※本稿は堀田秀吾『図解ストレス解消大全』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
心配は度が過ぎると強迫性障害に
不安は生存競争を勝ち抜くための武器とは言えど、心配性の傾向がある人は、何かと生きづらさを感じがちなもの。
「ああなったらどうしよう? こうなったら?」という不安に駆られてどんどん行動が制限されてしまいます。そして、度が過ぎると「強迫性障害」になってしまったりするので注意が必要です。
どうすれば心配しすぎず、生きづらさを緩和できるのでしょうか?
千葉大学の石川亮太郎らが、加害恐怖(他人に危害を加えてしまうのではないかと自分を追い込んでしまう症状)のある患者に対して行った、強迫性障害の認知行動療法の例があります。
不安な要素を段階的に解消していく
とある男性は友人の家から帰宅する際、「肩がけのカバンなどがガスコンロに触れてしまい、点火させ、自分のせいで火事になってしまう」という強迫観念があり、しつこいほど火の元の確認をしていたそうです。
そこで、石川らはこの男性と一緒に、本当に肩がけのカバンだけで点火できるのかを検証するため、実際に肩がけカバンでガスコンロに触れる実験を行いました。そして、ガスコンロのスイッチは固く、カバンをぶつけたり、押しつけても点火しないことを一緒に実証しました。
この結果から、男性は徐々に、友人宅に行っても火の元を確認せずに帰宅することができるようになりました。
不安な要素を、実際の体験などを通して段階的に解消していくことで、最終的にはあまり気にならなくなる──。
この事例は、“やっても意外と平気だった”という経験を積んでいくことが有効であることを示しています。
心配事の9割は起こらない
実際、ペンシルバニア大学のボルコヴェックらの研究によると、心配事の79パーセントは実際には起こらず、しかも、残りの21パーセントのうち、16パーセントの出来事は、事前に準備をしていれば対処が可能。つまり、心配事が現実化するのは、たった5パーセント程度という結果を導き出しました。
ですから、心配しすぎる傾向がある人は、こういった研究の存在を意識しつつ、心配事はなるべく心配しすぎないように。
また、行動するのが不安というときは、「案ずるより産むが易し」「やらない後悔よりやる後悔」のような、自分自身を鼓舞するマジックフレーズをもっておいて、ことあるごとに口にして行動に移してみてはいかがでしょうか。
多少の不安や緊張があってこそ力を発揮できる
不安は考え方1つで戦略的武器になります。
「感情を抑制することが、よりよい決断につながるというのは間違いだ」とは、リスボン大学の著名な神経学者・ダマシオの言葉です。
不安な状態にあるからこそ、状況をより客観的に見ることにつながる。本番に不安を覚えるから、あれこれ努力したり、対処方法を講じようと思う……“不安は知性の証拠”なのです。
また、「多少の不安や緊張がなければ、人は高いパフォーマンスを発揮できない」と、ハーバード・ビジネス・スクールのブルックスの研究で述べられています。
不安は、生物としての行動原理です。不安を感じるからこそ、何かをしなければいけないと自分自身を鼓舞させることにつながります。
「不安」を「○○」と言いかえるだけで実力3割増し
興味深いことに、脳はリラックス状態以上に興奮状態にあるほうが、ポジティブな状態だということが判明しています。
ブルックスは、不安な状態からリラックスした状態に落ち着かせるよりも、不安な状態から興奮状態に移行したほうが望ましいと唱えています。テコの原理でたとえるなら、不安という支点があった場合、力点はリラックスモードではなく興奮状態にしたほうが、より強い力を発揮できるというわけです。
実験では100人以上の被験者に対して、見知らぬ人の前で歌わせたり、ビデオカメラの前でスピーチをさせたり、計算問題を解かせたりということを行いました。その際、次の3つのグループでパフォーマンスにどのような差が出るかを調べました。
グループ2 実験前に「不安だ!」と声に出したグループ
グループ3 実験前に何も言わなかったグループ
すると、いずれの実験課題でも、実験前に「興奮している!」と述べた被験者はいいパフォーマンスを見せたのです。
たとえば、ピッチやリズムなどで歌の正確度を見る実験では、「私は不安だ!」と声に出して述べた人は52.98パーセント、「私は興奮している!」と言った人は80.52パーセント、何も言わなかった人は69.52パーセントという違いが出ました。
不安とはエンジンがかかっている状態である
この研究のポイントは、「不安」を「興奮」と捉え直すことです。
興奮はパフォーマンスを向上させるもので、いわば、エンジンがかかっている状態。一方、落ち着くということは、エンジンが休んでいる状態です。ですから、ドキドキしているのはいい状態なのです。
大きな舞台に臨むときは無理にリラックスさせるよりも、「わくわくしていこう」とか、「興奮しよう」と自らを奮い立たせたほうが効果的なのはこういうわけなのです。
科学者が見つけた運がいいい人になる習慣
自分はツイてない人間だ──。
こんなネガティブな思い込みは、物事を複雑化させ、ムダな悩みを抱えてしまう原因になってしまうのです。
ケルン大学のダミッシュらの研究チームが行った実験は、“思い込み力”がいかに大切かを物語る例と言えます。
彼らは、参加者全員にパターゴルフをしてもらい、半数の人だけに
「あなたの打つボールはラッキーボールです」と伝えました。
すると、ラッキーボールと告げられた人たちのカップイン率は10球中平均6.75回、対して告げられなかった人たちのカップイン率は10球中平均4.75回と、結果に大きな差が出たのです。
なんとラッキーボールと告げられた人たちのほうが、カップイン率が35パーセントもアップしたのです。
人は思い込みの力で自分を変えられる
ハートフォードシャー大学のワイズマンは、“いわしの頭も信心から”(信仰心が深いと、いわしの頭のようなつまらないものでも、尊く思えてしまうこと=プラセボ効果)は効果的であると説いています。
ワイズマンの調査によると、自分が幸運だと信じている人は、新聞にさりげなく仕込まれた賞金がもらえる情報を見つけて賞金をもち帰る確率が高かったというデータがあるほどです。
同時に、「自分は運が悪い」と思っている人は、消極的かつ非社交的な傾向が強かったそうです。
プラセボ効果は一種の暗示効果でもあります。人は、なんの効果もない薬でも、効果があると言われたら実際に効き目が出てしまうように、思い込みの力でときに自分の体調を変えることができたり、自然治癒力をアップさせてしまうこともあるというのです。
ワイズマンは、運がいいと思い込むだけで周囲の視線も好意的なものへと変化し、生活に変化が表れると唱えています。
「運とは心がけと行動次第によって向上可能なもの」。
自分は運がいいと思い込むだけで、不安やストレスに悩まされる機会は減っていくのです。