仕事ばかりの生活を見直したいと転職した先は、リーマンショックのあおりを受けてリストラ中だった。転職初日から大イベントの責任者という重責に、とにかくがむしゃらになって仕事をしてきた。最初は「転職に失敗?」と悔やんだこともあるが、今は仕事の充実感を味わい、次なる目標も定まる。

最初の1年間だけ大手商社に勤めた後は、ずっとベンチャーらしく猛烈に働いてきた。間に2社をはさみ、現在のギークスに転職したのは2009年。人材とゲームが2本柱の会社だった。

ギークス 執行役員 小幡千尋●1977年生まれ。2002年、「インターンシップを日本に広めたい」との思いでベンチャーに転職。6000人を超える学生を支援。08年、トレンダーズを経て、09年ベインキャリージャパン(現ギークス)入社。14年より執行役員。

「30歳になり、仕事ばかりでない生活をと思っていたとき、昔の同僚から声がかかりました」

日本からアメリカへの留学生や、海外から日本への留学生を企業に紹介する事業で、新企画を任せたいという話だった。上場企業だから、今までよりも落ち着いて仕事ができると思った。

ところがもらった肩書は営業マネジャーで、売り上げに責任を持つ立場。しかもリーマンショックのあおりを受け、給料の高い経験豊富な社員をリストラ中だった。

「入社した日に同じチームのメンバーが3人退職することに。入社時は200人程いた社員が1カ月後に約20人になりました」

転職初日に上司から、アメリカの会社と合同で開催する大イベントの責任者を無茶振りされた。

「突然ミーティングに呼ばれ、『サンフランシスコに会場を押さえ、大規模なジョブフェアを開催します。小幡が責任者です。以上』という感じで(笑)」

しかも夜10時に会議が終わった後、「明日朝9時には、小幡がイベントサイトのフレームワークを作り上げます」という宿題付き。慌てて競合サイトなどを見て、およそ20ページ分のサイトの枠組みをなんとか仕上げた。

おさらばしたはずの、がむしゃらな日々が戻ってきた。ベテランが抜けた若い社員ばかりの組織を何とかしたいと頑張って少し慣れたころに、またもや荒波が襲う。

「リーマンショック後、人材事業が伸びないので売却するか撤退するかとなって、今の代表が前身の会社から人材事業を買い取って独立しました。けれど本当に仕事がないんだという窮地に立たされました」

(上)2010年 33歳「就活個別指導塾」立ち上げ、採用責任者を兼務。初年度から黒字に!(中)2014年 37歳執行役員(現任)、PR・採用戦略本部長(下)2016年 39歳IT人材事業本部長

オフィスは麹町の立派なビルから渋谷の小さなビルに移転。「転職失敗? と後悔しました(笑)」

逆境の中で小幡さんが立ち上げたのが、学生向けの「就活個別指導塾」。エントリーシートの添削をしたり、グループディスカッションのトレーニングをしたりして、内定までもっていく有料サービスだ。初年度から約250人を集客し、99%が希望企業に内定した実績が口コミで広がり、新事業はすぐに黒字化した。

安定すると必ず次の仕事が……

ところが2年ほどして、トップから「就活塾はやめ、会社のブランディング変更に注力してくれ」との指令。人材一本の会社からゲームやITサービスもつくれる会社に変え、社名も変更するというのだ。順調に成長する就活塾をネットで広げていきたいと思っていた矢先だったが、やるしかない。

「エンジニアが勉強や交流する場として『21cafe』を設けたり、セブ島で英語とプログラミングを半年学んだ後にギークスに入社できる『geechs camp』を始めました」

最初はスキルのない人をエンジニアとして雇用し、フリーランスのベテランエンジニアと組みあわせてプロジェクトに入れ、ゲームやITサービスをつくりこんだ。

「徐々に、エンジニアを希望する求職者が集まるようになってきました」

安定しそうになると、また悪魔のささやきが……。トップから「そろそろ違うことやりたくない?」と言われ、「やりたくないですよ」と答えながらも、2016年からIT人材事業本部長に。今度は昔から続けてきたフリーランスエンジニアを企業に紹介するビジネスの成長を任されたのだ。

いい意味で体育会系の勢いのある営業組織を、時代に合わせてアイデアで勝負できる営業組織に変えるのが小幡さんの役割。新本部長はブランディングを変えた人物だから何をするかわからないという警戒心をもつメンバーに対し、1人ずつ面談を重ねた。みんな危機感は持っていたが、「どうしたらいいかわからないので、変えてください」と人頼みだった。小幡さんは「あなたたちが変えるのよ」と当事者意識を植えつけた。

Favorite Item●半年に1度、自分の部下たちに手紙を書くため、レターセットは常備。メンバーからもらった誕生日カードは宝物。

「さらなる拡大を期待される中、今までの方法だけでは限界がありました。マーケティング思考で考える組織に変えていきました」

どんな状況もいとわず、目の前の課題に集中し突破してきた小幡さん。中学生のころ、白血病で「余命3カ月」と宣告された過去がある。回復したとき「後悔のない人生を送ろう」と心に決めたそうだ。

今後やりたいことは「社員がもっと誇りをもって働けるようにすること」と、エンジニアの「フリーランスという働き方を世の中にもっと広めること」。

ようやくIT人材事業も落ち着いてきて、少し余裕も出てきた。となると、また……。

▼役員の素顔に迫るQ&A
Q.好きなことば
無駄な1日。それは笑いのない日である(チャップリン)
Q.ストレス発散
家族(夫、愛犬ハッチ)と戯れる。おいしいものを食べる、飲む
Q. 趣味
テニス、ネイル
Q.愛読書
『BLUE GIANT』(石塚真一著)