去る7月24日、総務省などが中心となり、900超の企業や自治体で、約6万3000人が在宅勤務などのテレワークを行う「テレワーク・デイ」が実施された。
損害保険ジャパン日本興亜(損保ジャパン)では、全日本空輸(ANA)と連携し、ANAの社員が損保ジャパン内でテレワーク業務を行い、その業務効率化による空き時間で、相互の会社の施設見学を行うイベントを開催した。
東京都では部長クラスが在宅で定例幹部会を行うなど、1000人規模でテレワークを実施。カルビーは、東京・丸の内本社勤務の従業員約250人が在宅勤務をした。
2020年7月24日は東京オリンピック開会式の日だ。通勤での交通渋滞を避けるため、国では、今年からこの日をテレワーク・デイと定めて積極的に在宅勤務などを推進していく。12年のロンドンオリンピックでも同様の取り組みが成功している。
テレワークは情報通信機器を活用した場所や時間にとらわれない働き方のこと。働き方改革の一環として、介護や育児などと両立する手段として、導入が進む。グループウエアやクラウドによる情報共有、勤怠管理、ウェブ会議の実現など、ICTの技術向上も一役買う。
通信機器の充実だけではない。たとえば、パソナでは国内の30カ所程度の営業所を「サテライトオフィス」と位置づけ、自宅近くや、営業先近くのサテライトオフィスでの業務で、移動時間を削減し、長時間労働の解消に努める。
中小企業へ広がり、地方創生にも
働き方改革のコンサルティングを多数請け負い、総務省テレワークマネジャーでもある合同会社ジョイン代表の家田佳代子さんは、テレワークのメリットとして「ワーク・ライフ・バランスの実現、通勤ストレスからの解放」を挙げる。企業側は、生産性の向上、コストの削減に加え、テレワークありと募集時に提示すると、ない場合に比べ2倍以上の応募があるため、優秀な社員の獲得にもつながるという。
家田さんは導入のハードルとして、情報セキュリティの確保、人事評価、労務管理の適正化、インフラの導入・運用コストを挙げる。導入の前に、目的を定め、どの範囲でテレワークをするのかを明確にし、社内制度を整えなければ、テレワークは機能しない。まずは現状の社内業務の効率化や社内の意識・制度改革が必要な企業が多いだろう。
また、対面コミュニケーションが希薄になるという欠点もある。しかし家田さんは、そもそも導入前に、上司・部下、関係各所のしっかりしたコミュニケーションが確立されていないという意味での「コミュニケーションの壁」を問題視する。いったんコミュニケーションの壁がなくなれば、会社でも他の場所でもシームレスに仕事ができるというのだ。
このように課題はあるが、オリンピックを契機に急速にテレワーク導入が進み、対策も充実していくと家田さんは見ている。「働き方改革にテレワークの推進が挙げられたため、大手企業の整備は20年までに8割方完了するでしょう。また中小企業からの相談が増えており、こちらでも導入が進むと予想しています」
長野県塩尻市など22の地方自治体では、テレワーク環境を整える地元企業に補助金を出すなど「ふるさとテレワーク」事業を展開。地元に戻る人を支援し、移住を促進する動きも出てきている。
テレワークは時間も場所も選ばない働き方の大きな推進力となりそうだ。