幼少期から極端に口数が少なかったという放送作家の渡辺龍太さん。アメリカ留学でインプロ(即興力)を学んだことがきっかけで大きく変わり、今ではプロ芸人向けのアドリブ講座で講師を務めるほどに。そんな渡辺さんは「自分のことを地味だという人に限って実はおもしろい話ができる」と話す。おもしろい話をする3つのテクニックとは――。

※本稿は、渡辺龍太『おもしろい話「すぐできる」コツ』(PHP)の一部を再編集したものです。

母と娘の会話
写真=iStock.com/itakayuki
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「おもしろい人」になるためのコツ

1本目2本目の記事では、ウケるためには自分の感情をそのまま伝えることが大切ということをお話しました。今回は、自分の感情を相手に伝えるための、とっておきのコツを紹介します。これらを使いこなせれば、するすると自分の思いを相手に伝えて、「おもしろい人」と思われるようになるはずです。

私のやっている雑談のワークショップでは、よくこんな現象が起きます。

【私】今、友人に会ったとおっしゃいましたが、その時、どんな感情でしたか?

【生徒】感情? 特にないですね。しょっちゅう会っている友人ですし……

このように、その時の自分の感情を忘れてしまったか、あるいはうまく言葉にできないと感じて、言葉に詰まってしまう人がいます。

感情を引き出す質問

しかし、私が質問をこんな風に変えると、反応が変わります。

【私】友人に会った時に湧いた感情を2択で考えるなら、ポジティブですか? それとも、ネガティブですか?

【生徒】どっちでもないような……」

【私】授業ですから、強いて言うならでいいので、強引に選んでください!

【生徒】そうですか。じゃあ、うーん……2択というなら、かなり強引ですけどポジティブですかね。でもなぁ〜、代わり映えのしないメンバーと会っただけなので。だから、『またか!』みたいなところもあって、そこまで嬉しいとか、そういうのでもないんですよね〜。

ここで傍線を引いているところに注目してください。ここに、この生徒の内面の感情がしっかりと出ています。ここを見て、「この人が何を感じていたのかが伝わった」と感じた人も多いはずです。ここで皆さんに覚えておいてほしいポイントが、2つあります。

・人間の頭の中には「感情データ」が保存されている
・人間には「自分の発言に対する補正力」がある

二択で選ぶと記憶呼び出される

この生徒は、最初の私の質問に対して、友人に会った時の感情を覚えていないと言いました。つまり、本人としては、忘れてしまったか、そもそも感情が発生していなかったような感覚でいたわけです。

しかし、ポジティブかネガティブの2択で選んでと言われたら、友人と会った時の感情の記憶が少しだけ呼び出されました。でも、どちらも正確に自分の感情を表す感じがしなかったのです。だから、私に選べないと返答したわけです。

対立概念
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ですが、とにかくどちらかを選んでと私に言われたので、強引に「ポジティブ」を選んで、それを口にしました。その瞬間、自分が当時抱いた感情とのギャップを感じて、強烈な違和感を覚えたのでしょう。その後、自覚のないままスルスルと、その時の正確な感情を語りだしました。そして、私が最初に知りたかったことを、しっかりと伝えきってくれたのです。

自分の感情を正確に語るためのテクニック

このように、人間の脳に対しては「最初に感情を大雑把に口にする」ことで、当時の感情の記憶がするすると出てくるようになっているのです。これを私は「感情キーワード」と呼んでいます。これは、あなたの脳に対する「隠れ操作コマンド」であると言ってもいいテクニックです。

この「感情キーワード」を口にすると、脳に保存されていた感情が、自然と正確に出てきます。だから、「私はそんなに感情を伝えるのが得意じゃないから……」という人でも、自分の感情を正確に語ることができるのです。

さまざまな場面で「説明上手」になれる

この「隠れ操作コマンド」は、別に感情に限らず、何かを説明する時全般に使えます。感情は目に見えない抽象的なものですから、まずは目に見えるものを、隠れ操作コマンドを使って説明しているところを分析してみましょう。

渡辺龍太『おもしろい話「すぐできる」コツ』(PHP)
渡辺龍太『おもしろい話「すぐできる」コツ』(PHP)

例えば、今私が手元に持っている写真に写っているものを、写真が手元にない人に説明する場合、こんな感じになります。

「この写真に写っているのは猫の置物。だけど、陶器とかじゃなくて、スーパードライの缶でできている。誰かの手作りの、リサイクルアート作品って感じかな。そして、結構な本数の缶を使ってると思う。缶の側面の部分を平らにして、それを何枚も貼り合わせてて、ロゴとかもハッキリ見えてる。猫は向かって左の奥に顔を向けて座ってて、たぶん、大きさは500mlの缶の高さぐらいあるんじゃないかな」

イメージできたでしょうか。この説明を聞いた人の頭の中では、次のように、1個ずつ情報が積み上がっていったのではないかと思います。

1.猫の置物
2.陶器じゃない猫の置物
3.スーパードライの缶でできた猫の置物
4.結構な本数のスーパードライの缶でできた猫の置物……etc.

説明する時は「絵描き歌」のような感覚が重要

この時のポイントは、細々とした説明の描写にあるのではありません。とにかく最初に「猫の置物」と、大雑把に口にしていることです。別にここは、「アルミ缶のオブジェ」でもいいし、「リサイクルアート」でも、何でもOKです。最初に、大雑把なカテゴリさえ口にすれば、その後に「言葉」が続くのです。これはまるで、「絵描き歌」を歌いながら描いているようなものです。

また、猫の置物の説明をしている話者自身も、聞き手と同じように、自分が語っている絵描き歌の動画を頭の中で流して見ています。だから、自分が語っている絵描き歌の絵を、より本物に近づけようと、1つ1つ情報を加えていきます。すると、あなたの脳が勝手に、適切な情報をあなたの口から出していってくれるのです。

ちなみに、この猫の置物の画像は、何年か前にネットで話題になった実在するアートです。私のお気に入りの作品なので、紹介させていただきました。気になる方は、「猫 スーパードライ」で検索してみてください。

口から出す感情は、少しでいい

ここまで、説明する時のコツとして絵描き歌についてお話ししてきましたが、さらに細かいコツとして、「3つのテクニック」をご紹介しましょう。

まず1つ目は、「口から出す感情は、少しでいい」。理解している人がほとんどだと思いますが、おもしろい話をするには、自分のリアルな感情を相手に伝えることが重要で、その分量自体は、それほど多くなくてもいいのです。

この章の初めに紹介した生徒の例文を、もう一度、見てみましょう。

【生徒】そうですか。じゃあ、うーん……2択というなら、かなり強引ですけどポジティブですかね。でもなぁ〜、代わり映えのしないメンバーと会っただけなので。だから、『またか!』みたいなところもあって、そこまで嬉しいとか、そういうのでもないんですよね〜。

この傍線部が感情を説明している部分ですが、これだけで十分すぎるほど、どんな感情を抱いているのかが伝わっていると思いませんか? だから先ほど、猫の置物の写真を説明した時のように、事細かに描写する必要はないのです。

そもそも、普段、大半の人は感情を聞き手に伝えることすらしていないので、ちょっと感情を出しただけで、「ズレたカツラ理論」が成立するのです。

ポジティブかネガティブか、2つに仕分ける

2つ目のコツは、「感情は2種類に仕分ける」。

私が生徒に「その感情はポジティブですか? それともネガティブですか?」と質問したことを思い出してください。こう質問された生徒は「かなり強引ですけど、ポジティブですかね」という発言をして、それが「隠れ操作コマンド」として機能しています。

このように、なかなか自分の感情を説明できないと思っている人は、多少強引でもいいので「この経験はポジティブ/ネガティブのどちらかな?」と2種類に仕分けしてみてください。

「大雑把な感情表現」から話は自然と発展していく

ただし、それをいざ口に出そうと思っても、日本語として「この前の体験は、ポジティブ/ネガティブでした」というのは、一般的な表現ではないと思います。ですから、「いい気分になった(ポジティブ)」「イヤな気分になった(ネガティブ)」という、2つの言葉で表現するようにしてみましょう。

そうすれば、その「大雑把な感情表現」が引き金となって、自分の感情がするすると出てくるのではないかと思います。

ちなみに、もしこの時に違う表現がしっくり来たり、自然と口に出るようであれば、もちろんそちらを使ってください。今お伝えしているテクニックは、そっくりそのままやれば「おもしろい話」が成立するというマニュアルというより、「こうやれば初めての人でもうまくいくよ」という最低限の指針です。

ですから、今後紹介するテクニックに対しても、「自分はこの方がしっくりくる」というものが浮かんだ場合には、遠慮なくそちらを優先してください。その方が、自分の個性が活きた、より「おもしろい話」を成立させやすいトークになるはずです。

誤解や失敗を恐れずに

最後、3つ目のコツは、「間違った感情表現を恐れない」。

多くの人は、まわりの人から誤解されたり、失敗することが大嫌いです。だから、いざ自分の感情を他人に説明しようと思った時、言葉のチョイスにとてもナーバスになる人が多いのです。特に、自分の感情の大雑把なカテゴリを口にするというのが、大きな誤解を生むのではないかと、とても不安になる人がいます。

しかし、それはムダな心配です! むしろ自分の行動だけを述べて、相手の解釈に自分の感情を委ねるほうが、よっぽど誤解が生まれやすいと言えます。それにもかかわらず、これまで特段、人間関係において大きな問題など起こっていない人がほとんどではないでしょうか? ですからそういった人が、ナーバスになる理由はどこにもありません。

それに、自分の言葉で自分の感情を説明している時は、いつでも自分のさじ加減で発言を訂正できます。例えば、もし、「『イヤな気分になりました』は表現がキツすぎた!」と感じたら、その後に「まあでも、ホンの少しですよ!」と付け加えればいいだけです。そうすれば、何の問題も発生しません。

というか、その口にした発言に対する違和感を訂正する作業こそが、自分の感情を素直に表現する「隠れ操作コマンド」そのものであると言っていいぐらいです。

地味な人ほどおもしろい話がしやすい理由

最後に、「暗そう」「大人しそう」「感情が読めない」などと、見た目や話し方の雰囲気などから、他人に地味だという先入観を持たれやすい人にお伝えしたいことがあります。それは、あなたは超ラッキーだということです。

なぜなら、地味な人というのは、言い換えると、事前情報が少なくて聞き手にとってキャラクター想定がしにくい人ということだからです。

事前の情報が少ないと、「話し手はこんな人だろう」という聞き手の事前の想定と、実際の話し手の感情のズレが大きくなるのは当たり前ですよね! だから地味な人の場合は、ほんの少し自分のリアルな感情を聞き手に伝えるだけで、「ズレたカツラ理論」が簡単に成立するのです。

これは非常に大きなアドバンテージです。だからほんの少しでいいので、自己開放をして自分の感情を相手に伝えてください。すると、自分が思った以上に、相手にとっておもしろい話ができるはずです。

この時、活きてくるのが「相手の笑いを詮索しない」「想定外の事態には『え、そう?』で対応」の2つのテクニックです。自分の感情を出すことに慣れていない人は、想定外の所で笑われたり、ツッコまれるとパニックになりがちなので注意してください。

地味な人は「すごい人」!

くわえて、これはテクニックというより心構えの問題ですが、「地味な人はすごい人」と思っていた方がいいと思います。

世の中を見回すと、見た目が地味そうに見える人でも、おしゃべりな人はたくさんいます。あるいは、職場では地味なのに、プライベートでは目立って生き生きとしている人がいたりと、そもそも「地味」とは、とても不思議な現象です。

ですが、私の教室には「自分のことを地味だという人」が多くやってくるので、共通点を見出すことができました。まずそういう方は、とにかく、「自分について、他人が興味を持つわけがない」と主張し、自分の感情を口にするのをとても怖がります。

そして個性が伝わりにくい、客観的な事実や行動だけを伝える話し方を好みます。そうやって自分の感情がなるべく伝わらないように話すことを、なぜかみなさん口を揃えたように「無難な会話」と表現しがちです。

ノリだけの人より「地味な人」のほうが実はおもしろい

そして最大の共通点は、自分のことを地味だという人に限って、感情を語り出すようになると、とても個性的でおもしろい人が多いということです。逆に若い頃、お笑い芸人をやってましたというような、「私、おもしろいんです!」と言いたげな人のほうが、ノリのよさで押し切られそうになりがちですが、話をよく聞くと、独自の視点をあまり持っていない人だと感じることも多くあります。

だから地味な人というのは、生まれながらに個性が強く、何もしなくても目立ってしまうので、人生のある時期に「自力で地味になった人たち」なのではないかと、最近、思うようになりました。それくらい、皆さん独特な方ばかりです。

いずれにせよ、私のトーク教室に参加してくれて、地味だと言っていた人が、自分の個性を他人に発信し、それを受け入れてもらえる感覚を自覚した時、とても嬉しそうな顔をします。そしてその時、その人の本当の姿を見たような印象を受けます。

ですから今、この記事を読んでいる「自分は地味だ」と感じている人には、特にここで述べたテクニックを活用し、積極的に「おもしろい話」をすることにチャレンジしてほしいと思っています。