46歳ライター。非メタボだがLDLコレステロールだけが高い
健康診断でLDLコレステロール(悪玉コレステロール)の数値を指摘されてドキリとした経験がある人は多いのではないだろうか。筆者もLDLコレステロール値が140~150mg/dLを行き来しており、毎年「高め」と指摘されている(※)。
酒もタバコもやらず、メタボでもないため、「食事に気をつけて適度な運動も……」と指導されても、イマイチピンと来ず放置してしまっている状態だ。
※日本動脈硬化学会編「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」の基準では、140mg/dL以上は高LDLコレステロール血症とされている。
「コレステロール」とは脂質の一種で、細胞膜や男性・女性ホルモン、副腎皮質ホルモン、胆汁の材料となる体に不可欠な物質。水に溶けにくいため血液中でタンパク質と結合しているが、そのタンパク質の種類によってHDLコレステロール(善玉コレステロール)とLDLコレステロール(悪玉コレステロール)に分けられる。HDLコレステロールは血管にある余分なコレステロールを肝臓に戻す「回収係」、LDLコレステロールは肝臓で作られたコレステロールを全身へ運ぶ「運搬係」だ。
ところが、生活習慣の乱れなどで両者のバランスが崩れてLDLコレステロールが増えると、血液中の余分なコレステロールが血管の内側に取り込まれて塊(プラーク)となり、血管壁が厚く硬くなって動脈硬化が進行していく。さらに進行すると、このプラークが破れて血液の塊が形成され、これが血管を詰まらせて心筋梗塞や脳梗塞といった深刻な状態を招いてしまう。
「LDLコレステロールが増えても自覚症状がないため、気づかないうちに動脈硬化が進んでいることもあります。特に女性は更年期になるとエストロゲンの分泌が低下して急激に動脈硬化のリスクが高まるので注意が必要です」と東京・三軒茶屋にある恩田メディカルプラザ院長で医学博士・脳神経外科専門医の恩田泰光医師は指摘する。
LDLコレステロールの値は動脈硬化のリスクを知る一つの指標ではあるものの、実際に動脈硬化がどれほど進んでいて、脳梗塞や心筋梗塞を発症するリスクがどれほどあるかはわからないという。それがわかる新しい血液検査があると聞き、体験してみることにした。
動脈硬化の原因物質を測定して将来の発症リスクを予測
LOX-index®は動脈硬化の原因物質を測定して脳梗塞・心筋梗塞のリスクを4段階で判定する血液検査。血中の酸化変性した超悪玉コレステロール「LAB」と、それと結合して動脈硬化を進行させる「sLOX-1」という2つの物質を測定することで、これまでの血液検査や画像検査でわからなかった動脈硬化の初期段階をとらえることができるという。
採血で調べられるため身体的な負担はほとんどなく、2週間ほどで詳しい検査報告書が渡された。気になる結果は……。
血管炎症の指標となるsLOX-1の値は「理想的な状態」、酸化したLDLコレステロールの値であるLABは「理想的な値まであと一歩の状態」という結果だった。この2つの値から、脳梗塞・心筋梗塞発症リスクは「低」の判定だった。LDLコレステロールの値が高い状態が続いていたので不安だったが、今のところ動脈硬化の心配はなさそうで安心した。
LOX-index®の数値が高い人は、低い人に比べると脳梗塞発症率は約3倍、心筋梗塞発症率は約2倍になることがわかっているという(※)。
※参考:LOX-index, a Novel Predictive Biochemical Marker for Coronary Heart Disease and Stroke, Clinical Chemistry 56:4 550-558(2010)
「これまで把握しにくかった動脈硬化の状態を採血だけで手軽に調べられるので、LOX-index®は体の動脈硬化の状態を把握できるバイオメーカーになりうる可能性がある」と恩田医師は話す。
同検査を人間ドックや健康診断のオプションとして採用している医療機関も増えているといい、筆者が受診した恩田メディカルプラザでは1万2000円(オプション検査の場合の価格)だった。
今回の結果ではリスクは「低」だったものの、LAB(サビついたLDLコレステロールの値)が「理想的な状態まではあと一歩」だったので、バランスのいい食事を心がけようと気持ちを新たにできた。自分の動脈硬化の状態を深掘りする、いいきっかけとなった。
血管ケアは「酸化」と「炎症」の予防が鍵。歯周病ケアも忘れずに
現状ではリスクが低かったとはいえ、大切なのはこれからの生活習慣。しなやかな血管を維持するための「正しい血管ケア」について、内科医・認定産業医で予防医療のスペシャリストの桐村里紗先生に聞いた。血管ケアのポイントは「酸化」と「炎症」の予防だという。
抗酸化
特に過酸化脂質の予防にはビタミンEが重要。ナッツ類、種子類、米油などを摂る
・ファイトケミカル類
彩りのいい野菜や海藻、豆類、キノコ類、雑穀類などを組み合わせてしっかり食べる
質のいい油を摂る
・オメガ6系脂肪酸(サラダ油、大豆油、紅花油、綿実油、ヒマワリ油、コーン油、加工油脂に多く含まれる)の摂り過ぎに注意
・トランス脂肪酸(マーガリン、ショートニング、加工油脂類に含まれやすい)
【摂るべき油】
・オメガ3系脂肪酸
→亜麻仁油、エゴマ油、麻の実などに含まれるαリノレン酸(ただし加熱で劣化・酸化するので非加熱で使用する)
→サバ、イワシ、アジなどの光り物に多く含まれるEPA・DHA(養殖よりも天然を)、しっかり摂取するなら天然由来のサプリメントも利用(クリルオイルが良質な傾向)
腸内環境の改善
腸活の基本はシンバイオティクス(有用な善玉菌を含む発酵食品と、腸内細菌のエサとなるオリゴ糖や食物繊維を合わせて摂ること)。
「食事に気をつけていても、歯周病ケアを忘れたら元も子もありません。P.ジンジバリス菌などの歯周病菌は簡単に体内に侵入し、動脈硬化と血栓の原因になります。歯周病ケアは①ブラッシング、②フロッシング(歯間ケア)、③イリゲーション(水流洗浄)を基本に、定期的な歯科の受診も大切です」(桐村先生)
適度な有酸素運動で血管をしなやかに保つ
正しい食事や禁煙とともに取り入れたいのは運動。体力の維持・向上だけでなく、動脈硬化の予防にも有効だと恩田先生は話す。
「中等度以上の有酸素運動を定期的に行いましょう。目安は心拍数120~140くらい。息切れせずに会話できるくらいの強度で20分以上を定期的に行いましょう」
そのほか、質のいい睡眠を摂ることも重要だという。
「不眠の中でも睡眠時無呼吸症候群の人は動脈硬化が進行しやすいので注意が必要です。寝ているときに気道が塞がれることで、自律神経が乱れ、不整脈や突然死を起こす人もいるので、ぜひ治療を検討ください。また、眠りが浅い、起床時に疲れが取れていないと感じるなら、医師に相談して良質な睡眠を取るようにすることも大切です」(恩田先生)
女性の場合はエストロゲンがLDLコレステロール値を下げたり、動脈硬化を防いでくれたりしている。しかし、更年期以降はこの“お守り”が減り、閉経を迎えるとなくなってしまうことを忘れずに、正しい血管ケアを心がけていきたいものだ。