むし歯の予防といえば歯磨きを思い出す人が多いのではないでしょうか。ところが、ある研究では、原始人の食生活なら4週間歯磨きをしなくても歯周病にならなかったのだそうです。歯科医の堀滋さんが指摘する、むし歯リスクを高める現代人の食生活とは——。

※本稿は堀滋『歯のメンテナンス大全』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

水のペットボトル
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「何を食べているか」が問題

ブラッシングも大切ですが、甘い物好きは食べ方を変えないと不十分。

歯磨きをしないで4週間、原始人と同じような生活を送ったところ、歯周病にならなかったという興味深い研究報告があります。実際、あまり歯を磨いてなくてもむし歯にならないという人もいます。食事とむし歯の関係が注目され、最近では、歯を磨かないことよりも何を食べているかのほうが、むし歯に関係しているのではないかという意見も出ているくらいです。

むし歯をう蝕といいますが、これは糖を食べたときにつくる酸によって、歯のエナメル質が溶けて穴があいてしまった状態のことです。糖質の多い食事や甘いおやつを食べる習慣がある人ほど、口の中に糖がある状態が長く、酸がつくられる時間も長くなるため、むし歯になりやすくなります。つまり、食事の糖質を減らし、間食をしなければ、口の中に糖がとどまる時間が少なくなるのでつくられる酸の量が減り、むし歯になりにくくなるといえます。

ごはんやパン、麺、スナック類、加工食品に含まれる発酵性糖質(フルクトースやスクロースなど)は、すべてむし歯菌のエサになります。糖質をダラダラ食べないことが大事です。

「無糖」でも炭酸水はむし歯リスクに

糖質がゼロでも酸性度が強いものは歯を溶かす心配があります。

甘い炭酸水はむし歯になるからと、糖質の入っていないシンプルな炭酸水を飲んでいる方がいるようですが、実は甘くない炭酸水もむし歯のリスクとなります。歯の表面のエナメル質は口の中が㏗5.5を下回り、酸性に傾くと溶け始めることがわかっています。口の中の酸が増えるのはむし歯菌がつくる以外に、酸性の飲食物も影響します。酸性の飲料は、炭酸水・チューハイ・梅酒(㏗2~3)、黒酢ドリンク・ワイン(㏗3程度)、スポーツドリンク(㏗3~4)、ビール・日本酒(㏗4程度)など、ふだんから口にしているものに多くなっています。

炭酸水
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一気に飲みきってしまって、口の中に滞在する時間が短いのであれば、それほど心配することはありませんが、炭酸飲料を水代わりに飲んだり、ダラダラ飲んだりするのは、口の中が酸性に傾き、エナメル質が日に日に薄くなる原因になるのでおすすめできません。砂糖が入った甘い炭酸水は糖質と酸のダブルパンチになるので、むし歯予防のためには飲まないのがベストです。チューハイや梅酒などの甘いお酒も、酸がつくられるので注意が必要です。

食事は「大きく口を開ける」ことがむし歯予防に

健康長寿のためにはよく噛んで食べましょうといわれます。よく噛んで食べると認知症予防になりますし、歯を守るだ液の分泌が促されるので、それ自体はとてもいいことです。ただし、「噛む」ことを意識しすぎると余分な力が入り、かえって負担になることもあります。私たちがものを噛むときには、30~60kgの力が歯やあごにかかっているといわれています。ものを噛むためにはある程度の力がいりますが、必要以上の力がかかると、歯がすり減ったり割れてしまったり、詰め物が取れたりして、歯を失う要因となります。あごにもよくありません。食事をするときには「噛むこと」を意識するのではなく、「大きく口を開ける」ようにしましょう。口を大きく開けてから自然に閉じると、歯やあごの骨の重さが適度な圧となって食べ物を咀嚼できるので、過度な力がかかることを避けられます。

現代人の咀嚼回数は弥生時代の約6分の1といわれますが、それでも1食で600回は噛んでいます。1日3食だと1800回以上噛んでいることに。歯への負担が少ない噛み方をマスターしましょう。

歯を守るなら、口呼吸より鼻呼吸

ふだん呼吸するとき、鼻からしているか口からしているか意識したことはないかもしれません。もし、口を開けている時間が長く、口呼吸をする習慣があるのなら、いますぐ鼻呼吸に切り替えましょう。口呼吸のデメリットはカゼをひきやすい、酸素の摂取量が減る、睡眠時無呼吸症候群を招きやすいなどが挙げられますが、なんといっても大きいのが「むし歯や歯周病、口臭のリスクになること」です。

口呼吸をしていると口の中が乾いてだ液の分泌量が減ってしまいます。だ液には歯や歯ぐきを守り、悪玉菌の増殖を抑える働きがあるので、だ液が減ると口の中の状態がどんどん悪化してしまいます。口呼吸をしている人は鼻呼吸に切り替えるだけで、むし歯や歯周病、口臭予防になります。鼻炎などで鼻がつまって口呼吸が習慣になっている場合は、耳鼻科で鼻づまりの治療をしましょう。習慣やくせで口呼吸になっている場合は、舌の位置を整える必要があります。

マスクが口内環境を悪化させる

2020年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行して、働き方や生活様式がずいぶん変わりました。なかでもマスクの着用は、今後も感染症対策のために継続することでしょう。ただ、マスクには口腔環境を悪化させるデメリットもあるので要注意です。マスクをすると息がしづらくなるので口呼吸になりがちですし、口の中の温度が高くなります。

堀滋『歯のメンテナンス大全』(飛鳥新社)
堀滋『歯のメンテナンス大全』(飛鳥新社)

口呼吸を続けていると口の中が乾燥して免疫力が低下してしまいます。また、温度が高いと病原菌が増殖しやすい環境になってしまいます。二重の意味で病原菌が増殖しやすく、感染症にかかりやすくなるのです。

私もコロナの自粛期間明けに診察していて、患者さんの口の中の状態が以前より悪化していると感じました。むし歯菌や歯周病菌などが多いと口の中の悪玉菌が優勢になって、病原菌に感染するリスクが高くなります。感染症予防のためには歯のケアが必要ですし、マスクをつけている時間が長くなるほどバイオフィルムがたまりやすくむし歯や歯周病のリスクが高まるので、定期的なメンテナンスが特に重要になります。

むし歯予防にはキシリトールガムが効果的

キシリトールとは甘味料の一種で、白樺や樫の木からとれるキシランヘミセルロースからつくられた天然の甘味料です。だ液の分泌と歯のエナメル質の再石灰化を促す作用があり、むし歯菌が酸をつくるエサとならないことから歯を守る甘味料として知られています。その効果には確実なエビデンスがあり、WHO(世界保健機関)もキシリトールのむし歯予防効果を認めています。

キシリトールが口の中に長くあったほうがむし歯予防効果が高まるため、キシリトール入りのガムやタブレットがすすめられます。購入するときは、使用している糖質のキシリトールが占める割合をチェックして購入しましょう。100%に近いほうがむし歯予防効果が高くなります。キシリトールは1日5g以上でむし歯予防になるといわれています。キシリトール100%のガムの場合4個程度でクリアできます。一気に噛むのではなく、毎食後と夜寝る前など回数を多くしましょう。