働く女性にとって、「転勤」は悩ましい問題です。自分の転勤だけでなく、パートナーの転勤も、人生に大きなインパクトを与えます。転勤という仕組みに物申したい4人の女性に集まってもらい、座談会を実施しました。「望まない転勤」をなくすには、どうすれいいのでしょうか――。
尾崎さん●メーカーにて専門職として勤務。関西に住む祖母や母の介護のことを考え、関西の企業への転職を検討中。
橋本さん●小売業に従事。独身。これまで6店舗を転々とし、今は東京本社勤務。温泉やキャンプなど地方ライフを満喫してきた。
矢部さん●外資系メーカーにて営業職として勤務。現在一人で小さな子どもを育てているので、転勤で環境が変わることが不安。
転勤先で保育園が見つかるかが不安
【橋本】私は東日本の6店舗を半年から1年で次々と変わってきましたが、父が転勤族だったので引っ越しは慣れっこ。それほど抵抗はありません。どこにいっても、すぐに飲み友だちができますし(笑)。結婚し、子どもができたらわかりませんが……。
【矢部】私は一人で小さな子どもを育てています。一番心配なのが子どもの預け先ですね。転勤の多い職種なので不安です。
【木下】20代後半から30代前半の同僚を見ていて、保育園探しが大変だなと思います。
【矢部】そうですね。東京で何カ所も回ってやっと満足できるところを見つけたのに、転勤先でも見つかるだろうかと思います。転勤の話は突然です。1週間で住むところを見つけてと。
【橋本】1週間、2週間ですよね。
【尾崎】うちもです。私は近いうちに転勤か転職で地元の関西に戻りたいと思っています。実家に母と祖母がいて、長女だから面倒見なくてはいけないかなと。祖母は100歳を超えていますから。
【一同】おお! 100歳!
【尾崎】ビジネスだと東京にいたほうがいいのはわかっています。でも関西は暮らしやすい。家賃もとても安いんです。大阪の中心部でも月に4万~5万円。東京で同じ条件のところを探せば12万~13万円します。ただ、給料は低い。転職したら年収が東京より100万円くらい落ちます。
【橋本】今お金の話が出ましたが、うちの会社はマネジャー以上になると転勤しない地域職も選べます。ただ、月給が5万円くらい低くなります。加えて地域職社員には本人の希望だからと住宅手当も出ないので、さらに差は広がります。転勤しながらキャリアアップできる会社なので、転勤にポジティブではありますが。
【尾崎】転勤がキャリアアップになるのはすごい! うちは人がいないから、マンネリになるからという理由で異動させます。
望まない転勤をなくす方法は?
【橋本】転勤しない地域職を選んでも大きな仕事はできると思います。実際、仕事の評価が高くて生活も楽しんでいるママ社員やお孫さんがいるおばあちゃん店長がいます。
【木下】転勤して出世していくというのが「昭和の価値観」なのかもしれないですね。いまだに男性が家計を支えることをベースにあらゆる制度が設計されていて、それが改まっていない。保険や年金も全部そうじゃないかな。でも、いろんな家族があってもうそんな時代ではないのだから、国は制度設計を考え直してほしいですね。
【矢部】最近、私の会社はオンライン会議が多くなってきました。大阪の人とオンラインでミーティングするとか、上司との面談とかもオンラインで可能です。もっとテレビ会議などのシステムが発達すれば、転勤ありきではなくなってくるのかなって思います。
【尾崎】あと10年もすればITの発達で、望まない転勤はゼロに近くなるかも。ライフスタイルを守りましょう、ダイバーシティを進めましょうという流れはもっと強くなると思いますから。うちの会社でも最近、町の活性化も含めて地域で仕事のできる人を求めるようになりました。
【橋本】私も地方に転勤したとき町おこしをしようとする人たちと出会え、良いコミュニティーがつくれました。将来、一緒に何かできそうです。それに近場で温泉やキャンプが楽しめるのも地方のいいところ。理想は東京と地方にいくつか拠点をもって、季節ごとに移動する生活です。
【一同】それはいい。
【木下】近ごろお会いするコンサルタントの方たちの中には、地方に住んでいて自宅をオフィスにし、必要のあるときだけ東京に出てきて仕事をする人が増えています。
【橋本】これからは会社勤めではなく、働く場所も会社と個人で取り決める時代になるのではないかと思いますね。
「転勤の問題」について下記により要望いたしますので、よろしくご配意賜りますよう、切にお願い申し上げます。
(1)「イヤイヤ転勤」をなくすよう、企業に指示を出してください
時期や場所、キャリアプランなどを見据えた計画的で前向きな転勤になるよう企業の理解と体制づくりを推進してください。
(2)転勤して出世する昭和の価値観を捨ててください
保険や年金などの国の制度は、男性が家計を支える古い価値観が前提。転勤して出世するというのも昭和の価値観です。国が新しい制度設計を進めれば転勤の在り方も変わります。
以上 座談会参加者 一同
ジャーナリスト 中野円佳さんからの提言
▼不必要に頻繁な転勤や、社内婚夫婦が同じ県内で働けないルールは見直しを
働く女性にとって自分またはパートナーの転勤は悩ましい問題です。地域が変わることで働き手に広い視野や多様な経験をもたらす可能性はあります。ただ、頻繁な転勤は専業主婦の支えを前提とした高度経済成長期の産物。共働き夫婦では互いの仕事をどうするか、子育て中は保育園や学校をどうするか、悩みが山ほど出てきます。
配偶者の転勤には、帯同している間は休職できる企業、一度退職しても再雇用する制度などを設ける企業が増えています。従来多かった男性の単身赴任や夫の転勤への妻子帯同以外にも、女性の単身赴任、母子赴任(逆もあるでしょう)、妻の転勤に夫と子が帯同するなどさまざまなケースが増えており、手当の出し方や引っ越しの時期を配慮する企業も出ています。
しかし、こうした制度があってもなお、家族が振り回される実態はあります。それは、転勤があまりにも「予測できない」ことに起因していると思います。転勤があるのかないのか、いつどこに何年いくのか。何カ月前に知ることができて、場合によって断ることができるのか。人生を揺るがす転換点が不透明だと、転勤が実際に発生する前からキャリア設計や子どもの教育計画さえも立てにくくなってしまいます。
転勤が嫌なら地域限定職を選ぶという手段もあります。ただ、ある金融機関では地域職の給与を全国転勤の9割で設定していますが、実際は8割程度になっているそうです。昇進にも差がついているからです。「転勤ありを選んでいる以上、有無を言わせない」と覚悟を迫るのではなく、本人の希望や展望を踏まえた転勤が増えることを願います。不必要に頻繁な転勤や社内婚夫婦が同じ県内で働けないというルールがある企業もあり、もう少し家族の生活に配慮が広がるといいと思います。