上皮に傷がついてしまうという。晴れた日に、乾いた車のフロントガラスのワイパーを動かすことをイメージするとわかりやすい。

角膜上皮は傷がついても10日~2週間で細胞が入れ替わるが、現代の生活環境は角膜を傷つけるリスク要因が多いため修復が追いつかない状態だという。コロナ禍のライフスタイルの変化によってその傾向はますます顕著になっている。

マスクで目が乾く「マスクドライアイ」とは

1年以上続いているコロナ禍の状況は、角膜の傷リスクを高める3つの条件が揃っていると堀医師は指摘する。

1.目の酷使

前述のとおり、テレワークの導入などによりデバイスの操作時間は格段に増えている。通常時のまばたきの回数は1分あたり15~20回なのに対し、スマホやPC、タブレットなどのディスプレイ作業をすると、まばたきの回数は1分あたり約5回と、通常時の1/4に減る。

また、長時間画面を見続けて目の周りの筋肉が緊張し続けることで、自律神経が交感神経優位になり、涙が出にくくなるという。

2.マスクドライアイ

マスクドライアイとは、マスクから漏れる呼気によって涙が蒸発し、目が乾燥すること。マスクをしているとメガネが曇ることがあるように、隙間から漏れた呼気は上向きになる可能性が高く、これにより眼球に空気があたって涙の蒸発を促すことが考えられるという。

日本人はコロナ以前からマスク生活に慣れているため、マスクドライアイの報告は今のところ多くないそうだが、マスク習慣のなかった欧米ではマスク関連ドライアイの論文が多数投稿されており、3605人を対象とした調査研究(※)では参加者の18.3%がマスク関連ドライアイを経験し、症状のある26.9%がマスク着用時に症状が悪化すると答えているという。

※Self-reported symptoms of mask-associated dry eye:A survey study of 3,605 people=マスク関連のドライアイの自己申告症状。3,605人を対象とした調査研究。ContLensAnteriorEye.2021 Jan 20:S1367-0484(21)00007-2. doi:10.1016/j.clae.2021.01.003. Online ahead of print. PMID:33485805)

3.精神疲労による涙の量と質の低下

コロナ禍による不安やストレスの持続で自律神経のバランスが乱れると、涙が出にくくなるばかりか、涙の蒸発を防ぐ働きのある油層を分泌するマイボーム腺の働きが悪くなり、涙の質が低下する。

角膜の傷を悪化させないためには早めのケアが肝心だという。まずは自身の角膜の傷リスクを確認してみよう。

目の酷使具合と不快症状の有無からリスクをチェック

角膜の傷チェックリスト
監修:東邦大学医療センター大森病院 眼科 教授 堀裕一先生

【行動編】【症状編】のチェック項目で「角膜の傷」リスクの可能性を判定

【行動編】
□平均睡眠時間は5時間以下である
□コンタクトレンズを使用している
□1日5時間以上パソコン作業をしている
□パソコンを使うテレワークを週に3日以上している
□ほぼ毎日スマホを連続1時間以上見ている
□スマホやタブレット、PCでゲームを1日3時間以上している
□スマホやタブレットで動画を1日3時間以上見ている
□テレビやビデオを1日5時間以上見ている
□細かい作業を伴う趣味(絵を描く、パズル、書道、プラモデル制作など)の時間がコロナ前よりも増えた
□手芸・裁縫などの時間がコロナ前よりも増えた
□家にこもりきりの日が週2日以上ある
コロナ前に比べて:
□ストレスを感じることが増えた
□運動不足になった
□よく眠れなくなった

 

【症状編】
□寝ても疲れ目が解消しない
□光をまぶしく感じやすくなった
□常に目が乾いてショボショボする
□目が重たい感じがする
□目が痛くなることがある
□目を10秒以上開けていられない
□朝、目が開きにくい
□一日中目がゴロゴロする
□目が乾いてコンタクトを入れにくい
□午後から夕方にかけて特に目の疲れがひどくなる
□午後から夕方にかけて特に目のかすみがひどくなる
□午後から夕方にかけて特に目の乾きがひどくなる

行動編+症状編のチェック数の合計が
0~3個→今のところ大丈夫
4~7個または8個以上だが【行動編】【症状編】どちらかが1〜2個→要注意
8個以上かつ【行動編】【症状編】それぞれに3個以上→危険!

角膜の傷リスクから守るコツを堀先生に聞いた。

1.ディスプレイ作業中の工夫
●目線を下げる(上を向くと涙が蒸発しやすいため)
●エアコンの風が直接顔や目に当たらないようにする
●加湿器などを使う
●1時間作業したら5分休憩する

 

2.心身をリラックスさせて涙の量・質をアップ
入浴や軽いストレッチなどを取り入れて、副交感神経を優位にする。

 

3.点眼薬を正しく使う
→詳しくは次の項

点眼薬の防腐剤で傷がつく可能性も。4人に1人が「さし過ぎ」

目に不快感を感じたときのセルフケア法として点眼薬を使う人は多いだろう。「正しく使えば有効なセルフケア法だが、誤った使い方によってかえって症状を悪化させている人もいる」と指摘するのは、杏林大学医学部眼科学教授の山田昌和先生だ。

目薬
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コロナ禍の点眼薬使用実態調査(※)によると、点眼薬ユーザーの47.5%がコロナ禍で点眼薬の使用回数が増加していると答え、全体の26.0%が適正回数を超える7回以上点眼していることが判明した。「回数の上限にこだわらず、症状を感じるたびにさしている」と答えた人は全体の48.8%で、約半数が点眼薬の使用回数を意識していないことが浮き彫りになった。

※現代人の角膜ケア研究室「コロナ禍の点眼薬使用実態調査」(n=638)

【図表】1日に点眼薬をさしている回数

山田先生によると、点眼薬を適正回数以上さすと涙の油膜層が破壊されてしまい、角膜に傷がついてしまうことがあるという。また、多くの点眼薬には雑菌の繁殖を防ぐための防腐剤(塩化ベンザルコニウム等)が入っているが、すでに角膜が傷ついている人がこれらを使用すると、適正使用回数内でも傷を悪化させてしまう恐れがあるという。

「点眼薬の使い過ぎや防腐剤の影響により、かえって角膜の傷を悪化させてしまっている可能性も。目の不快症状→点眼薬の回数が増える→傷がますます悪化する、という負のスパイラルを断ち切るには、正しい点眼薬の選び方、使い方が大切」と話す。

正しい点眼薬の使い方とは

適正回数は1日5~6回。例えば、下記のタイミングで使用したうえで、リフレッシュでさすのは1日1~2回にとどめるといい。症状が軽いうちに使うことで、さし過ぎを防げる。

1.起床時(おすすめ)
……最も眼球が乾いているのが起床時。目をこする前に、起き抜けに点眼するのが効果的

 

2.昼休み
3.3時の休憩時
4.夕食の前
「点眼は1滴で十分効果があります。眼球を潤している涙の量は10µl(マイクロリットル)で、点眼薬の1滴はこの5倍の量に相当します。目が乾くからと2滴・3滴と使うと自前の涙液を洗い流してしまうことに。防腐剤の有無に関わらず、さし過ぎには注意を」(山田先生)

適切な点眼薬の選び方を知ろう

角膜への影響が少ない防腐剤無添加のもので、角膜修復効果のあるものを選ぶ。清涼感があるタイプの点眼薬をリフレッシュ目的で使うのは、1日1~2回まで。白目の充血を取るタイプの点眼薬は気になるときのみの使用にとどめ、常用しないほうがいいという。

角膜に傷がつくリスクが高いニューノーマル時代。正しいセルフケアと、アイケア習慣を取り入れて、できるかぎり目をいたわりたいもの。症状が改善しない場合は、早めに眼科を受診することも大切だ。