新型コロナウイルス感染症はもちろん、さまざまな感染症に対抗してくれるのが体に備わる免疫機能。しかし、免疫機能の働きは、40代で曲がり角を迎えるという——。
肺炎コロナウイルスX線
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感染症に対抗するT細胞の働きは老化しやすい

新型コロナウイルス感染症は、若い人では無症状や軽症で済むケースも少なくないが、高齢者では重症化や死亡リスクが高まる。それは年齢とともに免疫機能の働きが弱まるためだ。

「加齢に伴う免疫機能の低下は、40代が曲がり角といっていいでしょう。この頃から免疫の主役的存在であるT細胞の機能が弱くなる人が少しずつ増えてきます」と東京医科歯科大学名誉教授の廣川勝昱先生は指摘する。

免疫系には、T細胞、B細胞、好中球、NK細胞、マクロファージ、樹状細胞などさまざまな免疫細胞が働いている。粘膜面でウイルスや細菌などの侵入をブロックする「IgA」を主とする抗体類や、敵を直接捕食する好中球が最前線で働き、敵が前線を突破して体内に入ってきたら、T細胞を主役とする獲得免疫システムが活躍する。

「感染症に関する免疫系の主役はT細胞ですが、残念なことに、免疫系の中で最も老化が進むのがこのT細胞の免疫系なのです。獲得免疫系の働きは思春期にピークを迎え、40代で半分に、70代で20%ほどに低下します。個人差はありますが、T細胞を教育する器官である胸腺が衰えるためだと考えられます(図表1)」(廣川先生)

資料提供=廣川勝昱先生
資料提供=廣川勝昱先生

胸腺とは胸骨の裏側に位置する器官で、骨髄で誕生したT細胞の赤ちゃん(リンパ球)を成熟したT細胞に育てる“教育担当臓器”。胸腺で免疫細胞が盛んにつくられるのは新生児から小児期で、思春期には胸腺の重量が最大の30~40gに達する。しかし、その後加齢とともに退縮し、60歳前後になると脂肪組織に置き換わってしまうという。

「40代から感染症、がん、動脈硬化などが増えるため免疫機能低下は問題です。免疫の曲がり角を迎えたら、T細胞の働きを活性化することが健康を維持するために重要です」(廣川先生)

ウイルスの殺し屋・キラーT細胞の活性化に発酵性食物繊維が効果的

感染症において、細菌が原因の場合と、ウイルスが原因の場合とでは、働く免疫システムが異なる。細菌は自身で増えることができるが、ウイルスは自身で増えることができず細胞に入り込んで増殖するためだ。その両方でT細胞は主役として活躍するが、ウイルス性の感染症では、ウイルスが入り込んだ細胞を標的にする「キラーT細胞」と呼ばれるT細胞が花形として活躍する。

「発酵性食物繊維を多く摂ると、キラーT細胞が活性化されることが最近の研究でわかっています。発酵性食物繊維とは、腸内で発酵しやすい食物繊維のことで、小麦ブランに含まれるアラビノキシラン、大麦に含まれるβグルカンが代表的です」と、免疫機能と腸内細菌に詳しい京都府立医科大学准教授の内藤裕二先生は話す。

また、発酵性食物繊維は他の免疫細胞も活性化させるという。

「発酵性食物繊維は大腸の奥で発酵して、短鎖脂肪酸を産生します。この短鎖脂肪酸は、免疫抗体のIgAやIgG抗体産生を活性化することが海外の研究(※)でわかっています」(内藤先生)

※2)Kim M, et al. Cell Host Microbe 2016, 20: 202-214

発酵性食物繊維を含む食品を多く摂取し、長寿で知られる京都府京丹後市では、100歳以上の高齢者の割合が全国平均の約3倍。昨年行ったアンケート調査では、「インフルエンザに罹患したり、肺炎で入院したことがありますか?」という質問に「はい」と答えたのはわずか1.6%(※)だったという。

※京都府立医科大学『京丹後長寿コホート研究』

免疫の曲がり角を過ぎたら、発酵性食物繊維を毎日の食事に取り入れることが重要になってきそうだ。

免疫老化の予防は細胞内のミトコンドリアが鍵を握る

腸内環境を整えることが免疫力アップにつながることは広く知られてきたが、腸活と並行してミトコンドリアの活性化も行ってほしいと話すのは、国産ワクチン開発の第一人者であり、大阪大学大学院医学系研究科教授の森下竜一先生だ。

細菌細胞との未来的な免疫システム
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森下先生は、「免疫老化を防ぐ鍵が細胞内のミトコンドリアにある」と話す。ヒトはおよそ37兆個の細胞でできているが、そのすべての細胞の中に存在するのがミトコンドリアだ。酸素を取り込んでエネルギーをつくり出し、人に必要なエネルギーの90%以上を供給している。

ミトコンドリア
ミトコンドリア

「ミトコンドリアを活性化させて、免疫細胞のエネルギー循環が良くなれば免疫応答が正常に働きます。逆に、ミトコンドリアの働きが悪く、十分なエネルギーが供給されないと、免疫細胞の分化に影響し、数と質が低下します」(森下先生)

ミトコンドリアが酸素を取り込んでエネルギーを作り出すとき、その代謝産物として活性酸素もつくり出している。とかく悪者扱いされがちな活性酸素だが、免疫系では重要な働きを担っており、免疫細胞が異物を攻撃するときに使われたり、細胞の増殖や自然死を調整したり、免疫の暴走を抑えたりすることにも働くという。つまり、ミトコンドリアは免疫反応全体のバランスをとる司令塔の役割も担っているのだ。

また、獲得免疫系のB細胞とT細胞にもミトコンドリアは大きく関わっている。

「抗体をつくる働きを持つB細胞の活性化にミトコンドリアは必須です。また、ミトコンドリアの代謝産物は、T細胞の分化と増殖にも、重要な調整因子として働きます」(森下先生)

ミトコンドリアを活性化させると、代謝産物の活性酸素も増えてしまうのでは? と思うかもしれないが、ミトコンドリアには還元型コエンザイムQ10や還元型グルタチオンなどといった抗酸化物質に働く成分が存在するため、活性酵素の害を軽減する働きがあるという。残念ながら、細胞内のミトコンドリアは加齢とともに数が少なくなるため、効率よく活性化させる必要がありそうだ。

ミトコンドリアを元気にする還元型コエンザイムQ10

ミトコンドリアを活性化させるポイントは、バランスのいい食事とコエンザイムQ10の摂取だ。コエンザイムQ10は活性酸素の害から守るほか、ミトコンドリアを増やして元気にする働きがある。

「最近の研究でインフルエンザ患者の血中ではコエンザイムQ10のレベルが優位に低いことが報告されています(図表2)。また、十分な睡眠、適度な運動、ストレスや疲労の軽減も大切です。ストレスにさらされるとミトコンドリアはエネルギーを過剰に生産し活性酸素を過剰生産し、自身の遺伝子を損傷してしまいます」(森下先生)

インフルエンザ患者は血中コエンザイムQ10 レベルが低下
出典=Chase M et al, Influenza Other Respir Viruses.13(1):64-70, 2019

積極的に摂取したいのは、コエンザイムQ10を含むイワシ、ハマチの刺し身、豚肉、牛肉、卵、オリーブオイル、ブロッコリー。コエンザイムQ10は油に溶ける性質があるため、炒めものやオイルをかけたカルパッチョがおすすめだ。

しかし、食事からでは十分量を摂取しにくいため、機能性表示食品なども活用するといいという。ミトコンドリアの活性化や抗酸化作用が得られる「還元型コエンザイムQ10」を選ぶのがポイントだという。

新型コロナ収束の打開策として期待されるワクチン接種が少し先になりそうな状況の中、自身の免疫力を高めておくことが重要になりそうだ。