睡眠不足と感じる人が増加。でも、その実態は……?
「毎日、忙しくて睡眠時間が短い」など、働く女性の中には睡眠不足を感じている人も多い。平成29年の厚生労働省の調査では、「ここ1カ月間、睡眠で休養が十分にとれていない」と回答した人は、平成21年に比べ、ほとんどの世代で増加。特に40代に睡眠不足を感じている人が多い。
うまく眠れない日々が続くと、「もしかして不眠症では……?」と疑う人もいるが、そもそも「不眠」とは、どのような状態を指すのだろうか。東京家政大学 睡眠行動科学研究室 岡島 義 准教授にお話を伺った。
「『不眠』とは、ストレスなどで十分に眠れない状態を指し、『不眠症』とは、不眠が原因で、日中に倦怠感、意欲・集中力の低下、頭痛、めまいなどの支障が出ることをいいます。つまり、日中、元気に活動ができて、仕事などに支障がなければ不眠症ではなく、睡眠時間の長さにこだわる必要はないのです」
日中の活動に支障が出ないために必要な睡眠時間は、人それぞれ。9時間必要な人もいれば、5時間程度で十分な人もいる。また、睡眠時間がしっかりとれ、日中の活動に支障がないにもかかわらず、睡眠の途中で目が覚めるなどして『全然、眠れていない』と不満感を抱く人も多い。
あなたの不眠の原因は? チェックしてみよう!
では、日中の活動に支障が出る不眠の原因には、どのようなものがあるのだろうか。
次のチェックリストで、各項目1~4のどれに当てはまるかチェックしよう。
□日頃、運動をほとんどしない
□朝食はとらない
□寝る前にお酒を飲んだり、タバコを吸ったりしている
□就寝3~4時間以内に、カフェインを摂っている
□日中は、よく昼寝をする
□寝る前に熱いお風呂につかっている
□寝室の温度や湿度が快適でない
□寝室の電気は「昼白色」「昼光色」(いずれも白っぽい光)だ
□夜更かしなどで不規則な生活を送っている
□眠くなくても決まった時間に布団に入る
監修/東京家政大学 睡眠行動学研究室 准教授 岡島 義先生、厚生労働省『健康づくりのための睡眠指針2014』をもとに編集部作成
岡島先生は「4に○のついた行動が不眠症の原因の可能性があります。しかし、本当に睡眠に影響しているかどうかは、日中の支障と照らし合わせてみないとわかりません。このように行動と睡眠の因果関係を明らかにし、不眠を改善していくのが『認知行動療法』です」と話す。
「認知行動療法」で、不眠ループから抜け出す!
「認知行動療法」は不眠症やうつ病など、さまざまな身体的・精神的疾患に使われる心理療法。困っている症状を、その人のせいにするのではなく、その人の「クセ=振る舞い、考え方、身体反応など」に注目し、そのクセを修正することを目的とする。不眠を改善する場合、治療薬より効果に維持力があるといわれている。
認知行動療法で不眠を改善するには、まず「毎日の睡眠」と「日中の支障」を記録する「睡眠日誌」をつけることが重要だ。睡眠日誌はノートにつけても、スマートフォンのアプリを利用してもOK。「何時に布団に入り、だいだい何分くらいで寝ついて、何時に起きたか。そして、不眠の原因と思われる行動の有無と、日中、どんな支障があったか」を記録する。すると、自分が何時間眠れば日中の活動に支障をきたさないかがわかるうえ、不眠の原因と思われる行動と睡眠の関係が見えてくる。例えば、テレビを見ながら寝てしまう習慣が不眠の原因だと思っていたが、テレビを見ても見なくても、日中の活動に支障が出るようなら、ほかにも不眠の原因が隠れているといえる。
また、不眠の原因となる行動を変えようと思っても、なかなか思いどおりにはいかないもの。例えば、「明日から運動をしよう」と決めても、続けることは難しく、多くの人は「意志が弱いから続かない」と思いがちだ。しかし、認知行動療法では、どうしたら続けることができるか、その方法を具体的に考えることからスタートする。
「自分の生活や活動パターンを具体的にイメージしながら、いつ、どのように運動を取り入れるかを考えます。できなかったことを自分自身の性格のせいにしてしまうと、事態は何も進展しません。できなくても気にせず、できることから始める。そして、一つの行動を修正し、睡眠に変化がなければほかを試せばいい。特に不眠の改善は、数日で結果が出るものではありません。気長に取り組むことが、不眠ループから抜け出すコツです」
寝室を見直して、心地いい睡眠を
ベッドなどの寝具を見直したり、部屋の模様替えをしたりするなど、眠る環境を見直すことも不眠解消につながる。最近では、角度をつけて入眠をサポートし、眠ったら自動でフラットになるベッドや、睡眠中の心拍や呼吸をモニタリングし、眠りを分析する機能のついたベッドもある。また、肌触りのいいベッドファブリックや着心地のいいパジャマを取り入れたり、リラックスできるよう寝室の模様替えをしたりするのもおすすめ。
睡眠日誌をつけつつ、睡眠環境を見直して不眠を解消し、仕事のパフォーマンスを最大限に発揮しよう。
東京家政大学 睡眠行動科学研究室 准教授/公認心理師・専門行動療法士・産業カウンセラー
著書に『認知行動療法で改善する不眠症』(共著・すばる舎)、『不眠の科学』(編共著・倉書店)など。