いつもケガをしている怪しい人
堀江さんが「失敗」の2文字から思い出すのは、いつも同じシーンだ。
「もう20年も前のことです。電車とホームの隙間に落ちかけたんです。目の前に乗客の靴が見えていました。宙づり状態になったところを駅員さんと乗客に引っ張り上げてもらいました」
アクセンチュアに入社して4~5年のころ。経営コンサルティングを担当する部門に異動し、働くのが楽しく、仕事120%の毎日。そんなとき珍事が起きた。
「ボーっとしていたんでしょうね。引っ張り上げられて、もう1度電車の中に押し込められたから一層恥ずかしかった(笑)」
この一件だけでなく、当時は転んで足の靱帯(じんたい)を伸ばす、階段から滑り落ちてケガをする、ぎっくり腰になるなど、ツイていないことが度重なった。仕事はしっかりとやっているのに、周りからは「いつもケガをしている怪しい人」と見られていたとか。
仕事とプライベートのバランスが悪いのではないかと考え、お茶やゴルフなどの趣味をはじめて意識的に均衡を取って厄を払った。
仕事と昇進は順調だった。コンサルタントとして商社、通信、ハイテク、製造、金融など、さまざまな業界を担当、入社7年目でマネジャーに昇進。金融業界に携わったときは、上司から「セールスもやってみたら」と促され、さらに仕事の幅を広げた。
「私に営業が向いていると思ったんでしょうね。始めてみると、すごく楽しかった」
2007年、マネジングディレクター(経営幹部、以下MD)に昇進するときには、上司から「本格的に営業中心にやってみないか」と言われ、少し悩んだ。営業中心になると、顧客をほったらかしにする気がしたからだ。結局、新規開拓しながら、クライアント業務の責任者として特定の顧客を継続的に担当する「クライアント・アカウント・リード」も担うことで落ち着いた。
社内の問題児との格闘
14年からは、I&D(インクルージョン&ダイバーシティ)を統括する役目も加わる。外国人やLGBT、障がい者も含めたダイバーシティだが、女性活用が最大のテーマだった。外資系でも働いているのは日本人。昔ながらの男女の役割意識が残っていた。
「女性はこういう仕事がいいんじゃないかとあてがわれる仕事が、男性の補佐的役割のことが多く、評価が低くなりがちなのです」
さらに評価者の大半が男性だから、女性の評価が下振れ傾向に。「どうして女性の評価が低いの?」と聞くと、ある男性評価者からは「女性は体力がなくて男ほど働けないから評価できない」と言われたことも。また、男性の「優しさという名のずるい作戦」にてこずったこともある。「女性がそういう仕事をやるのは大変でしょ。お子さんもいるのに」と。
そんなことがあるたび、堀江さんは「本人の希望をちゃんと聞いてください」と言い続けた。
「あまりに頑固な人は問題児リストにのせました(笑)。逆に、女性活用が進んでいる組織の長はめちゃめちゃ褒めましたけど」
1人で頑張ってもラチが明かないと思ったときは、あらためて多様性推進のメッセージを社長に発信してもらう、グローバルから“外圧”をかけてもらうといったことも。さまざまな取り組みの結果、一昨年あたりから評価・昇進が男女平等になってきた。
今までのキャリアを振り返りながら、クライアントにも上司にも「恵まれていたな」と思う。
「日本は女性活用が遅れていたから、グローバルの金融担当トップが気にかけてくれたり、日本の上司が向いている仕事を振ってくれたり。幸運でしたね」
頼れる後ろ盾が陰に日向に支えてくれた。だから堀江さんが女性活用を進めるときも男性たちは面と向かって文句を言ってはこなかった。それが「ちょっと失敗だったかな」と反省するときがある。
「昇進したある女性が『女性枠だから』とけなされ、私の知らないところで心を痛めていたと、後で知ったんです。そこまで思い至らなかったのは脇が甘かった」
それでもダイバーシティの流れは変わらない。堀江さんがMDになったとき女性としては2人目で、前の女性との間に9年ほど空いていた。だから自分の後は続くようにと願った。
「役職候補の女性が十分に成長機会を得ているかモニタリングする制度を整備し、また、いろんな組織を確認しながら、『そろそろ彼女はいいんじゃない』なんて後押しすることもあります。最近は女性が積極的になってきたこともあり、女性MDが増えてきました」
堀江さんが活躍する姿も後進の力になっているだろう。
Q. 好きなことば
清流に間断なし
Q. ストレス発散
ピラティス、水泳などの運動
Q. 趣味
ゴルフ、茶道(師範、準教授)
Q. 愛読書
『人間はどこまでチンパンジーか?』ジャレド・ダイアモンド(著)