家庭にも職場にも「出したら出しっぱなし」な人はいるものです。不思議と、自分のモノより人のモノのほうが目障りに感じてしまいます。とはいえ、自分にも相手にとっては価値のない「大切な捨てられないモノ」がありますよね。整理収納アドバイザーの米田まりなさんが「家庭内で揉めない収納術」を教えてくれます――。

※本稿は米田まりな『集中できないのは、部屋のせい。 東大卒「収納コンサルタント」が開発! 科学的片づけメソッド37』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

若いカップルが自宅のキッチンで議論
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「狭くて当たり前」な日本の住宅事情

「自分の部屋は十分に広い」と思っている方は、ごく僅かだと思います。日本の都市部に住んでいる以上、私たちの部屋は狭いのです。これはどうしようもありません。諸外国と比べた際も日本の平均住宅面積は狭く、アメリカの3分の2程度にすぎません(それなのにアメリカ人は10世帯に1世帯、トランクルームを使っているのです!)。

さらに国内の住宅面積の地域差は非常に大きく、東京都民は、茨城県民と比べて3分の1の広さの家に住んでいます。家賃も東京は全国と比べてずば抜けて高く、よほど収入に余裕がないと広い部屋には住めません。一方、東京都民と茨城県民で物欲の差が3倍も違うはずはなく、全国どこに住んでいても所有するモノの量に大きな差はありません。つまり、東京に住むだけで、収納の難易度が茨城県の3倍にも跳ね上がってしまうのです。

「所有するモノはすべて家に収める必要がある」と考えた時点で、あなたの所有欲は住宅事情に縛られます。またモノへの愛を守りたいために、立地や住宅設備を妥協して、快適ではない生活を送るのもじつにもったいないことです。「所有」と「家に収めること」は両立できない場合は、まずは両者を分離して考えることから始めましょう。

部屋に置く理由を言語化してみよう

部屋にあるモノを、1つ手に取ってみてください。そのモノはなぜそこに存在するのでしょうか?

モノを所有する理由は基本的に、

・使うから
・愛しているから

このどちらか(あるいは両方)です。

ほかにも、コンプレックスやしがらみ、執着で捨てられない場合や、処分するのが面倒で、漫然とそこにある場合もあります。

「使う」「愛している」のなかでも、使用シーンだったり愛する理由だったり、その背景で分類すると、人それぞれさらに細分化されていきます。

・家族との思い出のモノ
・好きなアーティストを応援するためのモノ
・なりたい自分になるための自己投資
・希少価値の高いコレクションアイテム

など、一口に「愛するモノ」といってもさまざまな種類が存在します。

「なぜ」を繰り返せ

片づけの真髄は、所有の意味と向き合うことです。モノをいま持っていることに対して「なぜ?」を繰り返し、その理由に応じて最適な配置をしていくことで、部屋は使いやすく機能的になります。モノの所有は、禅問答に近いです。「なぜ必要か?」を繰り返し、モノと自分の関係性を言語化しましょう。

なぜ?の文字
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たとえば「この着物は、着る予定はないけれど、愛するおばあちゃんが遺したものだから、捨てたくない」というケース。この感情を、「愛」と分類するか「しがらみ」とすべきか、本人でも判断が難しいですよね。明確な分類は難しくても、このように理由を深掘りできると、次のステップ(「洋服やバッグにリメイクする」「大切に着てくれる人に譲る」など)を提案しやすくなります。

「私はこのモノを、こういう理由で所有しているので、このように部屋に置くのが適切だ」というように、自分が納得できるストーリーをつくりましょう。一度定義を決めてしまえば、衣替えや引っ越し、ライフスタイルの変化など、モノと向き合うタイミングで行なう判断がグッと早くなりますよ。

クライアントさんの部屋の片づけでは、ビニールシートの上で4象限のマトリックス表を作ってモノを分類することが多いです。コレクション品であれば、縦軸に愛着、横軸に手に取る頻度とします。自分のなかで愛着順に持ち物をランキング付けすると、大好きなコレクション品に、より新鮮な気持ちで向き合えるようになりますよ。

モノのトラブルが原因で結婚を後悔する夫婦が5割

「パートナーがすぐに部屋を散らかす」「家族が非協力的だから部屋が片づかない」と不満に感じている方もいます。株式会社サマリーが行なった調査によると、モノについて揉めた経験のある夫婦は約7割、モノのトラブルが原因で結婚を後悔している夫婦は約5割にものぼるそうです。

あなたがもしご家族とのあいだでモノに関する悩みを抱えていても、それはよくあることなのです。そういう方は、相手を変えるより、「家庭のルール」を変えて解決しましょう。片づけが苦手な人に「片づけろ」と言っても、その場しのぎの行動をとるのが関の山で、ほとんど意味がありません。大切なのは、共有スペースと個人スペースを明確に線引きし、個人スペース内はお互いに口出しをしないことです。それぞれに個室がある場合は、明確にスペースを分けやすいでしょう。洗面所など共有で使う場所においても、棚の段ごとに収納スペースを分けて、各自のスペース内でやりくりするようにします。

「出しっ放し」は夫婦で改善する

不思議なもので、パートナーのモノは、自分のモノより目障りに映るものです。「出しっ放しで、片づけてくれない」などと文句を言う前に、「モノを出した後、元に戻しやすい環境になっているか?」を振り返りましょう。リビングにパートナーの服が脱ぎ捨てられていたら、「リビングに脱衣カゴを設置しようか?」と提案してみてはいかがでしょうか。調味料を出しっ放しの場合、そもそも調味料ケースにモノが詰まっていて戻しにくいだけかもしれません。一度パートナーと「全部出し」にチャレンジしてみてください。

米田まりな『集中できないのは、部屋のせい。 東大卒「収納コンサルタント」が開発! 科学的片づけメソッド37』(PHP研究所)
米田まりな『集中できないのは、部屋のせい。 東大卒「収納コンサルタント」が開発! 科学的片づけメソッド37』(PHP研究所)

あなたが、パートナーよりも片づけが得意ならば、相手に合わせて収納の難易度を下げましょう。大人も子供も、片づけが得意な人も苦手な人も、忙しい人も忙しくない人も簡単に片づけられる、ユニバーサル(汎用的)な設計にすれば、家族も自分もラクになります。

そもそもパートナーのモノが多すぎて、イライラを募らせている方もいるかと思います。自宅の収納スペースは限られています。そんなときは、スペースを均等配分した後、モノが少ないほうが多いほうに場所を譲りましょう。2人のモノが多い場合は、使用頻度の低いモノを外部収納サービスに預けます。出産など、「引っ越しはできないが、家族のモノが増える」タイミングにおいても、この方法は有効です。

夫婦で話し合うと大喧嘩に発展してしまうことも。どうしても解決できなければ、私たち整理収納アドバイザーに相談してください。第三者からの客観的な指摘であれば、気持ちよくルールを受け入れられるかもしれません。